クローズアップ現代「地方自治はどこへ〜“大阪都構想”が問いかけたもの〜」 2015.05.19


きのう大阪市で行われた住民投票。
僅か1万票差で反対が多数となりました。
問われたのは橋下市長が打ち出した大阪都構想。
大阪市を廃止して二重行政を解消。
強い大阪を作ると訴えました。

大阪都構想が目指したのは東京一極集中の打破。
今、全国の都市でも自治体の枠組みを変えることで地域を活性化しようという模索が広がっています。

大阪都構想は何を問いかけたのか。
地域の活力を取り戻すには何が必要なのか考えます。

こんばんは。
「クローズアップ現代」です。
大阪府と大阪市が抱える多額の借金合わせて11兆円。
互いに競い合うように高層ビルを建てて失敗したり交通網の連携が不十分で利便性が悪かったり。
二重行政の弊害が繰り返し指摘されてきました。
少子高齢化で増えることが予想されている社会保障費。
商業都市・大阪市の地盤沈下をいかに食い止めるかも大きな課題です。
こうした中できのう大阪市の将来の姿を問う住民投票が行われました。
むだをなくし、どうすれば大阪を活性化できるのか。
橋下市長は大阪市を解体して大阪府の下に権限と財源を集中させる大阪都構想の実現を目指していましたが1万票という僅差で否決されました。
有権者は大阪市の存続を選択したわけですが大阪で繰り広げられた論戦は人口50万人以上の政令指定都市とより高域な自治体である道府県との関係の在り方を見直そうという大きなうねりの表れです。
橋下市長が解消を訴えてきた二重行政は大阪市に限ったものではなく横浜、京都などの政令指定都市でも今活発に議論されています。
大阪市は市の解体を住民に問いましたが逆に政令指定都市の権限と財源を強化し事実上、道府県からの自立を目指す動きも出てきています。
背景にあるのが人や企業が東京に集中する傾向です。
多くの地方で人口減少が続いています。
人口の減少や社会保障費の増大などの逆風の中地域の中核となるべき政令指定都市はどうしたら地方の産業育成雇用創出の拠点という役割を果たしていけるのか。
初めにきのう否決された大阪都構想です。

住民投票で大阪市を廃止することを柱とした大阪都構想の実現を訴えた橋下徹市長。
大阪の発展のためには大阪府と大阪市の二重行政を解消することが必要だと訴えてきました。

橋下氏は、府と市が共に大きな権限を持ち都市開発などを別々に主導してきたことを問題視してきました。
例えばおよそ20年前国際的なビジネス拠点を目指して府と市が別々に建てた高層ビル。
その後、経済状況の悪化を受け破綻しました。
7年前に大阪府の知事に就任した橋下氏はこうしたむだの根底には二重行政があるとして改革に着手。
そこで打ち出したのが大阪都構想でした。
これまで都市整備や交通網の整備など広域行政は府と市で別々に行ってきました。
それを府に一元化します。
大阪市の一般財源8500億円のうちおよそ2300億円も府に移ります。
これにより、府の主導で高速道路や鉄道を整備。
大阪全体の発展を目指すとしました。
一方、高齢者福祉や子育て支援などの身近な住民サービスは東京23区をモデルにした5つの特別区が担います。
区長や区議会議員は選挙で選びより住民の声が届きやすくなるとしました。
大阪都構想に期待を寄せた企業の経営者もいます。
家電製品や自動車部品などの金型を1万分の1ミリ単位で磨く工場です。
社長の橋本裕之さんです。
リーマンショックを境に地元の取り引き先からの注文が激減。
今では仕事の9割は大阪以外から受けています。

大阪都構想によって地域の経済が活性化すれば受注が増えるのではないかと橋本社長は期待しました。

賛否をなかなか決められない人もいました。
今井友記子さんです。

共働きをしながら2人の子どもを育てています。
大阪全体の発展を目指すという都構想の理念には共感しているものの気がかりなことがありました。
特別区の設置には区役所を新たに建てるなどおよそ600億円のコストがかかると市の説明会で聞いたのです。
橋下氏はむだを減らすことなどでコストは回収できると説明していましたが確信を持てずにいました。

