試し撃ち
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<4-3b:試し撃ち>
護身用のペン型銃が出来た頃のことだ。
皇后良子が斎服殿で蚕を踏み潰して、幼児の私に罪を被せた一件の後だったので、天皇裕仁(Emperor Hirohito)がその小型銃の「試し撃ち」の標的に私を選んだのも、そういった理由からであったかも知れない。
この日、天皇に接見するというので、振袖を着せられた私は、たっぷりと衣が重なった袂を揺らして、兎みたいだ、と上機嫌だった。
それを侍従が、裕仁がいる部屋へ連れて入ると、腰を屈めて私の耳元で「逃げろ。」と囁いた。
「何処でもいいんだ。お前の好きな方へ行け。・・・自由だ。」
この場合の「自由」とは、欧州の貴族が楽しむ狩猟の獲物に与えられた「自由」である。
しかし、背後にあるドアの把手は私の頭くらいの位置にあって、一度回してみたが、とても重く、子どもの握力では到底、開くはずもなかった。部屋は四角い檻であり、逃げ場を失った私は一隅ですくんだ。それを見た裕仁は「これでは面白くない。」と言った。
ところが、そこへ護衛官が一人、走り込んで来たのだ。 侍従が護衛官に言った説明はおおよそ次の通りだった。陛下の前で子どもが粗相をしたので、嗜めていたところだ。お前は何か見たのか? 最初と同じく、三人きりになった部屋で(実際には、二人と一匹の兎だったが)鬼畜の言葉を吐いたのは裕仁だった。 けれども、もはや幼児の細い喉から出る悲鳴は無かった。侍従はいつもの砒素を塗った毒針を子どもの首筋に突き刺して、泣かせてみたが、それでも護衛官は一向に現れなかった。 そして、一発目は裕仁が撃った。
膝を崩して倒れる男を、二発目と三発目は侍従が撃った。
私のほうは睡眠剤の注射針で倒されて、その傍に空になったペン型銃が投げ捨てられた。
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