北の屋根八甲田山を望む青森県青森市。
善知鳥神社は古墳時代からこの地に鎮座する社です。
明治時代の終わり近くで生まれた世界的な芸術家が子供の頃に境内でよく遊んでいました。
その人の口癖です。
作品を板の画…板画と表現しました。
また作品を柵と呼びます。
巡礼者が願いを込める札と同じように作品に念願をかけるという思いから。
青森の風土を愛した板画家です。
その作品だけを集めた記念館へ。
市の中心地から車で10分ほどです。
今年開館40周年を迎えたおよそ700点の収蔵品のなかに志功と故郷青森を深く結びつける作品が。
いたるところに不思議な文様が刻まれています。
赤い背景の中にうごめくのは人?では板画家棟方志功の世界へ。
今日の一枚…。
幅1メートル40センチ高さ1メートルあまり。
彩色された木版画です。
白い手足に白い顔。
2体の人らしき姿。
画面上半分にいるのは女性のように見えます。
下半分にいるのは髭面の男性かもしれません。
その頭上では動物でしょうか?なにやらいわくありげにこちらを。
全身には不思議な文様が刻まれています。
画面いっぱいに横たわる姿いったい何を表現したのでしょうか?そして背景の赤。
志功がこれほどまでに赤で塗りこめた作品はありません。
そこには特別な意味が込められていそうです。
棟方志功は明治36年青森市の鍛冶職人の家に生まれました。
油絵画家になる志を抱いて上京。
しかしなかなか芽が出ず西洋の模倣ではうまくいかないと感じます。
そのとき尊敬するゴッホのある絵が浮かびました。
視力が弱く顔をこすりつけるように版木と向き合い一心不乱に彫る。
そこから生み出される独特な板画。
やがて志功は世界のムナカタとして広く知られるようになります。
一方で60歳を過ぎてからは毎年夏に故郷青森へ帰りました。
その頃制作したのが『飛神の柵』です。
実は当初この板画の題名は御志羅とはなんでしょうか?手がかりは東北の地に伝わる奇妙な物語にあります。
《故郷のタウン誌に就職して1か月半。
初めて1人で取材をさせてもらえることになった。
でも地域の伝統や風習の特集なんて…やれやれ。
ホントはグルメ巡りやエステリポートとかしたかったのにな〜》あ〜気持いいこんにちは。
よろしくお願いいたします。
《古い話を聞いてこいって結局お茶飲み相手ってことでしょ?》《あ〜あ憂うつになってきた》おしら様?人の名前ですか?そうですか。
すみません。
まだ『遠野物語』を読んでいなくて。
《うわ〜やばい。
最初からつまずいた。
しかも話長そう》えっ…『遠野物語』と棟方志功ですか。
えっ馬と姫様がですか?《いきなり衝撃的な展開ね。
この先どうなるの?》今日の一枚『飛神の柵』。
この板画には長年語り継がれてきた故郷の民話や素朴な信仰への思いが秘められているようです。
積年の望郷の思いが溢れたのかもしれません。
志功が魂を込めた一枚は多くの謎に満ちています。
民話おしら様と板画飛神の関係とは…。
背景に塗り込めた鮮烈な赤。
その赤に秘めた思いとはいったい…。
20代半ばから板画家の道を歩み始めた棟方志功。
世界のムナカタへと押し上げる原動力になったのが…。
1日1枚一気に彫り上げました。
サンパウロとヴェネツィアの国際版画展でグランプリを受賞し一躍世界的に認められたのです。
その姿は伝統的な木版画の繊細な線とは異なる太く粗い線で大胆なポーズです。
今日の一枚『飛神の柵』も荒々しさと大胆さは共通しています。
更にこの作品にはそれまでにはなかった志功の強い思いが隠されていたのです。
《青森に伝わるおしら様の民話は予想外の話だった。
昔長者の姫君にあろうことか飼っていた名馬が恋をしてしまう。
長者は怒り狂いその名馬を殺して皮を剥ぎ取ったというのです》いやぁグロ…。
《不憫に思った姫が供養に行くと干されていた馬の皮は姫を包み天高く舞い上がってしまったという》その白い虫って何ですか?そうなんですか。
《じゃあこの棟方志功の板画は姫君と名馬が昇天したところ?おしら様ってこんな姿だったのかしら?》青森市内にある県立郷土館におしら様がいます。
家々で古くから神様として祀られていたものです。
長さ30センチくらいの桑の木の棒に馬と女性の姿を刻みオセンダクと呼ばれる赤やピンクの布を頭から着せた2体1対の神様。
そのおしら様について不思議な言い伝えがあるそうです。
というふうな言い方をよく聞いたことがあります。
それで飛神なんですね。
弘前市にある久渡寺はおしら様信仰を今に伝えるお寺です。
雪解けの4月になると日頃お世話になっているおしら様の労をねぎらい護摩をたいて供養しています。
この日だけはおしら様を晴れ着や冠で着飾るんだそうです。
今日の一枚『飛神の柵』はおしら様の物語を題材にしたものです。
こちらは名馬と相思相愛になった姫。
ということは下にいるのがその相手の名馬。
人の姿を借りた神様だったのです。
姫の頬に光るのは昇天して結ばれた喜びの涙でしょうか。
志功は空を仲よく飛ぶ姫と名馬の姿を彫りました。
更におしら様となった2体の全身を覆う文様にも特別な思いが込められています。
青森は縄文文化が栄えた地域です。
