日本国憲法=押しつけ憲法」論は理論に値するのか?
このテーマで、これまで7回投稿してきました。

「日本国憲法=押しつけ憲法」論は理論に値するのか?(1):天皇が命じて審議され「改正」が公布された

「日本国憲法=押しつけ憲法」論は理論に値するのか?(2):日本国憲法の世界史・日本史上の意義

「日本国憲法=押しつけ憲法」論は理論に値するのか?(3):ポツダム宣言に合致する日本国憲法

「日本国憲法=押しつけ憲法」論は理論に値するのか?(4):環境権など「新しい人権」の保障を否定している

「日本国憲法=押しつけ憲法」論は理論に値するのか?(5):自民党政権は戦争していても「戦争はしていない」と説明!

日本国憲法=押しつけ憲法」論は理論に値するのか?(6):個人主義も基本的人権も実質否定!

日本国憲法=押しつけ憲法」論は理論に値するのか?(7):徴兵制も「合憲」!?


13.「ポツダム宣言」受諾後の占領にハーグ陸戦条約の適用はない!

(1)第3回の投稿で、私は、日本政府は「ポツダム宣言」を受諾した以上、これに反する憲法は国際法上つくれない旨、書きました。

(2)ところが、これに対し、占領中の憲法”制定”はハーグ(陸戦)条約違反であるから日本国憲法は無効だという趣旨の意見が、私のブログを転載したBLOGOSで複数書き込まれています。

そういえば、自民党の冊子漫画の16ペイジでも、「ハーグ条約には『占領者は占領地の現行法律を尊重すべし」とあるが・・・・」と紹介しています。

http://jimin.ncss.nifty.com/pdf/pamphlet/kenoukaisei_manga_pamphlet.pdf

BLOGOSにおける書き込みは、この冊子漫画を読み、それを鵜呑みにして書き込んだか、誰かの主張を読み、それを鵜呑みにして書き込んだか、あるいは、意図的にデマを書き込んだか、のいずれかでしょう。

(3)法律学者で、「日本国憲法がハーグ(陸戦)条約違反で無効である」旨、主張する者は、ほとんど見られないので、その主張は論外の主張ですから、私があえて、これに応答する必要もないとは思いますが、一応、解説しておきましょう。

(4)まず、当該条約ですが、それは、1899年にオランダのハーグで採択され、1907年に改定されたもので、「陸戰ノ法規慣例ニ關スル條約」です。

該当する条文は以下のようです。
第四三條 國ノ權力カ事實上占領者ノ手ニ移リタル上ハ占領者ハ絶對的ノ支障ナキ限占領地ノ現行法律ヲ尊重シテ成ルヘク公共ノ秩序及生活ヲ囘復確保スル爲施シ得ヘキ一切ノ手段ヲ盡スヘシ

(5)この「ハーグ陸戦条約」は、その名称からもわかるように、戦時国際法です。
ですから、この条約の適用があるのは戦争(交戦)中の場合ですし、同条約第43条の適用があるのは戦争(交戦)中の占領者です。

それゆえ、交戦後(休戦中)の占領には適用がありません。

日本国憲法が”制定”されたのは、日本が不条件降伏した後ですから、そもそも「陸戰ノ法規慣例ニ關スル條約」=ハーグ陸戦条約の適用はないのです。

ですから、そもそも適用されない条約を考慮して日本国憲法”制定”過程を論述する必要はないのです。

(6)かりに百歩譲って、
ハーグ陸戦条約の適用が日本の無条件降伏後の占領にも適用があるとしても、ハーグ陸戦条約は一般法であり、ポツダム宣言・降伏文書という休戦協定は特別法であり、「特別法は一般法を破る」という原則がありますから、ポツダム宣言・降伏文書という休戦協定が優先的に適用されることになります。

「特別法は一般法を破る」という原則は、法学部で必ず学ぶ原則です。

(7)また、千歩譲って、
かりにハーグ陸戦条約が同時に適用されるとしても、日本国憲法の”制定”は、ポツダム宣言に反しないですし、大日本帝国憲法の改正手続きに従って帝国議会で行われましたので、同条約第43条に違反しないという法的論理も、考えられるかもしれません。

(8)学説の通説は上記(5)・(6)の立場です。

ですから、法律学者で、ハーグ陸戦条約を持ち出して日本国憲法が無効であると主張する見解はほとんんどないのです。

私も通説が妥当だと思います。

(9)BLOGOSには、これを踏まえた反論めいた書き込みもありますが、あえて応答しなければならないような真っ当な意見ではないので、私の応答は、以上で十分でしょう。

それにしても、自民党には、真っ当な法的知識のある者はいないのでしょうか!?

(10)ところで、「ポツダム宣言」には、新憲法の”制定”は明記されていないとの意見もありますが、すでに紹介した「ポツダム宣言」の内容からすれば、大日本帝国憲法が存続できるはずがないことは、あまりにも明白です。

日本政府は、「ポツダム宣言」を黙殺し続けて戦争を継続するという選択肢はなかったでしょう。
そうであれば、「ポツダム宣言」の受諾を「押しつけ」と評し得ないでしょう。、
あの内容の「ポツダム宣言」を受諾した以上、日本は、それに反しない新憲法を”制定”(大日本帝国憲法の改正)をするしかなかったのです。

(つづく)