社説:法曹養成 人数より将来像を示せ
毎日新聞 2015年05月23日 02時30分
現状を踏まえれば、当初目標の半減は仕方ないだろう。
政府は司法試験の合格者について、「年1500人程度」を当面、毎年維持するとの案をまとめた。
弁護士の需要の大幅な増加などを見込み、政府は2002年、司法試験合格者数について「年間3000人程度」(10年時点)との目標を閣議決定した。
だが、法科大学院出身者の合格率が伸びず、弁護士の就職難も重なった。法律家を目指す人たちが減ってしまい、司法が魅力を失っている。
政府は7月にも人数案を正式決定する見通しだ。肝心なのは法科大学院の立て直し、さらには国民にとって使い勝手のよい司法制度をどう描くかだ。
日本社会が規制緩和を進めれば競争が激化して紛争が増え、法曹需要も増すと想定された。人材確保のための法科大学院創設は司法改革の要だった。法科大学院は04年に開設されたが、74校が乱立して教育水準の格差が目立つ。文部科学省が合格率の低い学校の補助金削減に乗り出し、20校以上が募集停止を公表した。
法曹を目指す学生が質の高い教育を受けるため、一定の淘汰(とうた)は当然だ。大学院側は、他校との提携や統合を進めるなど一層の努力が必要だ。
司法修習(1年間)の給費制が廃止されたこともあり、たとえ司法試験に合格しても、法科大学院時代の授業料と合わせ、相当の借金を抱える人が増えている。こうしたことが法律家人気の低迷につながっているとすれば、それも懸念材料だ。
弁護士法1条は「基本的人権の擁護と社会正義の実現」を使命として掲げる。金持ちでなければ法曹を目指せないのでは困る。社会人など多様な経験をした人材の確保も進んでいない。修習生への支援や、社会人を多く受け入れる大学院への補助金の増額実現に向けて、政府は検討を進めてほしい。
裁判の数などが当初の想定通り増えていないのは事実だ。ただし、調停や審判など裁判外で紛争を解決する需要は近年増えている。
高齢化や貧困化に伴って、法的な支援が必要な分野は広がるとみられる。労働トラブルやストーカー事件といった今日的な課題もある。
国民へのアンケートからは、紛争はあるが、費用面などで弁護士に依頼するのは不安が残るとして、敷居の高さを挙げる人が少なくない。弁護士会は、一般市民が利用しやすい体制づくりを進める必要がある。
政府も努力が求められる。弁護士が都市部に集中するのは、地方に裁判官が常駐していないのも一因といえる。地方でも十分な司法サービスが受けられる環境整備をすべきだ。