非道な国際犯罪の犠牲を防ぐ観点からは、極めて不十分だと言わざるを得ない。

 政府は、過激派組織「イスラム国」(IS)による邦人人質事件への対応を検証した報告書を公表した。

 首相官邸や外務省、警察庁などの担当者による検証に有識者の意見が加味された報告書は、「政府による判断や措置に人質の救出の可能性を損ねるような誤りがあったとは言えない」と結論づけた。

 ただ、結論にいたるまでの個別対応の詳細は明らかにされていない。被害者のプライバシーや、他国との情報交換の中身を明かすことができない事情はあるだろう。それでも、45ページの報告書の記述はあまりに抽象的だ。これを読む限りでは、結論の当否を判断することはできず、責任のありかも不明だ。

 その最たるところが国会でも問題になった1月17日の安倍首相のカイロでの演説だ。

 首相は「ISIL(ISの別称)と闘う周辺各国を支援する」と述べ、難民支援などに2億ドルの拠出を表明。ISは20日、これを批判し、2億ドルを要求する映像を公開した。

 報告書は「スピーチの案文については、様々な観点から検討した」としたうえで、「ISは自らに都合よく様々な主張を行うが、スピーチの内容・表現には問題がなかった」と結論づけている。

 政府はこの時点で、ISが2人の邦人を拘束している可能性は「排除されない」との認識だったという。確かにISの脅迫は事実をねじ曲げた言いがかりだ。とはいえ、首相がISを名指ししたことへのリアクションをどこまで検討したのか、問題がないと判断した根拠は何だったのかは全く不明確だ。

 安倍首相ら多くの政治家がかかわった事件である。有識者を交えても、官僚による検証には限界がある。また、報告には米国の対テロ戦争支援以来の日本と中東の関係についての歴史的な考察も欠けている。

 これらの点を補うためにも、国会による検証内容の精査は不可欠だ。秘密保全の手立てを講じてでも、もっと詳細な情報を明らかにすべきだ。

 気がかりなのは、報告がこれからの検討課題として、情報収集・分析能力の強化とともに、危険地域への渡航の抑制を挙げていることだ。

 無謀な渡航はもちろん慎まなければならない。ただ、民間による報道や人道支援には意義がある。おしなべて規制する方向に進むべきではない。