投票日が迫る中、今井さんは両親の意見を聞きました。

大阪市を潰すな!大阪市を潰すな!
橋下市長と対立する各党はこぞって反対を表明しました。
二重行政は府と市で連携して解消できると主張。
さらに大阪市の財源が府に移されることは市民にとっては損失であり住民サービスも低下すると訴えたのです。

反対の声は特に高齢者の間で広がっていました。

大垣純一さんです。
生まれも育ちも大阪市。
10年前から町内会長を務めています。
大垣さんはこれまで地域で暮らすお年寄りを支えようと市の補助金を使ってさまざまな活動を行ってきました。

市が廃止されればこうした地域活動への補助金が減るのではないかと心配していました。
これまで大阪市は税収などを充てて一律の住民サービスを行ってきました。
ところが5つに分割すると特別区ごとに収入に差が出ます。
大垣さんが住む場所は湾岸区に入ります。
企業が少なく、税収なども一番少なくなります。
都構想では住民サービスに足りない分は府から配分するとしました。
しかし大垣さんは税収が少ない区に将来にわたって十分な配分がされる保証はないと不安を感じていました。

そしてきのう。
結果は賛成69万票反対70万票。
僅か1万票の差で大阪都構想は否決されました。

今夜のゲストは、岩手県知事や、総務大臣を歴任された経験を持っていらっしゃいます、東京大学大学院客員教授の増田寛也さんです。
大阪市の存続が決まったわけですけれども、この都構想に賛成という意思表明をされた方が49%超えていました。
結果、どう受け止められるべきだとお考えですか?
私は本当に結果はね、一緒だったと、もう本当のちょっとの差ですからね、多くの人たちが、やはり橋下さんが訴えた、二重行政を解消して、強い大阪を作ると。
ここはほとんどの人が皆さん、賛成したんじゃないかと思いますね。
ただ、その手法として、大阪市を壊してそれで実現することなのかどうか。
そこが、やっぱり判断の分かれ目であったんではないかと思います。
何が一番問われたんでしょう。
私は、大阪が抱えている問題、東京がこれだけ一極集中して、企業が全部東京のほうに移ってくるほどの、今、大阪の地盤沈下があります。
ですから、大阪の経済をどう活性化するのか、あと、例えば社会保障で、生活保護世帯が非常に急増してます。
こういう身の回りのそういうものをどうしていったらいいのか、そこを本当は、今回、問われたんではないかと思うんですが、それについての論戦ですね、将来の論戦が少し欠けてたようには思いますね。
これで市は今までどおり存続する。
大阪府は大阪府であるということになったわけですけれども、有権者の3分の2の方が投票に実際に行かれた、府の職員、市の職員は、どのように受け止めていると思いますか?
その3分の2の投票率っていうのは、非常に高い数字です。
それだけ、皆さんの関心が高かった。
結局、制度は今までどおり続くんですけれども、だから今までどおり行政をしていいということでは、決してなくて、やっぱりむだはいろいろ多いわけですよね。
大きな美術館、博物館、先ほどの産業施設もですね、全く同じようなものを、別々に作ってますからね、ですから、それに対しては、すべての市民が非常に厳しい目を向けていると。
今までの行政を、このまま続けていたんではだめだという意思表示も、もう一方で私はあったと思います。
これからどう調整していくのかが、問われるわけですが、大阪で見られた動きというのが、実は政令指定都市、各地でそのより広域な道府県との関係性を見直そうという、一つのうねりが起きているということですけど、なぜ今、こうした政令指定都市と、その府県との間の関係性見直しの動きが強まっているんですか?
私は2つ流れがあると思うんですね。
1つはやはり市町村、その親分的なのが政令市ですが、そこの権限をこれまでずっと強くしてきた。
やはり、政令市ぐらいであれば、自立をしてほしいという、そういう流れと、もう一方で、経済が日本全体として長らくデフレで好調ではない、一方で人口減少もあちこちで起こり出しているという、大きな環境の変化ですね、これに対して、ずっと日本の自治制度というのは、長らく戦後から続いてまして、もうそろそろ制度疲労というか、金属疲労が出てきているんではないか、もう1回そこを見直したらいいんではないかというふうに、やっぱり誰しも考えてきているということがあると思います。
その分権の流れで、政令指定都市の権限を強めてきた、その強めてきた中に、さらにもっと、自分たちの権限や財政を強めたいという方向が強まっていると考えていいわけですか?
政令市ですから、やはりいろんな福祉を、せめてこれだけ経済がその中で、地域の拠点になってますので、自分たちで税収もそれなりに持ってますので、やっていきたいという思いは、政令市の市町村、持っていると思うんですよね。
ですから、私も政令市であれば、もっともっと自立して、いろんな行政を展開するという方向はあっていいと思いますね。
それがどういうビジョンを描くのか、大阪の場合は都構想という方向で、住民投票に問うたわけですけれども、都構想の流れというのは、ほかでも見られるようになるんでしょうか。
恐らく市を潰して、それで上の府ですね、府のほうに吸収をすると、こういう流れっていうのは、たぶんほかはたぶん取らないだろうと。
むしろ、ほかの県よりも、政令市自体がより自立できる方向にしていこうと、こういう大きな流れじゃないかと思うんですが、ただ、本当にそれが政令市単位で考えていいのかどうか、このあたりがこれから問題になってくるんではないかと思いますね。
その今のお話にありました政令指定都市はどこへ向かおうとしているのか。
NHKでは、大阪市以外の19の政令指定都市に、アンケートを行いました。
その結果ですけれども、大阪市のように市の廃止を目指す自治体は0でした。
一方で、市の権限を大幅に増やし、県と府と同等の権限を持つ自治体、特別自治市という構想を検討していると答えた政令指定都市は10に上ったのです。

