再送-〔焦点〕財政健全化計画、本丸は「歳出改革」の声 政権の本気度試す
(本文の一部表現を修正して再送しました)
[東京 15日 ロイター] - 今夏にまとめる財政健全化計画の議論について、政府・与党は4月統一地方選後から本格化させる。2020年度の基礎的財政収支(PB)黒字化に向けて、「歳出改革」に切り込まなければ、実現可能性は大幅に低下。政府・与党の一部からは改革の本丸との指摘がある。ただ、慎重な声もあり、安倍晋三政権の本気度が試されている。
<PB赤字9.4兆円解消、歳出の伸び抑制で「緊縮財政」ではない>
内閣府によると、2010年代後半の名目経済成長率が3.5%前後の高い成長を続けた場合(経済再生ケース)でも、20年度のPBは9.4兆円の赤字が残る。名目成長率が1%台の低めの場合(ベースライン・ケース)には、赤字は16.4兆円に膨らむ。
財政健全化の手法は、成長に伴う税収増や歳出改革、増税による歳入改革の3つしかないと、学者をはじめとする専門家の多くが主張する。
これに対して、安倍晋三首相は「10%までは消費税を上げるが、それ以上の引き上げで税収を増やすことは考えていない」と明言しており、再増税論議を早々と封印した。
成長に伴う税収増も、成長率の前提の違いによる赤字額の差額7兆円程度として一定程度織り込まれており、PBを黒字化する改革の本丸は「歳出改革」の取り組みにかかっているとの声が、政府部内や財政を専門とする学者から出ている。
しかし、大胆な歳出削減に対し、与党内からは「難しい」という声がささやかれる。その一方で「歳出改革は可能」という主張もある。
自民党の河野太郎・行政改革推進本部長は、内閣府試算を再検証した結果、20年度までの国・地方を合わせたPB対象経費の増加は重複分を除いて約15兆円と弾き出し「この中から9.4兆円の歳出削減を行って、PBの赤字解消を図ることは十分可能」と自身のブログで述べている。
土居丈朗・慶應義塾大学教授は「PB黒字化に資する歳出削減をしても、『緊縮財政』と言えない」と語る。
2006年の歳出・歳入一体改革では、機械的な一律歳出カットによって歳出の伸びが「ほぼゼロに近いものだった」のに対し、今回の内閣府試算の歳出見通しは「社会保障の自然増が大きいため、PB黒字化のためにある程度歳出を削減しても、まだ純増となる」ためだ。
こうした意見を総括すれば、「歳出削減」はPB対象経費を現在の水準以下に切り込むことを指すのではなく、「伸びの抑制」であることを説明すれば十分可能──ということになる。
財務省でも「痛みを伴う改革だが、財務省査定が一切ないような緩い歳出の前提を放置していいはずもない」(財務省幹部)としている。
<自民党中間報告「漠然としたものに」、 政府内も温度差>
もっとも、夏の計画策定まで数カ月を切ったにもかかわらず、政府・与党内の議論は総論の域を超えず低調だ。成長重視派は、さらなる財政出動を行っても財政再建は可能とする藤井聡・内閣官房参与(京都大学大学院教授)の主張に耳を傾ける。
成長重視の官邸の意向を「忖度(そんたく)し過ぎる」との批判を一部から受けている内閣府と、「できれば歳入改革への布石を打ちたい」という財務省の間で、温度差があるのも事実。
経済財政諮問会議(議長:安倍晋三首相)が「高めのボール」を与党側に投げ、落ち着きどころを探ったかつての手法も今はなく、政府と与党の間の緊張関係は影をひそめた。
自民党の財政再建特命委員会(委員長:稲田朋美政調会長)は、財政再建の方向性を示す中間報告を大型連休明け後にとりまとめる。
ただ、政調幹部は「かなり漠然としたものになる」と早々に述べ、党内の合意形成への道は険しく、歳出改革の各論に入った途端に紛糾しかねない党内の状況を映し出している。
<長期推計では、消費税率20%前後>
消費税率10%超の議論は安倍首相が封印したが、社会保障改革とセットで10%を超えて消費税率を20%前後に上げるよう求める民間の提言が相次いでいる。
改革スピートの加速化を訴える有識者に共通するのは、団塊世代全員が後期高齢者入りする2025年を超えて、団塊ジュニアが高齢化する2040年代までを見通すと、さらなる消費税増税も避けられないとの認識。「2020年度に、20年代、30年代にを乗り越えられるような社会システムを作るメドがどれだけできるかにかかっている」(大和総研の鈴木準・主席研究員)。
経済同友会・副代表幹事のひとりで、政策提言のとりまとめにあたった岡本圀衞・財政税制改革委員会委員長(日本生命保険会長)は「財政再建は経済成長があるときにこそ取り組めるテーマであり、正にそれは『今だ』」と強調した。
経済の好循環が実現しつつある今こそ、将来世代にツケを回さない不退転の決意が求められている。
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