社説:少年法適用年齢 性急な見直しは疑問だ

毎日新聞 2015年04月20日 02時35分

 少年法の適用年齢引き下げをめぐる議論が自民党の特命委員会で本格化してきた。選挙で投票できる年齢の18歳以上への引き下げにあわせ、「20歳未満」の少年法の適用を「18歳未満」に引き下げるかが焦点だ。

 少年犯罪について、処罰よりも矯正や教育に重きをおく少年法は、非行少年の立ち直りに一定の役割を果たしてきた。だが、川崎の中1男子殺害事件を受け、見直しを求める声が党内で強まっている。5月中に提言をとりまとめるという。

 法や運用に問題点があるとすればどこなのか。少年保護の理念にかかわるだけに、丁寧に検討するのが筋だ。見直しありきで性急に事を進めるのは疑問だ。

 こうした議論の背景には、特に20歳に近い年長少年の犯罪に社会が厳しい目を向ける現実がある。少年犯罪だからといって被害者感情が薄らぐわけではない。犯罪の形態にかかわらず、少年法の規定に守られ、逮捕されても名前などが報道されないことへの違和感も強いようだ。

 警察白書によると、少年犯罪は増えていない。刑法を犯し検挙された少年の割合は1980年代をピークに減少傾向で、殺人など凶悪事件の検挙人数もピーク時の半分以下だ。

 経済格差の拡大に伴う貧困や虐待、いじめがきっかけで犯罪に走る例が多いのが今日的な傾向である。

 少年法に伴う保護処分の過程では、家庭裁判所や保護観察所が成育歴に踏み込んで調査をし、少年の立ち直りを手助けする。少年保護の実務に携わる専門家は、今の時代ゆえ現行制度が欠かせないと強調する。

 一方で、少年事件は原則非公開で審理が進められ実態が見えにくい。刑事処分は否定されておらず、重大事件は大人と同じ法廷で裁かれるが、そうした実情が広く社会に理解されていないのは確かだ。

 少年法は、97年の神戸連続児童殺傷事件、2004年の長崎県佐世保市の小6女児殺害事件など、世間の耳目を集めた事件を契機に厳罰化の方向で法改正が進められてきた。

 適用年齢引き下げは、過去の法改正よりはるかに影響が大きい。投票できる年齢が下がるから自動的に下げるという発想で見直すべき問題ではない。

 少年院などで保護処分を受けた少年の再犯率は約25%との調査がある。刑務所で刑事罰を受けた人の再犯率(4割台)よりかなり低く、更生教育は一定の効果が認められる。18、19歳を少年法の適用から外せばこの効果が得られず、社会にはマイナスになるとの指摘もある。

 自民党にとどまらず、広く国民が理解を共有すべきテーマだ。あらゆる面から時間をかけて検討してもらいたい。

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