クローズアップ現代「薬がのみきれない!〜知られざる“残薬”のリスク〜」 2015.05.19


60代の男性。
押し入れの中にため込んでいたのはのみ残した大量の薬。
糖尿病や血圧の薬など医師から処方された薬は1日24錠。
あまりに種類が多くてのみきれなかったのです。
大量に処方されのみ残される薬、残薬。
それが深刻な健康被害の引き金になっていることが分かってきました。
適切に薬がのまれていないことを医師が知らずに、新たな薬を追加。
その結果、転倒や意識の低下などの重篤な副作用を生み出しているのです。
増え続ける薬から高齢者を守るにはどうしたらいいのか。
知られざる残薬の実態と対策に迫ります。
こんばんは。
「クローズアップ現代」です。
この時間帯、夕食が終わってそろそろ食後の薬をのもうという方も少なくないのではと思います。
年を重ねていくうちに高血圧や糖尿病など複数の持病を抱えるようになりそれとともに薬の種類も増えていきます。
健康を保つうえで必要な薬を正しくのむことは大事なのは言うまでもありません。
その一方で薬の種類が増えていきその副作用によって体調を崩すケースも少なくありません。
東京大学などの調査では高齢者が5種類以上の薬をのんでいる場合副作用が表れる確率が高まるという結果が出ています。
副作用による、ふらつきで転倒する頻度は、ご覧のように40%に跳ね上がっています。
薬がもたらす高齢者の体への悪影響。
今、新たな問題として浮かび上がってきたのが薬の種類が多くなってきたことで起きているのみ間違えや、のみ残しです。
処方された薬が正しくのまれないことによって逆に体調を悪化させるケースもあります。
日本薬剤師会が行った調査では在宅の高齢者がのみ残している薬残薬は475億円に上るという結果が出ています。
患者の声を聞きますと量が多すぎてのむのを忘れてしまった。
自分の生活リズムと服用時間がずれているなど、残薬が発生する理由はさまざまです。
患者が多くの診療科を受診する中で、それぞれの医師はどこまで患者が服用している薬について知っているのか。
また薬がきちんとのまれているのか否かを確かめているのか。
こうした中、国も薬の処方の在り方を見直す動きを見せています。
まずは副作用に苦しむ高齢者と多くの薬の、のみ残しが起きている実態からご覧ください。
水戸市内にある総合病院です。
この病院には薬の副作用が原因で症状が悪化した高齢者が次々と入院してきます。
救急車で運ばれてきたこちらの女性。
ここ数か月原因不明の転倒が続き体中にあざが出来ていました。
総合診療科の金井貴夫医師が真っ先に調べるのは薬の種類と、その組み合わせです。
薬を減らすための国際基準をもとに明らかに副作用を起こす処方を洗い出していきます。
この女性は統合失調症と診断され7種類の薬を日常的に服用していました。
金井医師は、抗精神病薬と便秘に対して使われた漢方薬で極度のふらつきや運動障害が起き転倒につながったと判断。
さらに、その副作用の治療に新たな薬が追加され症状が悪化したと見ています。
金井医師たちは入院してきた患者がふだん飲んでいる薬をすべて持ってきてもらい過剰な投薬の実態を調べています。
高齢者の場合代謝機能が低下するため薬は5種類までが望ましいといわれています。
しかし5種類以上処方されていた入院患者はおよそ6割。
副作用のリスクは急速に高まります。
中には、5つの診療科から22種類もの薬を処方されていた患者もいました。
さらに深刻な問題を引き起こしていると分かったのがのみ残しの薬、残薬の存在です。
薬をのみきれていないために治療効果が出ていないことを医師が知らずに薬を追加。
症状を悪化させる悪循環が起きています。
最近、この残薬の実態がようやく明らかになってきました。
日本大学薬学部の亀井美和子教授は、残薬について患者の調査を続けてきました。
亀井さんの調査では慢性疾患の患者のおよそ半分が残薬があると答えています。
背景にあるのは薬の自己管理の難しさです。
服用回数やのみ方が複雑になっているうえ1人暮らしの高齢者が増えているからです。
その後の調査では残薬がある場合に必ず医師に伝えられると答えた人はおよそ3割。
6割以上の人が、正確な情報を医師に伝えていないことも分かりました。
いかに残薬を減らして適切な処方につなげるか模索も始まっています。
熊本県にある特別養護老人ホームです。
ここでは、医師と連携しその人の体の状態や病気に合わせて、薬の服用を管理し薬を減らす取り組みを進めてきました。
ごはんです。
ハヤシライス。
高口ナオ子さんは入所した当時、認知症と診断されことばを発することもできない状態でした。
おいしいです?
