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 ■火山学会、規制委の審査基準を疑問視

 火山の巨大噴火が原発を襲う可能性は本当に低いのか――。日本火山学会が原子力規制委員会の噴火リスクについての審査基準を見直すよう提言するなど、巨大噴火への備えが問い直されている。安全対策をめぐる疑問は、北海道電力が再稼働をめざす泊原発(泊村)にも向けられている。

 ■学会「兆候把握、難しい」

 大量のマグマが噴き出して鍋底のようなカルデラ地形ができるのが巨大噴火。高温の火山ガスと火山灰を含む火砕流が一気に流れ広がる。日本列島では「1万年に1回程度起きてきた」とされ、最近の巨大噴火は7300年前という。

 規制委の審査は原発から半径160キロ圏内の火山についてリスク評価を課した。泊原発の南東約55キロに洞爺カルデラがある。約11万年前に大規模噴火があり、カルデラ湖(洞爺湖)を形成した、とされる。

 火山のリスク評価は東京電力福島第一原発事故を教訓にした。「火砕流や溶岩流といった設計対応が不可能な火山事象が原発に到達する可能性が十分小さいか」を問い、到達する可能性があれば「立地不適」。火砕流などが過去に原発に到達していれば火山活動の観測を続け、「兆候」があれば対処を求めた。

 同学会の提言は昨年11月にまとまった。「巨大噴火は観測事例がなく、現在の火山学では兆候をつかむことが難しい」との立場で、審査基準はその認識が不十分、と示唆した。

 火山学者らがまず疑問視したのは周囲に複数のカルデラ地形がある九州電力川内原発1、2号機の審査だ。九電は過去の噴火で火砕流が原発敷地に届いた可能性を認めたが、「稼働期間中に巨大噴火が起きる可能性は十分小さい」。観測で前兆をとらえたら運転を止めて核燃料を運び出す、とした。規制委は昨年9月、九電の見解を「妥当」と結論づけた。

 これを受けた同学会で審査のあり方が問われた。静岡大学防災総合センターの小山真人教授は、巨大噴火の兆候を把握する難しさに言及。「カルデラ噴火が発生する可能性をどのような数値基準で『十分小さい』と判断するかが示されていない」などと批判した。

 ■北電「火砕流、届かない」

 泊原発の火山対策について、北電は規制委の審査で「洞爺カルデラでは現在、地殻変動の兆候がない。マグマが蓄積してきた、との報告もない」と説明。「泊原発の稼働期間中に巨大噴火が起きる可能性は十分小さい」と繰り返している。

 北電は洞爺カルデラの巨大噴火で20立方キロメートルの火砕流が噴出した、と説明。泊原発の南東10キロの共和町幌似地区に火砕流が到達したとしたが、「泊原発の敷地には火砕流が到達した形跡がない」。近くの丘陵地が火砕流を防ぐ障壁となり得る、とした。

 規制委はこれまでの審査で北電の見解を大筋で了承する方向だが、火山学者ら専門家は首をかしげる。

 日本火山学会の会長を務めた宇井忠英・北海道大名誉教授は「カルデラ噴火が一度だけで終わる保証はない」と指摘する。「火砕流は新幹線並みの速さ。丘陵地だけでなく山の尾根も越え、100キロ以上も流れ広がった事例がある」と、火砕流が泊原発に達しなかったとの北電の説明を疑問視する。火砕流の噴出量もカルデラの大きさなどから「もっと多い」とみる。

 火山噴出物研究の第一人者で、泊原発周辺の地質を調査した町田洋・都立大名誉教授も同じ見方だ。「火砕流は、溶岩流とは違って山から平野を覆うように流れる性質がある。(かつては丘陵地だった)泊原発の敷地で痕跡が見つからないのはその後、浸食されたからではないか」と続けた。

 小山教授は巨大噴火の前兆を把握できなかった万一の事態を想定、「原発が火砕流で破壊された場合の汚染状況と被害を見積もっておくべきだ」と指摘する。

 一方、北電は「原発がどこまで火砕流に耐えられるか」についても「評価はしていない」。「火砕流が泊原発に到達することはない」からだ、という。

 (綱島洋一)