ほかの図書館では閲覧可能なのに...? 国会図書館が閲覧禁止にする「児童ポルノ」を追う
筆者が、児童ポルノ法改定問題と共に取材を続けて来たのが、国会図書館が「児童ポルノ」とする書籍を閲覧禁止にしている問題だ。2005年以降、国会図書館では「児童ポルノ」とされる蔵書について閲覧・複写を制限すると共に、検索からも排除する措置を取っている。
国会図書館がこういう措置をとっているのは、法務省から閲覧・複写が提供罪に該当するとの指摘を受けたことだ。
とはいえ、ここでまず一つ問題がある。国会図書館が閲覧制限を行っているものが、ほかの図書館では問題なく、閲覧・複写できるのである。
また、今回の改定における答弁の中で「既に死んでいる児童が被写体」のものは該当しないという答弁もあった。さらには、少々強引かも知れぬが学術や報道目的での所持は認められているのに、閲覧すら制限しているのは国民に奉仕すべき国会図書館の任務を忘れているような気もする。
正直、研究・報道目的であっても閲覧を制限することによって「国会図書館の判断する児童ポルノとは、こういうものだ」ということを知る権利すら、奪われている。
過去、国会図書館の閲覧禁止処分をめぐって争われた事件としては、2008年にジャーナリストの斎藤貴男氏が日本国内で米兵及びその家族らが犯罪を犯した際の扱いなどを定めた 「合衆国軍隊構成員等に対する刑事裁判権関係実務資料」 (1972年法務省作成)の閲覧を拒否されたために起こした事例がある。この事件では、裁判中に国会図書館側が方針を変更したために、現在は閲覧可能になっている。
これまでさまざま調べてみたが、閲覧禁止を求めて争った裁判はあまり例がない。前例が在日米軍をめぐる問題の蔵書だったのに、次は「児童ポルノ」というのもアレな感じだが、訴訟をするべき意義はありそうだ。
けれども、特に国会図書館に恨みがあるわけでもない。なので、まずは事前に話し合いをと思って、取材を兼ねた依頼を送ってみた。
少々、長文だがすべて掲載してみよう。
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取材趣旨
今般、お話をお伺いしたいのは国立国会図書館にて2005年以降に閲覧制限をしている「児童ポルノ」にあたる蔵書に関するものです。
現状行っている閲覧・複写の制限。検索からの削除に関しては昨年8月に情報公開請求を行い、資料を頂きましたので経過及び内規については存じております。しかしながら「児童ポルノ」にあたる蔵書の決定過程については公開されておりますが、書誌データに関しては非公開とされております。理由としては「被写体となった児童の人権への配慮は言うまでもなく、全国のほかの図書館で同様の措置が取られることを期待するものではないこと、出版社等の過剰な自主規制等を促す目的ではないこと、利用制限措置が決定された資料であっても、概ね3年ごとに再審査(見直し)を行った上で利用制限延長の要否を決定していること等が挙げられる」「本件書誌情報を一覧できる形で公表することにより、さまざまな介入を招き、利用制限措置の要否に関する意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれがある」というご回答を頂いております。
レファレンス担当にも確認させて頂きましたが、利用者に提供できる形で閲覧禁止にしている蔵書のリストはないとの回答を得ております。それに加えて書誌情報を公開しないということは、国民が「児童ポルノ」とは、どういうものであるかを知ることもできず妥当性を欠くのではないかと考えております。
また、閲覧禁止の蔵書に含まれていると思われる写真集についてですが、これらの中には刊行当時に週刊誌などに写真が転載されたものも多く含まれています。国会図書館が閲覧禁止措置を行った理由として、法務省から児童ポルノ法の定める提供罪に抵触する可能性を指摘されたことがあったのは存じております。そのため、国会図書館ではこうした雑誌についても、部分的に閲覧制限を取られていると思います。ところが、これらの雑誌について、ほかの図書館で確認してみたところ、閲覧はもちろんのこと複写も問題なく行うことができました(現状、大宅壮一文庫、東京大学情報学環図書室で確認しております)。
この時点で、提供罪が成立していると思います。これについては、昨年11月に私が執筆しておりますネット媒体にて記事にしております。
参照:http://www.cyzo.com/2013/11/post_15045.html
既に半年以上、誰にでも閲覧できる状態で提供罪が行われている様子を公開しておりますが、今もって大宅壮一文庫や東京大学に警察からの捜査が入ったという話は聞きません。この点で既に国会図書館の閲覧禁止は実効性に疑問を感じざるを得ません。
また、本6月18日に国会にて児童ポルノ法改定案が成立しました。この第三条では「この法律の適用に当たっては、学術研究、文化芸術活動、報道等に関する国民の権利及び自由を不当に侵害しないように留意し、児童に対する性的搾取及び性的虐待から児童を保護しその権利を擁護するとの本来の目的を逸脱して他の目的のためにこれを濫用するようなことがあってはならない」と定められております。この条文に基づけば、(私の利用目的である)報道目的で閲覧を請求した場合には、提供罪には該当しないと考えております。
加えて、6月17日の参議院法務委員会での同法の審議において民主党の小川敏夫議員の「既に死んでいる、あるいは死体は児童ポルノに該当するのか」という質問に対して発議者から「規制対象となる児童が生存していることが条件である」との回答が出ております。つまり「児童ポルノ」に該当するには、被写体となっている児童が現状、生存していることが確認されなければならないと考えられます。この点で昨年、情報公開請求にて頂きました資料における各蔵書を児童ポルノと判断した理由は不十分なものとなっていると理解しております。
こうした点を含めまして、国会図書館としては今後も閲覧禁止を継続していくつもりなのか、継続するならば法律の改正をどう解釈しているのかご意見をお伺いしたいというのが、今回の取材の趣旨でございます。
また、今後も閲覧禁止を継続されるということであれば、閲覧禁止取り消しを求める訴訟を提起する予定で、既に準備を行っておる次第です。もしも、国会図書館が立場上、閲覧禁止を解除せざるを得ないという状況であれば、やむを得ないと思いますが、国会図書館に対して含むところがあるものではございません。ですので、その点についても事前に協議が行えれば幸いに存じます。
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これを送ったところ、すぐにメールで返答があった。
メールによると、「お尋ねいただいた「閲覧禁止」の継続につきましては、今回の法改正が利用制限措置に及ぼす影響を国会審議の内容等により精査した上、判断する予定です」(※編集部が改行、段落を調整)とのことだった。
国会図書館では3年に一度を目処に閲覧禁止にしているのが正当かどうかの見直しを行っているようだが、これだと定期的な会合の範疇で行うのか否かがよくわからない。その点を、電話で尋ねてみたところ、改めてメールが来た。
「午前中はお電話をいただきありがとうございました。その際にいただいたご質問について、担当に確認いたしました。
判断時期については、改正法の施行を一つの目途と考えていますが、検討状況によっては大幅に遅れることもあります。また、定期的な場で判断を行うのかというお尋ねもいただきましたが、この点については未定です。」
(※編集部が改行、段落を調整)
つまり、現状なにも決まっていないようだが、面会等の依頼は完全にスルーされたようである。
というわけで、まずは開館中にレファレンスに出向いて「閲覧禁止にしている児童ポルノを閲覧したい」といって断られる儀式もやる必要がありそうだ。
訴訟をやるにしても、費用もなにも目処がたっていない。亀の歩みのようになりそうだが、逐次本サイトで報告していく。
(取材・文/昼間 たかし)