しかしのんでいた8種類の薬を半分に減らしたところ。
笑顔で会話ができるほどに回復しました。
♪「人生はワン・ツー・パンチ」
施設と熊本大学が連携したこの取り組み。
しかし中心となった池田教授は患者が長年、のんできた薬を減らす難しさに直面しました。
薬がどのような理由で処方されたのか、詳しい履歴が分からないためです。
例えばバルプロ酸ナトリウムという薬。
認知症の高齢者の興奮症状を抑える目的でよく処方されていますが本来は、てんかんの発作を抑える治療薬です。
どちらの理由で処方されたのか分からないまま、安易に減らすと命に関わります。
患者の薬の手帳を見ても処方された理由までは記録されていません。
過去にさかのぼって薬がどのような理由で処方されたのか詳しく確認できる仕組みがなければ薬を減らすことは極めて難しいと池田教授はいいます。
今夜は、医師として高齢者の薬の副作用について、研究、そして治療を続けていらっしゃいます、徳田安春さんをお迎えしております。
失礼しました。
多くの副作用によって、症状が悪化した方々が入院されてくる。
それを見てらっしゃるわけですけれども、なぜ、いくつもの病気を高齢者の方々が、抱えてるとはいえ、なぜ、いつのまにかあんなに薬が増えてしまうのか、そして、なぜ副作用が出やすいんですか?高齢者の方々は。
医師は、やはりお薬を使って病気を治療しようとすると、患者さんは高齢化して、いくつもの病気をお持ちになっていると。
そういう状況で、自然に薬が増えていくという状況がありますので、その中で、各診療科、さまざまな診療科、ありますけれども、そこを並行して受診すると、いつの間にかお薬がばく大な数出てしまうと。
忙しい外来では、その患者さんの服用のチェック、残薬のチェックなんかが、医師では難しいという状況もあるんですよね。
一方で、そのような高齢者は、肝臓の機能、腎臓の機能、そして体脂肪の割合が増えている、体力が落ちています。
そしていろいろな病気をすでにお持ちということで、副作用が出やすいと。
そういう状況がありますから、一般的に成人の用量で出されたお薬でも、大きな副作用が出て、それによって入院するというようなことが起きていますね。
そうすると、この残薬は、どう捉えたらいいんですか?
その残薬はですね、多くの種類の薬が処方されているという状況で、副作用が多く出ているという現象の表裏一体なんですね。
残薬があるということは、多くの種類の薬が処方されていると、それが表裏一体として現れているというふうに見ることができると思います。
その副作用による症状を治すために、また新たな薬が出されて、また症状が悪くなる、こういったことも起きたりするんですか?
実際、そういうことが認められてますね。
お薬は症状を取り除くために出されてますけれども、一方で、別の症状を出す。
それに対して、すぐにお薬に処方がいくというと、どんどんどんどん増えていくというばっかりですよね。
この処方のやはり知識と、そういう技術に対する医学教育、これが大変重要な課題だと思いますね。
お薬をいったん増やしますと、減らすのが難しいという話がありましたけれども、こうした医学教育の問題、指摘されましたけれども、減らすという教育っていうのは、注目されてないんですか?
