「追い込み漁」は、イルカを生きたまま捕まえる伝統的な漁法だ。日本では和歌山県太地町で行われている。

 その追い込み漁で捕まえたイルカを今後購入しないと、日本動物園水族館協会が決めた。世界動物園水族館協会から「追い込み漁は残酷」と非難され、世界協会の会員資格の停止を突きつけられての方針転換である。

 日本協会の新方針は、加盟する約150の動物園と水族館の投票で決まった。世界協会のネットワークからはじかれると希少動物の確保が難しくなる。日本協会の会員のうち、イルカを飼育する水族館は5分の1強にとどまる。そんな事情が投票結果につながったようだ。

 日本協会は「追い込み漁を否定しているわけではない。どこが残酷なのか、世界協会からは回答がないままだ」と言う。ただ、海外を中心にイルカ漁に厳しい目が向けられているのも事実だ。新方針に沿った対応を急がねばならない。

 まず、イルカの人工繁殖に本格的に取り組むこと。そして、官民あげてイルカ漁に理解を得る努力を重ねることだ。

 イルカの捕獲が禁止されている米国では、水族館のイルカの7割が人工繁殖だが、日本は1割余。日本協会も「購入しやすい分、人工繁殖の努力が足りなかったかもしれない」と話す。

 イルカの寿命は長く、人工繁殖に切り替える時間はありそうだ。ただ、専用の設備などに費用がかさむため、小さな水族館では取り組みが難しい。実績のある水族館を中心に連携し、行政も支援を考えてほしい。

 2年ほど前の統計によると、日本からは年間100頭近いイルカが輸出されており、その多くは飼育用と見られる。国内の水族館による購入頭数の5倍前後だ。漁業者の協力を得て、輸出も控えていくべきだろう。

 世界協会の強硬姿勢の背景には、国際的な反捕鯨団体の働きかけがある。イルカとクジラは生物学的に違いはなく、太地町のイルカ漁も沿岸小型捕鯨とともに反対運動に直面してきた。

 これらの小型鯨類漁業は国際捕鯨委員会の規制の枠外にあるが、国や県が関与して捕獲数を制限し、種の保存に努めている。地域の歴史や文化、生活と結びついていることと合わせて、粘り強く訴えていきたい。

 欧米では、野生の生物を捕まえて飼い、ショーをすることを否定する動きが広がりつつあるという。動物園や水族館が生物保護の拠点としての役割を強め、伝統的な生業には理解を求める。そんな戦略が必要だ。