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【政治】

「歴史が証明」根拠なし 首相、戦争巻き込まれ論否定 

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 他国を武力で守る集団的自衛権の行使と地球規模で米軍などを支援する安全保障関連法案をめぐり、安倍晋三首相は「(日本が)戦争に巻き込まれることは絶対にあり得ない」と断言する。その理由の一つとして1960年の日米安全保障条約改定時の戦争巻き込まれ論を挙げ、「間違っていたことは歴史が証明している」と繰り返す。だが、当時の自衛隊活動は日本が攻撃された場合のみ反撃することに限定されており、米軍支援も認めていなかった。前提が大きく違っていて、首相発言に根拠はない。 (吉田昌平)

 「戦争に巻き込まれる危険があるということは、間違っている」。安保改定論議が行われた五十五年前の国会で、安倍首相の祖父である岸信介氏はこう繰り返していた。

 安保改定は日本が攻撃された場合、米国が共同防衛する代わりに、米軍が日本国内の基地を使用するのを認める内容。当時、国内では軍事同盟強化で、日本が米国の戦争に巻き込まれるとの反対運動が強まった。

 ただ条約改定以降も、自衛隊が戦争に巻き込まれたことはない。安倍首相の発言の根拠はこの事実のみで、二十日の党首討論でも「歴史が証明している」と巻き込まれ論を否定した。

 しかし、岸氏は当時の国会論争で、戦争に巻き込まれない理由を「(日本の)領土外に出て実力を行使することはあり得ない」と説明。条約改定に基づく自衛隊活動は日本が侵略を受けた際の「個別的自衛権の範囲内」と強調した。

 安保法案では集団的自衛権の行使だけでなく、日本の安全と直接影響がない紛争などで軍事行動する他国軍への支援も盛り込む。いずれも当時は想定になかった海外派遣だ。

 安倍首相は戦争に巻き込まれない根拠として、新たな武力行使の三要件を挙げ「外国の領土に上陸し、戦闘行為を目的に武力行使はしない」などと強調する。しかし、菅義偉(すがよしひで)官房長官は二十二日の記者会見で、新三要件を満たせば外国領土での武力行動は「憲法上の理論としては許されないわけではない」と認めた。

 日本が他国を武力攻撃すれば反撃される可能性は高まるし、自衛隊が米軍に弾薬を提供することで、報復される可能性は否定できない。

◆リスク当然高まる

 元内閣法制局長官・阪田雅裕弁護士の話 日米安保改定時は米軍が日本に駐留することで、日本が攻撃を受けるリスクが高まるという懸念だった。今回は積極的に自衛隊が海外に出ていって、米軍を支援しようという話。集団的自衛権は自分が攻撃国になることを意味する。日本が報復を受けるリスクがあり、同じような次元の話ではない。巻き込まれ論というが受け身のリスクではなく、自らより踏み込んでリスクを背負いにいこうということだから、リスクは当然高まる。

 

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