薬の種類を減らす、そういう減らし方の教育というのが、今まであまり強調されて十分行われてなかったんですね。
実践的な高齢者に対する薬剤の使い方の教育、これが望まれますね。
一方で、医療システムとしても、体全身を見る、全人的に見ると。
そういうふうな視点で処方を管理するという主体的な取り組みが、医師に求められていると思いますね。
どうしたら薬の副作用や、この残薬、のみ残しを防いで、適切な処方につなげることができるのか。
今、各地で新たな仕組みを模索する動きが始まっています。
福岡市内にある薬局です。
ここでは、処方薬を受け取りに来る人に節薬バッグと名付けた袋を配布。
自宅に余っている残薬を持ってきてほしいと呼びかけています。
この日、訪れた男性は。
糖尿病や高血圧の薬など11種類の残薬を大量に持ち込みました。
薬剤師は、薬の安全性に問題がないか、一つ一つ確認。
医師と相談のうえで再利用します。
お待たせしました。
残薬を再利用することで3万5000円以上の医療費削減になりました。
ここで重要なのは、服薬指導。
薬剤師は、男性がなぜのみ残してしまったのかを尋ね適切なのみ方や処方につなげていきます。
福岡市の薬剤師会が始めたこの取り組みには市内600以上の薬局が参加。
2年前の調査では年間延べ1300人以上が残薬を持ち込み不要な投薬を減らすなど処方の改善につながりました。
薬剤師が患者の自宅を訪ねて薬を減らす仕組み作りも始まっています。
大阪市内の薬局で働く薬剤師崎代英樹さんです。
こんにちは。
お邪魔します。
この日、訪ねたのは在宅で抗がん剤治療を受けている80代の男性。
ちょっと胸の音も聞いといてよろしいですかね。
おもむろに取り出したのは聴診器。
血圧や脈拍など体の状態を調べながら薬をきちんとのめているか副作用はないかを確認します。
崎代さんは患者の生活を見ながらその人に合った薬の量やのみ方を調整。
医師と連携しながらこの2年間で薬を4種類減らしました。
ところが、この日男性から、ある相談が。
崎代さんが勤める薬局では1人の患者が複数の医療機関や診療科から処方されている薬の情報を一括して管理します。
それをもとに薬剤師が患者の自宅を訪問し服薬の状態や副作用の有無などを確認していきます。
そして患者の症状に何か変化があったりのみ残しなどがあればすぐに医療機関に情報をフィードバックします。
過剰な処方を減らしながら適切な治療につなげるという仕組みです。
男性から眠れないと相談を受けた崎代さんは薬を処方している医師を訪ねました。
生活改善のアドバイスもしながら様子を見ることにしました。
今の薬剤師の方が患者の家に行って、服用状況を確認する、あるいは生活の状況を確認したりすると、あるいは残った薬を持ってきてもらって、それを再利用するというような状況、こうした取り組みはいかがですか?
大変すばらしい取り組みだと思いますね。
これまでは、薬剤師は処方箋をもらって、それを出すと、それが主な役割でしたが、そこから、患者さんがどのようにお薬をのんでいるのか、そして、そのあとにどうなっているのか、のみ残しはないのかと、そういったところまで観察するという、そういう取り組みは、医療の質を上げる、非常に重要な取り組みだと思いますね。
そういう役割を果たす薬剤師さんがいると、医師も大変チーム医療として、非常に重要な役割を果たしてくださりますし、そして貴重な情報を提供してくれるということで、医療の安全、患者さん中心の医療、これが達成できるということになると思いますね。
今のリポートで、2食召し上がっている方が、食後のお薬、3回の服用のお薬を出されたとき、本当に具体的に戸惑ったりされるでしょうね。
そういった個別の患者さんのそういうライフスタイルに合わせた、服薬の指導、その情報を医師に伝えて、その医師と共に、どのような服薬のタイミングがいいのかということを調整すると、それも非常にすばらしい取り組みだと思いますね。
こういった取り組みを、国も掛かりつけ薬局ということで、患者さんの病状と、患者さんに出されている処方内容を、一元化する取り組みを今後展開するという方針を固めていますよね。
それによって、薬剤師が在宅に訪問して、残薬がないかどうか、薬の副作用が出てないかどうか、そして適切に内服しているのかどうか、こういったことをチェックして、薬の副作用の予防、そして適正な内服、そして薬に対する不安を取り除く、こういったことにつながると思いますね。
今、自宅に残薬がある方、まず何をすべきですか?
残薬があれば、その残薬を、その薬を処方している医師のところにまず持っていって、そして次の処方の量を調整してもらうと。
これがまずスタートですね。
そして、これは自分で勝手にやめてはいけない。
そうですね。
自己判断は禁物です。
やはり薬の種類によっては、非常に重要な薬があります。
自己判断で止めるのではなく、処方している医師と相談して、そして、薬剤師にも相談しながら、そういった服薬を続けると、それが大事ですね。
2015/05/19(火) 19:30〜19:56
NHK総合1・神戸
クローズアップ現代「薬がのみきれない!〜知られざる“残薬”のリスク〜」[字]

薬の多剤処方による高齢者の健康被害が後を絶たない。さらにのみ残しなどの「残薬」は500億円に迫り医療費を圧迫。多剤処方による被害の実態と対策を考える。

詳細情報
番組内容
【出演】地域医療機能推進機構顧問・医師…徳田安春,【キャスター】国谷裕子
出演者
【出演】地域医療機能推進機構顧問・医師…徳田安春,【キャスター】国谷裕子

ジャンル :
ニュース/報道 – 特集・ドキュメント
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