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【神奈川】

白梅学徒隊 悲劇後世に 川崎の映画監督・黒川さん 

朗読劇を制作した黒川さん=横浜市中区で

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 太平洋戦争末期の1945年3〜6月、18万人以上が犠牲となった沖縄戦から70年。映画監督の黒川礼人さん(46)=川崎市多摩区=は、56人が所属し、22人が死亡した「白梅(しらうめ)学徒隊」の体験を伝えようと、朗読劇「白梅学徒看護隊の青春」を制作した。 (志村彰太)

 原作は白梅学徒隊の同窓会が二十年前に出版した証言録「平和への道しるべ」。黒川さんは証言録から十五人分を抜粋し、二時間の台本に仕上げた。沖縄戦に巻き込まれた民間人の状況を全体としてとらえつつ、被害の悲惨さを伝えられるようにしたという。

 黒川さんは日本映画学校(川崎市麻生区)で学び、卒業前に黒沢明監督の「夢」制作に関わった。その後、フリーランスで映画制作に携わり、近年では人気ゲーム「信長の野望」の演出を手掛けるなど多岐にわたって活動している。

 白梅学徒隊のことは、二十年前に映画「GAMA 月桃の花」制作で沖縄を訪問した際に知った。「被害に遭ったのは、ひめゆり学徒隊だけじゃないのか」。その残酷な体験と、学徒隊が所属していた県立第二高等女学校の卒業式が終戦の三十五年後にようやく行われた事実を知り、「このことを広く知らせたい」と考えるようになった。

 証言録は二千部の限定出版だったが、運良く入手できた。戦後七十年の節目を前にした昨年九月から制作を始め、旧知の劇団「一の会」に上演を依頼した。

 「白梅学徒隊」のことは「本当は映像にしたかった」という。予算上の都合から証言を読み上げる朗読劇にし、その分、現実感を出そうと腐心した。出演者には現役の声優をそろえ、沖縄戦を知ってもらうため、膨大な資料や映画を渡して勉強してもらった。上演前には沖縄戦のことを知らない出演者もいたが、最後には自分のことのように証言録を読み、暗記していった。

 構成は、女子学生が白梅学徒隊が所属していた第二四師団に入り、隊員から暴力を交えた指導を受ける場面から始まる。徐々に砲撃が激しくなり、ある女子学生は「腹部貫通で腸が背中から飛び出している」。さらに状況が悪化すると、「パン、パン、パン、と手りゅう弾のさく裂する音が聞こえた。自決しているのでは…。海水に無数の死体がプカプカ浮かんでいた」などと、出演者が鬼気迫る表情と声色で訴える。

 四月下旬〜五月上旬、都内で限定上演すると、大きな反響が寄せられた。沖縄出身の観客の一人は「本当は私たちが伝えるべきなのに、ありがとう」と感謝してくれたという。

 追加公演を求められることもあるが、資金面や出演者の調整などの問題から難しいという。証言録の入手から二十年をへて劇を制作したことで「一つの目的は達成した」と黒川さん。一方、「学徒隊の皆さんの思いを語り継ぐ意味では、まだ終わっていない。むしろ、新しい使命が始まった感じ」とも。黒川さんは、次の制作に向けて動きだしている。

 

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