先週、京都市で行われた政令指定都市の市長会議です。
大都市の課題や今後のあるべき姿について議論が交わされました。

人口371万。
日本最大の政令指定都市・横浜市。
おととし全国に先駆けて特別自治市の計画の大綱をまとめました。
特別自治市とは子育て支援や就労支援など神奈川県と横浜市が横浜市内で別々に行っている業務をすべて横浜市に一元化する構想です。
財源も横浜市に移ります。
現在、横浜市の住民や企業が市に納める市税は7000億円。
すべて横浜市で使われます。
一方、県に納める県税は4600億円。
横浜市のほか別の市町村のためにも使われてきました。
特別自治市の構想ではこの4600億円を横浜市が集めすべて市で使うことになります。
仕事も財源もいわば横浜市が県から独立しようという考えです。
横浜市が特別自治市を目指す背景には大都市が抱える事情があります。

高度経済成長期人口の急増に合わせて整備した道路や橋、学校などが一気に老朽化しているのです。
こうしたインフラの補修にかかる費用は今後20年間で3兆3000億円。
しかし、予算に限りがあるため工事は少しずつ進めざるをえません。
市の財政にさらに追い打ちをかけるのは高齢化による福祉予算の増大です。

今後の高齢化はほかの大都市と比べても突出しています。

しかし実現には課題があります。
特別自治市の設置には法律の改正が必要です。
また神奈川県が横浜市内で集める県税4600億円は県税収入全体の4割にも及ぶため特別自治市の実現には県との調整が不可欠です。

