<1991年5月>
徳川・松平家の末裔(まつえい)で「殿」といわれたNHKアナ、松平定知。90年6月、主管から一気に特別職局次長へと100人抜きで2階級特進するなど、NHKの顔ともいえるキャスターだった。タクシー運転手を蹴る事件を起こしたのは91年のことだ。
5月24日深夜。世田谷から渋谷に向かう個人タクシーの中で、松平は備え付けられた運転手個人の自動車電話を勝手に使い始めた。それだけでもヒンシュクものだが、電話は12~13分もつながらず、カチャカチャやり続けたという。見るに見かねた運転手が代わりにかけたところ、電話はつながった。ところが、松平は「出ないや」と言って受話器を一度置き、もう一度かけようとした。
そこで運転手が「無駄じゃないですか」と言うと、松平の態度が豹変(ひょうへん)した。「オレが電話するのにテメエなんかにとやかく言われる覚えはない」と怒鳴り、革靴を履いた足でいきなり左頬を蹴ったという。運転手が「何をするんですか」と言うと、さらに受話器で頭を殴った。