この国会初の党首討論で際立ったのは、安全保障に関する質問の本質をはぐらかす安倍首相の不誠実な答弁だった。

 与党は安全保障関連法案の審議入りを急ぎ、夏までに成立させる方針だ。だが、首相が通り一遍の答弁を繰り返すばかりでは、安保政策の歴史的転換への国民の不安は募るばかりだ。

 徹底審議によって問題点を明らかにする国会の責務は、ますます重くなったと言える。

 質問に立ったのは民主・岡田代表、維新・松野代表、共産・志位委員長の3人だ。

 岡田氏は、米軍などへの後方支援で自衛隊のリスクは高まるのではないか▽新要件のもと自衛隊が集団的自衛権を行使すれば、その活動は相手国の領域にも及ばないか▽首相は米国の戦争に巻き込まれることは「絶対にあり得ない」と言ったが、本当にそう言えるのか――の3点をただした。

 一連の政策転換の中でも、多くの国民がとりわけ不安を感じているところでもある。

 これに対する首相の答弁はまったく不十分だった。

 首相は、「安全が確保されている場所で後方支援を行う」「他国の領土に戦闘行動を目的に自衛隊を上陸させて武力行使をさせることはない」などと繰り返した。

 首相はまた、「過去の日本の戦争は間違った戦争との認識があるか」という共産・志位氏の問いにも直接は答えなかった。志位氏は「戦争の善悪の判断ができない首相に戦争法案を出す資格はない」と批判した。

 首相の答弁は、これまで記者会見などで述べてきた見解をなぞったものだ。官僚が用意した想定問答の範囲内なのだろう。紛争の現場では想定外の事態は当然起きるのに、そうしたリスクを考慮して答弁していてはとても審議は乗り切れないと考えているように見える。

 しかし、そうした姿勢では説得力は決して生まれない。「巻き込まれは絶対にあり得ない」との先の首相発言に対し、朝日新聞の世論調査では68%が「納得できない」と答えていることからもそれは明らかだ。

 きのうの討論では、集団的自衛権からPKOまで多岐にわたる論点のすべてを取り上げることはできなかった。

 維新・松野氏は、いまの国会にこだわらず、何回かの国会にまたがる慎重審議を求めた。当然の要求である。

 国民の理解を得ることなしに一連の法案を通すことは絶対にできない。時間をかけた誠実な審議は欠かせない。