林市長は横浜市がエンジンになって、神奈川県全体、地域全体をリードしていく存在になりたいということで、財源も権限も、もっと集中してほしいという声でしたけれども、この発言を、横浜市周辺の自治体や、あるいは県、神奈川県はどのような思いで聞いているんでしょうか。
周辺の自治体、平塚だとか、それから鎌倉だとか、茅ヶ崎だとかありますが、恐らく横浜に通勤で通っている人たち、横浜の企業で働いている人たちの、ある種、ベッドタウン的な役割を果たしている所も多いと思うんですね。
今はですね、先ほどのVTRにあったように、4600億の税収が、横浜市の企業から県のほうにいって、そこからそういう周辺の自治体のほうにかなり配られて、それが全部、横浜市のほうにまとめていってしまうと、本当に自分たちの必要な税収が確保できるかどうか。
そこがやっぱり不安になるんじゃないかと思いますね。
そもそも県の役割は、何かっていうふうに問われていませんか?
実は今回の問題っていうのは、非常に大きな問いかけがあって、市が一体、政令市がどういうことをやっていけばいいのか、これ、自立の方向だと思うんですが、そのときに、県はじゃあ、一体何をするのか。
県の一番大事な役割の一つは、市どうしの間の財政の格差をこうやって調整をすると、というのは、どうしても林市長の間は不都合なことは私、起こらないと思うけども、しばらく時間がたちますとね、今まで県にいってた税収が、全部市が特別自治市になって、丸取りをすると、どうもそのお金が全部横浜が使っていいというふうに、自分たちの財布じゃないかというふうに思い出すんではないか、やっぱりその周辺の市は、そのあたりをすごく心配すると思いますね。
そうすると、財源の配分をどうするかっていう、また制度設計などが求められてくるのかもしれないですけれども、一方で、ちょっとこちらの日本地図、ご覧いただきたいと思うんですけれども、人口減少がどこで起きてるかを表した都道府県別のグラフで、赤とピンク色の所は人口が増えていて、全部で8つあります。
そのほかの所は人口減少という意味では、政令指定都市が、本当は拠点、本当はエンジンになるべきですよね。
そこはもう間違いなくて、この8つの中でも、じきに人口が減ってくる所が出てくるんで、私も政令市が本当にエンジンになって、そこに今もかなり企業や経済が集中してますから、そこからもっともっと活性化することは、とても大事なことだと思います。
だから、高齢化社会に向けて、きめ細かな行政サービスが求められている。
一方で、産業育成、あるいは雇用創出、その役割を一生懸命、地方の政令指定都市が頑張らなくてはどんどん東京に集まってくることになるわけですよね。
ですから、地方の自治体も、それなりに、特に地方の政令市が努力すべきですが、そのときには政令市だけで考えるんではなくて、周辺の自治体も含めて、例えば、周辺の市が心配な財政調整を、お互いにプールして、何か新たに作る仕組みを考えるとかですね、なんかそういう工夫があってはいいんではないか。
それできめ細かな身近な行政と、それから非常にスケールの大きな行政ですね、経済を活性化する。
海外のグローバル企業と競争する、そのあたりの両方を満たすような制度っていうのを、新たに作る必要がある。
それだけもう私は制度は金属疲労、制度疲労が起きていると思います。
大阪の場合は、どれぐらいの範囲で考えるべきですか?
やはり私は、京都とか兵庫も含めて、あるいは奈良まで含めた大きな所で、関西圏全体としてですね、これから考えていってほしいと思いますね。
きょうはどうもありがとうございました。
2015/05/19(火) 01:00〜01:26
NHK総合1・神戸
クローズアップ現代「地方自治はどこへ〜“大阪都構想”が問いかけたもの〜」[字][再]

きのう住民投票で否決された「大阪都構想」。大阪市を廃止して、東京23区と同じような特別区に再編するかが問われた。住民の判断を追いながら、地方自治のあり方を考える

詳細情報
番組内容
【出演】東京大学大学院客員教授・元総務大臣…増田寛也,【キャスター】国谷裕子
出演者
【出演】東京大学大学院客員教授・元総務大臣…増田寛也,【キャスター】国谷裕子

ジャンル :
ニュース/報道 – 特集・ドキュメント
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事

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