2015年5月16日土曜日

沙門空海唐の国にて鬼と宴す

書名⇒ 沙門空海唐の国にて鬼と宴す

著者⇒ 夢枕獏

出版社⇒ 徳間書店

分類⇒ 文学(伝奇小説)

感想⇒  真言宗の開祖・空海を主人公にした小説というと正統派の歴史小説を思ってしまいますが、本書は著者の空想力が最大に活かされたエンタメ系伝奇小説となっています。
本書の内容は、遣唐使の留学僧として唐の国に渡った若き修行僧・空海が、官人の橘逸勢と共に妖しの事件に挑んでゆくという物語で、中国の史実とも関わる壮大な作品です。
物語は著者の脚色によるものですが、歴史上の人物との関わりをうまく使っていると感じます。
また、空海と橘逸勢は、『陰陽師』シリーズにおける安倍晴明と源博雅のような関係のようで、橘逸勢が頼りない人物として描かれているところがご愛嬌という感じがしますね。
面白さの中心は何といっても妖しに対して空海が呪術で対決する場面が最大の見どころでした。

また、楊貴妃の物語のところでは、年老いた楊貴妃の姿に思わず憐憫の情を感じたほどで、人生の盛衰に感情移入してしまう物語でした。
本書は全4巻の大作で、私は実は2009年1月から読み始めたんですが、途中他の本を読んでたりしてたので、全4巻読み終えるのに6年半近くもかかってしまいました。
全4巻もある話なので、正直、途中で中だるみするような感じも受けましたが、読み終えて、エンタメ小説として読み応えのある作品だったと思いました。

















2015年4月13日月曜日

愛する人達

書名⇒ 愛する人達

著者⇒ 川端康成

出版社⇒ 新潮社

分類⇒ 文学(恋愛小説)


感想⇒ 川端康成の文学を端的に表現するならば、「美しい文学」という言葉に尽きると思います。
そして美しい日本語で紡がれているその文体の特徴は淡々とした文章表現にあり、物語を客観的に淡々と述べてゆくところに、この作家の持ち味があり、それがまた味わい深い文体になっていると言えます。
エンタメ系ではない純文学だから当たり前とは言えますが、大仰な表現や感情を過度に熱くするような書き方ではなく、その淡々とした中に人間関係の機微がうまく表現されていて、文学の名人・達人の技がさりげなく表わされていると感じられます。

本書の短篇集にはさまざまな形の愛の物語が描かれていますが、いずれも美しい文章によって表現されていて、どこまでも美しさの読後感が余韻として残る作品でした。
ただ、こういう正統派の美しい純文学ばかり読んでいると物足りなさを感じてしまいますが、斜に構えたような書き方の作品の合間に読むとひときわ新鮮に感じるものです。




2015年2月28日土曜日

夢野久作全集 8

書名⇒ 夢野久作全集 8

著者⇒ 夢野久作

出版社⇒ 筑摩書房

分類⇒ 文学(心理小説)

感想⇒ 夢野久作は異端文学者として知る人ぞ知る存在で、これまで何作か読んだことがありますが、その真髄がよく解らないでいました。 特に以前に当ブログに書いた『ドグラ・マグラ』は長大な物語であるだけに混沌とした感想しかなく、その真髄というものがよく理解できないでいましたが、今回読んだ本書は、人間の深層心理と狂気を描いたマニアックな文学が、短編によって最も効果的に表現されていて、心惹かれる内容となっています。
例えば『一足お先に』『狂人は笑う』『キチガイ地獄』には饒舌体による1人語りが自在に駆使されていましたし、『冗談に殺す』では人間心理に潜む狂気が、『木魂(すだま)』ではスティーブン・キングにも通じるようなオカルト的な味わいに心をつかまれ、そして『少女地獄』の中の3編(『何んでも無い』『殺人リレー』『火星の女』)に登場してくる少女たちに秘められた心の底にある狂気と脅迫観念による自滅と破局が無残とも異様とも表現できる印象を与えていました。
やはり夢野久作は長編・大作よりも、本書のような短編に最もその才能が遺憾なく発揮されるようで、その物語世界に引き込まれていったものです。
この著者は江戸川乱歩と相通じるような雰囲気があり、それが魅力になっているとも言えます。




