日銀の「次の一手」で見方が錯綜、国債限界説から付利下げも
2015/05/20 15:43 JST
(ブルームバーグ):日本銀行が22日開く金融政策決定会合は現状維持との見方でエコノミストは一致しているが、次の一手については見方が錯綜(さくそう)している。長期国債の買い入れが限界に近づいているとの見方から、地方債などさまざまな資産の買い入れ、付利の引き下げ、はたまた出口など、諸説入り乱れているのが現状だ。
ブルームバーグが11日から18日にかけてエコノミスト36人を対象に行った調査で、22日の会合は全員が現状維持を予想。日銀が物価2%達成時期を先送りする一方で追加緩和を見送ったことから、4月会合で追加緩和を予想した2人を含め、計9人が追加緩和の予想時期を後ずれさせたものの、年内の緩和予想は22人(61%)となお過半数を占めた。
もっとも、具体的に何をやるかについては見方が大きく分かれている。選択肢形式(複数回答可)で追加緩和の手段を聞いたところ、マネタリーベース引き上げが19人、買い入れを拡大する資産としては、長期国債が14人、指数連動型上場投資信託(ETF)が19人、不動産投資信託(J-REIT)が8人と、ETFが長期国債を上回った。
シティグループ証券の村嶋帰一チーフエコノミストは「これまで通り国債とETFの買い入れ額増額」を予想。国債の月間買い入れ額は1.5兆円増(年間18兆円の増額)、ETFの年間購入額は2兆円増額されるとみる。「国債購入の小幅増加は可能とみており、黒田東彦総裁も同じ見解を示している」という。
ソシエテジェネラル証券の会田卓司チーフエコノミストは「マネタリーベースを『年間約80兆円』から『年間約85兆円』へ増加させ、その増加分の過半はETFを含めたリスク資産の買い入れでなされ、量より質の面の緩和を強調するだろう」とみる。
地方債も選択肢かブルームバーグ調査では、当座預金の超過準備にかかる0.1%の付利の引き下げが9人、買い入れ国債の残存期間の長期化や地方債の買い入れなど、「その他」も7人いた。明治安田生命保険の小玉祐一チーフエコノミストは「大規模な国債の買い増しはもはや不可能で、さまざまな資産を合わせ技で買い増すしかない」という。
三菱UFJモルガン・スタンレー証券景気循環研究所の嶋中雄二所長は「7月会合で長期国債、ETFの追加購入に加えて、地方債、政府関係機関債の新規購入を、合計年10兆円ペースで実施することを決定するべきだ」という。
UBS証券の青木大樹シニアエコノミストは「期待インフレ率に働きかけるべく、マネタリーベースのさらなる拡大のためには、長期国債、ETF、REITなど従来資産に加えて、資産担保証券や地方債などを加える可能性が高いだろう」とみる。
一方、ジャパンマクロアドバイザーズの大久保琢史チーフエコノミストは「付利引き下げ、国債購入のさらなる長期化が主軸となるだろう」と指摘。地方債は「選択肢の1つ」としながらも、「市場規模から言っても大きな効果を得ることは難しいだろう」という。
量から金利へ転換で付利下げも付利の引き下げを予想する向きも増えつつある。日銀は1日、「量的・質的金融緩和-2年間の効果の検証」と題したリポートを公表。量的・質的金融緩和が「累積で1ポイント弱、実質金利(10年物金利換算)を低下させる効果があった」と指摘した。
リポートが一言もマネタリーベースに触れてないことから、日銀が量から金利に軸足を移すとの思惑も出ている。みずほ銀行の唐鎌大輔チーフマーケットエコノミストは「どこかで『量』を追求することの限界に直面する可能性が方々で指摘され始めている」と指摘。「『金利』への回帰が取り得るべき『次の一手』になり得る」とみる。
バークレイズ証券の森田京平チーフエコノミストは7月の追加緩和で付利の0.05%への引き下げを見込む。三菱UFJモルガン・スタンレー証券の六車治美シニアマーケットエコノミストも「国債買い入れの平均残存期間の長期化プラス付利金利の0.05%への引き下げ」を想定。時期は10月末を見込む。
付利下げには懐疑論も付利引き下げには懐疑論も多い。三井住友アセットマネジメントの武藤弘明シニアエコノミストは「短期金融市場の機能を保全したり、ベースマネーの残高拡大にとって障害となる可能性があるため、実施されにくいのではないか」という。東短リサーチの加藤出チーフエコノミストも「マネタリーベース目標を公式に撤回しない限りない」とみる。
黒田総裁は12日、参院財政金融委員会で、付利の引き下げ、ないし撤廃は「検討していない」と述べた。複数の関係者によると、マネタリーベース目標を掲げた現在の枠組みを続ける限り、付利の引き下げは困難との見方が日銀内では根強いものの、将来、追加緩和が必要になった際は、その可能性を排除するものではないという。
東海東京証券の佐野一彦チーフストラテジストは追加緩和を見込んでないが、長期国債買い入れの「札割れ」などに際し、量的・質的金融緩和の枠組み変更の可能性はあるとみる。付利引き下げの可能性は「現状、極めて小さい」ものの、枠組みの変更が行われた場合は「その蓋然(がいぜん)性は一定に上がるだろう」としている。
次の一手はテーパリング一方、野村証券の松沢中チーフストラテジストは「次の一手は量的緩和の減額」、つまりテーパリングとみる。原油安等で景気が加速、金融緩和や円安に頼る必要性が落ちること、政府は円安やインフレが政治的にマイナスに働くリスクを意識すること、クレジットや為替市場に過度なリスクテイクが見え始めることなどが背景だ。
松沢氏は「16年7月の参院選に向け、安倍政権はデフレ脱却宣言を行おう。場合によって過度な円安や資産バブルが政治問題化し、結果的に政治が量的・質的金融緩和の出口の道筋を作る」と指摘。2016年上期がそのタイミングとしている。
記事に関する記者への問い合わせ先:東京 日高正裕 mhidaka@bloomberg.net;東京 藤岡徹 tfujioka1@bloomberg.net
記事についてのエディターへの問い合わせ先: Brett Miller bmiller30@bloomberg.net 淡路毅, 浅井秀樹
更新日時: 2015/05/20 15:43 JST