shunga 春画展

開催趣旨

人が愛を交わす様子を描き出した春画は、古くから愛好されてきました。「枕絵」や「笑い絵」などといい、平安時代や鎌倉時代には「偃息図(おそくず)」と呼ばれ、「小柴垣草紙(こしばがきぞうし)」や「稚児之草紙(ちごのそうし)」など、鎌倉時代に制作された作例が現存しています。印刷技術の盛んでなかった時代には上層の人々だけが享受してきましたが、江戸時代に入ると版画の普及によって庶民にまで広まっていきました。そして印刷技術によらず絵師が自らの手で描き出す、従来の「肉筆」の作品にも、浮世絵版画で活躍した多くの絵師が腕を振るうようになったのです。

本展は日本初の春画展として、海外は大英博物館およびデンマークから、また、日本の美術館や個人コレクションから「春画の名品」を集めます。鈴木春信の清楚、月岡雪鼎の妖艶、鳥居清長の秀麗、喜多川歌麿の精緻、葛飾北斎の豊潤など、浮世絵の大家たちによる作品のほか、徳川将軍や大名家の絵画を担った狩野派の作品など、大名から庶民にまで広く愛された春画を楽しんでいただければと思います。本展が、春画の魅力を現代の皆様に広く知っていただく機会となれば、望外の喜びです。

会期
全会期
2015年9月19日(土)~12月23日(水・祝)(85日間)
前期
2015年9月19日(土)~11月1日(日)(40日間)
後期
2015年11月3日(火)~12月23日(水・祝)(45日間)
会場
永青文庫 〒112-0015 東京都文京区目白台1-1-1 ハローダイヤル: 03-5777-8600
関連企画
1.講演会 9月20日(日) 於 ホテル椿山荘東京 2.シンポジウム 8月22日(土) 於 日本女子大学
主催等
主催:永青文庫 春画展日本開催実行委員会 後援 ブリティッシュ・カウンシル

展覧会構成

プロローグ

愛を交わす様子を描いた春画には、複数の場面で一つの作品を構成するものがあります。そのとき、最初に描かれた場面は、まだ愛を交わすに至っていないことが多いです。二人が見つめあい、手をとり、そっと引き寄せ、裾に手を差し入れるのが、導入部として、控えめに描かれるのです。本展も「プロローグ」として、二人が接近して心を通わし、触れ合う情景を描いたところから始めて、贅を凝らした春画の世界へ、徐々に入っていくことにいたしましょう。

主要展示作品

「煙管」 鈴木春信 中判錦絵 1枚 江戸時代(18世紀)
「綿摘女」 鈴木春信 中判錦絵 1枚 江戸時代(18世紀)
「あぶな絵 源氏物語」 渓斎英泉 大判錦絵 1枚 江戸時代(19世紀)

1.肉筆の名品

「天癸両濫」 狩野彰信筆

春画作品を見ていくにあたって、肉筆の作品から見ていきましょう。「肉筆」とは、版画のような印刷技術ではなく、人の手で線と色が描き出された書画をいいます。古くからある春画の始まりも、肉筆の作品でありました。平安時代には春画は「偃息図(おそくず)」と呼ばれており、鎌倉時代に制作された春画が現存しています。この章で紹介する「小柴垣草紙(こしばがきぞうし)」や「稚児之草紙(ちごのそうし)」などは、鎌倉時代の春画を彷彿させるものです。

「春宵秘戯図」 西川祐信筆

長く春画は、上層の人々だけが享受してきたと思われますが、江戸時代に庶民文化が花開くと、浮世絵版画で活躍した多くの絵師が、肉筆の春画にも腕を振るうようになります。肉筆春画の輝く絵具と、のびやかな筆線、やわらかな描写、細緻な文様からは、日本の絵画の最上質の部分が春画にあると認められるのではないでしょうか。ここでは、浮世絵師の春画だけではなく、徳川将軍や大名家の絵画制作を担った狩野派の作品もご覧いただくことにいたします。