夢野久作全集 8

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2015年1月11日日曜日

親鸞

書名⇒ 親鸞

著者⇒ 吉川英治

出版社⇒ 講談社

分類⇒ 文学(歴史小説)

感想⇒ 久々のブログ更新になりますが、本年もよろしくお願いいたします。
  今回は浄土真宗の開祖・親鸞の半生を描いた巨匠・吉川英治の歴史小説の感想になります。
私は今まで親鸞にはほとんど関心がなかったのですが、本書を読んでその人物像や生きざまに少し興味を持つようになりました。
もちろんそれは吉川英治の描写力によるところが大きいと思いますし、本書に描かれていることは作者の創作によるところも多いと思いますが、権力欲に溺れて堕落していた当時の既成仏教の現状を憂えて、迷妄と苦悩の中にいる民衆の心の救いを真剣に模索していた親鸞のその真摯な生き方には共感しました。

確かに法然や親鸞の思想は虐げられていた下層の民衆を社会体制として現実に救うというところまでいかなったのであり、単に気休めと諦めの思想でしかないという批判もありますが、社会体制改革の実現が難しかった時代には、気休めや諦めの思想と批判されても、親鸞のような心の救いとしての思想が必要だったのではないかと思えます。
そのような親鸞の純粋な心情と生きざまを、卓越した美文と表現力で描き切った吉川英治の文学には、心を動かされる読後感を持ちました。
















2014年11月11日火曜日

家族シネマ

書名⇒ 家族シネマ

著者⇒ 柳美里

出版社⇒ 講談社

分類⇒ 文学(私小説)

感想⇒ この著者の作品について司馬遼太郎は「研ぎ澄まされた文章」と評価したそうですが、確かにナイフのような鋭さのある文章です。
また、「詩的」とも評されているように、その文章には冗長さがなく、ナイフで切り刻んだような短い文によって表現されていて読み進める度に疾走感が伝わってきます。

そんな文章によって書かれたこの小説は、すでに崩壊している家族がかりそめの幸せな家族をカメラの前で演じるという喜劇とも悲劇ともつかない家族の虚像を炙り出していて、いかにも現代社会を活写した作品だと言えます。

私は本作品をそれなりに評価していますが、 ただ、ネットで本書のレビューを見ると、拒否反応を示す感想が多かったですね。本書は芥川賞を受賞していますが、受賞作としてふさわしくないという意見も書かれてありました。
確かに現代的な軽文学とでも言えそうな軽い感じの小説ですし、また、レビューにもありましたが、著者が演劇をやっていただけに、喧騒に満ちた舞台の芝居のような展開でもあり、このような面に拒否反応を示す人も多いのかもしれません。
それでも私は、村上春樹の『多崎つくる』よりは本書の方が文章表現も優れているし内容も面白いと思ってますので、この作品を評価します。





【中古】 家族シネマ / 柳美里

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2014年10月27日月曜日

中原中也詩集

書名⇒ 中原中也詩集

著者⇒ 中原中也

出版社⇒ 新潮社

分類⇒ 文学(詩集)

 感想⇒ 私が中原中也の詩として最初に知ったのは、『汚れちまった悲しみに……』という詩です。
「汚れちまった悲しみに/今日も小雪の降りかかる/汚れちまった悲しみに/今日も風さえ吹きすぎる」と続くこの詩の鮮烈さに私は惹きつけられたものです。

詩の魅力とは、余計な文章をそぎ落とした短文の中に情景や心情を凝縮して表現しているところにあり、そこに心打たれ惹きつけられるのです。
文章表現を凝縮して組み立てる詩こそ文学の中の文学と言えるのではないかと思います。
 ただ、短い文章に凝縮する詩には状況説明文がないだけに、なかなか難解な表現になっているものも多く、本詩集にも理解できない内容のものもありますが、詩とは論理的に読み解くものではなく感じるものだと思いますし、心の琴線に触れたものに共感したり感動したりするのでしょう。
本作品がそういう作品だと言えます。