4趣味どきっ! 国宝に会いに行く 第7回「高山寺・明恵上人と“鳥獣人物戯画”」 2015.05.19


味わい深い一品です。
重厚で厳かなたたずまい。
日本美術の粋を集めた宝。
その名は…そんな国宝を軽やかな視点で身近にしてくれる人がいます。
今注目のライター橋本麻里。
国宝ブーム立て役者の一人です。
あの徳川家ゆかりの国宝建築は「デコ」?古都の寺院は平安貴族の「テーマパーク」?黄金に輝く屏風絵で桃山時代にタイムスリップ。
橋本流の切り口で国宝を体感してみましょう。
きっと日本美術が好きになるはず。
東京・上野動物園の猿。
実はこの動物が今日の国宝と関わりがあるんです。
やっぱり猿山は見てるとね「人間と猿って同じなんだな」なんて思ったりするんですよ。
だからたまんないんだけどまた何で動物園なんですか?
(橋本)今日これから見に行く国宝の主役が動物なんですよ。
へえ〜。
なので絵を見る前にリアルな動物を観察してから行こうかなという事で。
そういう事ですか。
近くの動物園に来てみました。
動物観察でウォーミングアップ。
さていよいよお目当ての国宝へと向かいます。
ここは東京国立博物館。
特別展「鳥獣戯画京都高山寺の至宝」が開かれていました。
さあこの先に今日の国宝が待っております。
はい。
うわ〜。
お待ちかねの。
楽しみですね…これ?これです。
ここからです。
うわ〜…。
うわ〜!兎や猿など11種類の生き物が人間のように描かれた絵巻。
代表的な場面を見てみるとまずは水遊び。
兎と猿が川で楽しそうに泳いでいます。
ひしゃくで背中を流したり楽しそう。
こちらは賭弓。
蛙と兎が弓を射って賭け事に興じる様子です。
逃げる猿を兎と蛙が追いかける場面。
にぎやかな声が聞こえてきそうです。
そして兎と蛙の相撲です。
「えいっ!」。
技が決まり兎が投げ飛ばされてしまいました。
これは法会の場面。
僧侶姿の猿がお経を唱えています。
蛙が耳かじってるわ。
あっしかも河津掛けだ。
蛙だけに河津掛けだよ。
相撲の決まり手。
掛けてんじゃない?これ。
ダジャレってるよ。
もう既に日本人お得意の…「鳥獣人物戯画」は甲乙丙丁の4巻から成る絵巻物。
描かれた時代もそれぞれの巻で異なります。
このおなじみのシーンが登場するのは甲巻。
全長およそ12m。
平安時代12世紀後半に描かれたと言われています。
乙巻は麒麟などの空想上の霊獣と牛や馬などの実在する動物がリアルに描かれたいわば動物図鑑のようなもの。
甲巻を参考にしたとされる丙巻。
作者も制作時期も違うと言われています。
甲巻よりもどこかグロテスクです。
丁巻は更に絵のタッチが異なり登場するのは人。
鎌倉時代の作品とされ老若男女が遊ぶ姿が笑いを誘います。
中でも有名な甲巻。
その人気ぶりは日本美術の中でもアイドル的な存在です。
しかしその背景については謎だらけ。
ストーリーさえも分かっていないんです。
多くの場合…それを読めば物語の流れが分かるんですけれどもこれの場合どこにも字がない。
説明がない。
サイレント。
なので…「妄想力」。
妄想を広げる事でここに何が描かれているかストーリーをマキタさん自身が映画監督になった気持ちであるいは登場人物の俳優になった気持ちで考えながら見てほしい想像しながら見てほしいという事なんですよね。
なるほどね。
うんうん…。
僕がディレクションしていいわけだ。
そうそう…。
「謎だらけ」だからこそ魅力が増す不思議な作品。
まずは妄想力を働かせてその謎に迫ります。
その作者について有力な説は2つあります。
宮廷に専属で仕える絵師が描いたという説です。
60巻以上あったと言われます絵巻が作られてたんですがそこから抜き出されたというかそれと重なるような場面が結構あると言われてますね。
平安時代の宮中行事や遊戯を記録した…後白河法皇の命で当時の宮廷絵師が描いたこの絵巻。
その一部を見てみると「鳥獣人物戯画」とよく似たシーンがあります。
平安時代にはやった芸能「田楽」の場面。
踊りに使う小道具が一致します。
こちらは「賭弓」という弓を使った賭け事の場面。
「鳥獣人物戯画」の甲巻にも同じシーンがありましたよね。
それを見てた人かもしれないですね。
あるいはその制作に一部参加していたのか…。
面白いですねそれは。
もう一つは僧侶説。
仏教絵画を専門とする僧侶が関わっていたという説です。
その根拠となる資料の一つが京都・仁和寺に伝わる「薬師十二神将像」。
「白描図像」という墨一色で描かれた仏教絵画です。
「鳥獣人物戯画」に登場する動物の姿もあります。
その謎に答えて下さるのは東京国立博物館の土屋貴裕さんです。
こういうものを描いてた人が「鳥獣戯画」の作者である可能性が高い?これは何か専門的な職業…。
半分はお坊さん。
半分は絵描きさんというような。
もちろんお坊さんでちゃんと知識がなければ仏様の姿描けませんのでそういった知識がある人がこういった図像を描いておりましたのでもしかしたら…はあ〜。
こっちが大本でそこからキャラだけ出して描いたんじゃないかっていう説ですね。
そうですね。
ユーモアのあるお坊さんが描いたんだ。
絵仏師。
だってこれみんな真面目じゃないですか。
仏様のお姿をふざけて描くわけにはいきませんので。
動物の世界にしちゃえばもう自由奔放に描けると。
作者の正体は多くの研究者を悩ませてきた最大のミステリー。
妄想力でさまざまな想像を巡らすのも楽しいですよね。
「鳥獣人物戯画」にはどの場面にも物語の説明がありません。
通常絵巻物は右から左へと物語が展開します。
シーンのつながりからストーリーを読み解く事もできるはずですが甲巻には一部「あれ?」と感じる部分が。
例えばすごろく盤を担ぐ猿たち。
遊びが始まるのかと思いきや次に続くのは法会のシーンです。
よく見て頂くとちょうど「高山寺」というはんこが押してあるんですがここを「紙継ぎ」といいまして絵巻って肩幅サイズの大きさのものをつないでいますので途中で…ちょうど今あそこで終わっている箇所。
あそこでどうも絵が切れているという事が言われています。