その文化の文様を刻み土偶を思わせる体に彫ることで青森ならではの神様の姿にしました。
そしてお気づきでしょうか?画面全体から発する強烈な色彩のコントラスト。
黒い体と白い顔。
それを包み込む鮮やかな赤。
実はこの赤の世界こそが志功の思い描く青森の原風景だといわれています。
果たしてそれは…。
その原風景を求めて青森のある名人の仕事場へおじゃましました。
何を作っているのかわかりますか?そうです。
青森の夏の夜を彩るねぶたです。
名人の称号を持つねぶた職人の千葉さんにこだわりの色について聞きました。
ねぶたの場合は…。
それで赤をですねとして使ってるような気がするんですよ。
300万人以上が訪れるねぶた祭り。
志功は60歳を過ぎてから望郷の思いを募らせ毎年祭りの渦の中へ。
ねぶたの力強い色彩を全身に浴びていたのです。
志功の伝記『鬼が来た』の著者長部日出雄さんは…。
志功は『飛神の柵』でこれまでにないほど赤を強烈に使っています。
それは故郷青森を称える色でした。
ねぶた祭りのほとばしる赤いエネルギーを全身に浴びたことが家々に幸せをもたらすおしら様の赤を呼び覚ますことになったのかもしれません。
まさに志功にとって赤は特別な色だったのです。
《棟方志功は青森の民話や信仰を求めこの絵を描いた。
でもそれだけなんだろうか?そもそもどうして『飛神の柵』を彫ろうと考えたのだろう?この板画を作った年ってどんな年だったんだろう?昭和43年の頃の他の作品はっと…》万博!?『飛神の柵』を制作した年志功のもとに別の大作の依頼が来ていました。
しかも世界の人々が注目する絶好の機会です。
そこに『飛神の柵』が作られた動機もありました。
それは何か…。
昭和40年代棟方志功は世界的に著名な人物となっていました。
極東のアバンギャルドな板画家。
アメリカでの実技講演は日本語のスピーチながら大盛況だったそうです。
その頃大阪万博への出品の依頼が来ます。
昭和45年大阪で開催された万国博覧会。
世界中からおよそ6,400万人が訪れました。
このとき日本民芸館に展示されたのが志功の…。
人類と神々が交流する壮大な世界を描きアバンギャルドな板画をアピールしました。
『大世界の柵』の制作に取りかかっていた昭和43年。
志功の中で万博への機運が高まっていました。
その年に誕生したのが今日の一枚『飛神の柵』。
万博は世界の人々が日本を注目する絶好のチャンス。
この好機に故郷青森のすばらしさをアピールしたいと思い立ったのです。
そこで青森に古くから語り継がれている素朴な信仰の物語を題材にします。
背景の色には青森を表す鮮烈な赤。
画面いっぱいに体をくねらす神々。
日本人の原点ともいえる縄文文化を示す文様をその体に彫り込みました。
志功はこの作品で青森を世界に発信するだけでなく棟方芸術を育ててくれたことへの恩返しをしたいと考えたのです。
そして『飛神の柵』とともにたびたび海を渡りました。
志功亡き今もこの魂の板画は世界の人々に青森の情熱と日本の心を伝え続けています。
《前略同郷の棟方志功様。
あなたが制作した『飛神の柵』を拝見しました。
正直驚きました。
くすんだ色と思っていた昔話が急に色鮮やかな物語に感じています。
もっといろんな民話にふれてみたいな。
もうすぐ夏です。
熱気に満ちた赤が美しいねぶた祭りの夏です》『飛神の柵』完成から7年後の昭和50年。
志功は永遠の眠りにつきました。
故郷青森に建てたお墓はあのゴッホの墓碑と同じ形。
生前から決めていたそうです。
今はご夫婦で安らかに眠っています。
展示室の広さは志功の希望によるものです。
青森の人々へ惜しみなく愛情をそそぎました。
情熱を燃やす故郷を世界へ。
棟方志功作『飛神の柵』。
赤き魂の一枚。
とある喫茶店。
ある人物の話題で盛り上がる学生たち。
2015/05/23(土) 22:00〜22:30
テレビ大阪1
美の巨人たち 棟方志功『飛神の柵』大胆な赤き世界に込められた志功の強い思いとは[字]
毎回一つの作品にスポットを当て、そこに秘められたドラマや謎を探る美術エンターテインメント番組。今日の作品は、青森の風土を愛した版画家、棟方志功作『飛神の柵』。
詳細情報
番組内容
今日の作品は、世界的版画家、棟方志功作『飛神の柵』。夏になると故郷・青森へ戻るようになったという60歳頃に制作された木版画です。注目すべきは背景。志功の作品でこれほどまでに赤で塗り込めた作品はありません。その鮮烈な赤には、彼のある強い思いが…。さらに作品には長年語り継がれてきた故郷の民話や、素朴な信仰心が隠されていたのです。青森を愛した志功だからこそ生まれた、荒々しく大胆な赤き世界の謎に迫ります。
ナレーター
小林薫
蒼井優
音楽
<オープニング&エンディングテーマ>
辻井伸行
ホームページ
http://www.tv-tokyo.co.jp/kyojin/
ジャンル :
趣味/教育 – 音楽・美術・工芸
ドキュメンタリー/教養 – カルチャー・伝統文化
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