ASBJは19日、リサーチ・ペーパー第1号「のれんの償却に関するリサーチ」というものを公表しました。

［ASBJ］リサーチ・ペーパー第1号「のれんの償却に関するリサーチ」の公表


リサーチの趣旨は「のれんの会計処理のあり方に関する国際的な議論に貢献するため」とのこと。

ASBJは、EFRAG、OICと共同で、のれんお会計処理・開示等のリサーチをしており、2014年7月にディスカッション・ペーパー「のれんはなお償却しなくてよいか―のれんの会計処理及び開示」を共同で公表しましたが、今回はASBJ単独のリサーチのようです。国際的な発言力を高めたいという想いがあるのでしょう。

ASBJは「のれん償却必要説」を指示していますので（本ペーパー7項参照）、本リサーチも「のれん償却は必要である」という結論に持っていきたいのだろうと、読む前から想像できます。


では、どういうリサーチをしたのか。

第10項に、以下の4つのリサーチを実施したと書かれています。
(a) 日本基準におけるのれんの償却期間についての現在の実務に関して、公開されている開示情報のレビュー（株価が JPX 日経インデックス400に参照されている上場企業の年次財務報告書の開示をレビューすることによって）
(b) のれんの償却に関する実務についての質問票をわが国の大手上場企業の一部に送付
(c) 「減損のみのアプローチ」と「償却及び減損アプローチ」との比較及び企業の超過収益力が消失する期間を調査した学術文献の限定的なレビューの実施
(d) のれんの償却についての見解に関するわが国の財務諸表利用者との議論

つまり、
(a) 財務諸表を分析して、「のれん償却は必要である」という結論にもっていきたい
(b) 上場企業のアンケート結果から、「のれん償却は必要である」という結論にもっていきたい
(c) 文献を分析して、「のれん償却は必要である」という結論にもっていきたい
(d) 財務諸表利用者にインタビューして、「のれん償却は必要である」という結論にもっていきたい
という思惑が見えてきます。

で、リサーチの結果はどうだったのかというと、(a) 〜(d) のいずれにおいても、「のれん償却は必要である」という結論を導くことはできなかった模様。

(c) の文献分析については、「減損のみのアプローチの方が償却及び減損アプローチよりお優れていると結論を下すことは、少なくとも、困難であると考えた」（40項）という書き方をしておりますが、逆にいえば、のれん償却必要性（償却及び減損アプローチ）の方が、のれん償却不要説（減損のみのアプローチ）より優れいているという結論にもっていくことはできなかったということでしょう。

(d) の財務諸表利用者にインタビューについては、「結果は、利用者の過半数が、償却及び減損アプローチに対する支持を表明していることを示していた」（44項）という書き方をしておりますが、これは、JMISにおいてのれん非償却するという案に同意するかどうかというアンケート結果に対する結果であると思われ（付録-�校仮函法△里譴鷭�却必要性を支持するかどうかということの結果と同じとはいえないと思いますし、JMISののれん非償却についても半数近くの方が同意していないという結果についてはもう少しきちんと向き合うべきではないかと思います。

(b) の上場企業のアンケート結果については、のれんの償却期間が、大半の企業で「5年」「10年」「20年」のいずれであり（24項）、信頼性をもって見積もることができない場合は「5年」に設定しているという会社も少なくない（23項）という結果でした。のれん償却が必要だとしても、償却期間の決定に不確実性や恣意性があるわけで（つまり、簡単に利益を操作できるわけで）、この辺りもきちんと向き合うべきではないかと思います。

ということで、のれん償却不要説（減損のみのアプローチ）より、のれん償却必要性（償却及び減損アプローチ）の方が優れているという理由を導き出すことができていませんが、財務諸表作成者の実態などを掴めることができたという意味では参考になるペーパーでした。