あっここでとりあえず…。
「第1話完結」って。
…になってると。
へえ〜。
そうですね。
姿は違ったはずです。
甲巻は23枚の紙をつないで作られています。
そのつなぎ目が剥がれ元とは違う形で修復されたため本来の順番ではなくなっていたのです。
入れ代わったりとか場合によっては抜けちゃったりって事もありえるんですよね?そちらもいくつか確認されています。
その一部を今回の特別展で見る事ができます。
蛙や猿がユニークな格好で行進する断簡。
その背景をよく見ると黒い点々があります。
これを甲巻に描かれている花びらと重ねてみると…。
ぴったりとつながり不自然な絵のつなぎが解消されます。
しかし順番が分かっているのはほんの一部。
シーンのつながりをどう読み解くのかは見る人の妄想力に委ねられます。
今見せて頂いた断簡以外に甲巻の中から抜けた断簡って何点ぐらいあるんですか?今ですねこれと合わせて…4つも抜けてるんだあれ。
そうするとかなり違うものって感じがしますよね。
これは連続する事が分かったんですけれども…当てはまらない。
それはますます謎ですね。
一体何を考えてそんなものを作ったのか。
うそ何それ。
どんどん「ダ・ヴィンチ・コード」っぽく…。
絵というのはかたく縛られないで自由に…。
特に「鳥獣戯画」の場合は自由な発想でご覧頂ければいいのではないかなとは考えます。
「鳥獣人物戯画」の謎を追って2人がやって来たのは…「鳥獣人物戯画」が伝わったお寺です。
気持ちいいですね。
霊的なものを感じますね。
もうそんなの感じてるんですか?何となくこういう参道が…。
実際ここは世界文化遺産には登録されてるお寺なんですね。
鎌倉時代に再興された高山寺。
当時最先端の学問寺として仏教にまつわる書物や美術品がこの寺に集まりました。
ここにあの…「明恵上人」というんですか?合ってます。
明恵上人ですね。
これは何ですか?この方が…まあ「開山堂」というからには開山ってお寺を開いた…つくった人の事なんですけれどその方が明恵上人という方でまさに…その謎を探るため寺で最も重要な建物を訪ねます。
うわ!「ザおもむき」。
すごい。
僧侶たちの学問所として建てられた…改修工事を重ねながらも鎌倉時代の面影を随所に残します。
そちらの景色なんかまさに鎌倉時代のままというか。
これすばらしいですね。
すごい景色ですよね。
この…開口部に切り取られた風景が。
これはいいね〜。
ここで明恵上人は修行をされていたわけです。
修行になったのかなこんなすばらしい所で。
寺には明恵上人の人柄を表す肖像画が伝わっています。
木の上で静かに座禅を組む明恵。
不精ひげが描かれありのままを大切にした人である事がうかがえます。
全面に描かれた松に対し本人がとても小さい事が特徴です。
明恵を研究してきた西山厚教授はそこに明恵らしさが表れていると言います。
普通肖像画で…お坊さんでもお坊さんでなくてもいいですがこんな松の木に座ってる肖像画他にないと思いますよ。
ちょっとふざけてる感じがするななんか。
何だろう。
正式な感じっていうか…。
フォーマルじゃない感じですよね。
それがこの明恵上人のいいところで…この絵を描いた人も高山寺のお坊さん…弟子が自分の先生の絵を描いてるわけ。
へえ〜!でほんとに先生があんなふうにしてるところをその弟子が描いたわけですね。
実際にそんな事してたんですか?木の股の所に。
そうそう。
こちらが実物の「明恵上人像」。
国宝に指定されています。
背景をよく見ると鳥やりすなどの姿が。
明恵は人と動物を隔たりなく慈しみ狩人に追われた獣から敗残の兵士まで寺にかくまいました。
明恵のもとには動物にまつわる美術品が多く集まりました。
子犬の像は手元に置き愛玩したといいます。
だからちょっと変な事を言うようですけども…じゃあそのルートは今となっては分からないけれどもあるべくしてある。
来るべくして来た。
…というふうに言いたいですね。
ロマンチック。
「鳥獣人物戯画」が高山寺に伝わってきた経緯は分かっていません。
もしかしたら明恵の慈悲の心に動物たちが呼び寄せられたのかもしれませんね。
いろいろ謎が分かってきた「鳥獣人物戯画」ですけれどもこれをひとつ映画のようにセリフをあててもらいたいなと思うんですね。
ここに複製品があるんですけれども。
旅の終わりに妄想力をフルに使って「鳥獣人物戯画」の世界を遊んでみます。
ここはいろんな動物が暮らすパラダイス。
「お背中流しましょうか?」。
「そうだお前…。
気きかねえなほんとに。
早く背中流してくれよ」。
パラダイスというよりもユートピア。
お湯のトピア。
ハハハハ!「俺いろいろ考えたんだけど坊さんになる」。
「坊さん!?お前なんかもう仲間じゃない!」。
「ウキー!逃げろ〜!うわ〜逃げろ逃げろ〜!」。
「あっち行けあっち行け」。
「うわ〜来ないでくれ〜!」。
ここは誰かが亡くなったお葬式の場所です。
仏になった蛙が…仏になった蛙がいます。
その前で僧侶の猿がお経を唱えています。
「いやいや…大僧正様ご立派になられちゃってほんとにこんな感じになられるとは夢にも思いませんでしたけれどこうして貢ぎ物というか供え物を持ってまいりました」。
「ハハハ!そちも悪よのう」。
(笑い声)妄想力を使えば物語は無限に広がります。
何だかんだで想像力は使わなきゃいけなかったんですが「もっとこういうふうに見ろ」みたいな事があるんだったら当然書いたと思うんですね。
あえて書かなかったって事は「お任せしますよ」と。
身構えずに自由に発想して面白がってもいいかなと思うし僕それがメッセージのような気もしましたけどね。
あのユーモラスさ。
すごい人気者ですよ。
あやかり…あの絵巻に入りたいぐらいです。
「鳥獣人物戯画」は謎だらけ。
だからこそ自由に妄想する力をかきたててくれる魅力あふれる国宝です。
2015/05/19(火) 11:30〜11:55
NHKEテレ1大阪
趣味どきっ! 国宝に会いに行く 第7回「高山寺・明恵上人と“鳥獣人物戯画”」[解][字]