「陽物涅槃図」

主要展示作品

「小柴垣草紙」 紙本著色 1巻 江戸時代(17世紀、原本:平安時代)
「稚児之草紙」 紙本著色 1巻 江戸時代(19世紀、原本:元享元年、1321年)大英博物館蔵
「勝絵絵巻」 紙本著色 1巻 室町時代(15世紀) 三井記念美術館蔵
「陽物涅槃図」 紙本著色 1幅 江戸時代(17~19世紀) 大英博物館蔵
「春宵秘戯図」 西川祐信筆 絹本著色 1巻 江戸時代(18世紀)
「四季画巻」 月岡雪鼎筆 絹本著色 1巻 明和5~9年(1768~72)
「欠題春画絵巻」 紙本著色 1巻 桃山時代(17世紀) 大英博物館蔵
「天癸両濫」 狩野彰信筆 絹本著色 1巻 文化11年(1814) 白澤庵蔵
「春画巻」 紙本著色 1巻 江戸時代(17世紀)
「春画屏風」 紙本著色 2曲屏風1隻 江戸時代(19世紀)

2.版画の傑作

印刷技術の盛んでなかった時代には、上層の人々だけが享受してきたと思われる春画は、江戸時代に浮世絵版画とともに普及しました。著名な浮世絵師のほとんどが、春画を制作しています。つまり、春画を除いて考えてしまっては、浮世絵師の活動の全貌を知ることはできないといっても過言ではないほどです。

ここでは菱川師宣(?~1694)、鈴木春信、鳥居清長(1752~1815)、喜多川歌麿(1753~1806)、葛飾北斎(1760~1849)らの大家をはじめとする浮世絵師が手がけた版画、版本をご覧いただきます。春画は江戸時代を通じて非合法の出版物であり、贅をこらしたものが少なくありません。絵とともに、彫り、摺りが織りなす版画の粋をご堪能ください。

「袖の巻」 鳥居清長

主要作品

「欠題組物」 菱川師宣 12枚 延宝6年(1678)頃
「夕涼み」 鈴木春信 中判錦絵 1枚 明和6~8年(1769~71)頃
「扇子売り」 鈴木春信 中判錦絵 1枚 江戸時代(18世紀)
「袖の巻」 鳥居清長 柱掛横判錦絵 12枚 天明5年頃(1785)頃 国際日本文化研究センター蔵
「好色図会十二候」 勝川春潮 大判錦絵 11枚 天明8年(1788)頃 国際日本文化研究センター蔵
「歌満くら」 喜多川歌麿 大判錦絵 折帖1冊 天明8年(1788)
「喜能会之故真通」 葛飾北斎 色摺半紙本3冊 文化11年(1814)

3.豆判、小さな世界

縦9センチほど、横13センチ弱の版型の、小さな「豆判」の版画があります。ポケットサイズの版画です。大判の錦絵作品を豆判に縮小したものもありました。また、江戸時代に用いられていた太陰太陽暦では、ひと月が30日である「大の月」と、29日の「小の月」との配列が年ごとに違い、その年の月の大小の順序を明示する大小絵暦を錦絵で作ることが盛んでしたが、豆判でも作られました。携帯して見せ合うことが行われていたのではないかと思われます。特に豆判の絵暦は、配布したり、携帯したりするのに便がよかったことでしょう。このような豆判でも、春画が行われていました。携帯し、見せ合いをする小さな世界に、春画に向ける江戸人の大らかな感覚が認められます。

「豆判絵暦 忠臣蔵大小暦」

「豆判絵暦 忠臣蔵大小暦」

「豆判 欠題春画」

主要作品

「豆判絵暦 忠臣蔵大小暦」 豆判錦絵 9枚 江戸時代
「豆判 役者絵春画」 豆判錦絵 10枚(袋つき) 江戸時代
「豆判 欠題春画」 豆判錦絵 4枚 江戸時代

エピローグ

本展の最後に、永青文庫所蔵の春画作品をご覧いただきます。江戸時代(17世紀)の肉筆画巻と、江戸時代後期、天保6年(1835)頃の版本「艶紫娯拾餘帖」です。

本展出品の春画は、いずれも、大名家から庶民までの、江戸時代以前の人々の暮らしの中で享受されて、今に伝わったものです。実に多くの春画が制作されてきたことがわかります。現存する春画は、もちろん本展出品作にとどまるものではなく、それこそ無数にあることでしょう。日本で最初の春画展である本展をきっかけに、春画が、長い日本の歴史の中で、人々とともにあったことを知っていただければと思います。

作品

「欠題十二ヶ月」 紙本著色 1巻 江戸時代(17世紀) 永青文庫蔵
「艶紫娯拾餘帖」 歌川国貞 版本3冊 天保6年(1835)頃 永青文庫蔵