今注目のライター橋本麻里と旅する日本美術ガイド、今回はあの「鳥獣人物戯画」!国宝の中で最も親しまれる作品の一つだが、謎だらけの絵巻。誰が何のために描いたのか?

詳細情報
番組内容
世界遺産の京都・高山寺に伝わる絵巻「鳥獣人物戯画」。ウサギとカエルの相撲、射的や水遊びなどユーモラスに戯れるシーンが満載だ。動物たちをいきいきと擬人化したのは、いったい誰なのか。高山寺の明恵上人と「鳥獣人物戯画」の関係とは?謎だらけだからこそ、人々をひきつけてやまない国宝「鳥獣人物戯画」。橋本麻里のナビゲートでマキタスポーツが妄想力を発揮!二人で絵巻の世界に遊んじゃう!名(迷?)演技も必見!
出演者
【案内人】ライター、編集者、明治学院大学・立教大学非常勤講師…橋本麻里,【旅人】マキタスポーツ,【出演】東京国立博物館研究員…土屋貴裕,帝塚山大学教授…西山厚,【語り】中谷文彦

ジャンル :
趣味/教育 – 音楽・美術・工芸
ドキュメンタリー/教養 – カルチャー・伝統文化
ドキュメンタリー/教養 – 歴史・紀行

映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
日本語
サンプリングレート : 48kHz
2/0モード(ステレオ)
日本語(解説)
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