南シナ海の緊張が高まっている。スプラトリー(南沙)諸島で中国が岩礁の埋め立てを急速に進め、人工島に3千メートル級の滑走路が輪郭を現している。

 北京を訪問したケリー米国務長官が懸念を表明。王毅(ワンイー)外相は「完全に中国の主権の範囲内のことだ」と反発した。

 ベトナムやフィリピンなども領有権を主張しており、地域の不安定要因になりつつある。

 この問題に日本はどう対応するのか。安全保障法制をめぐる国会審議でも、焦点のひとつとなるのは間違いない。

 日本に対しては米側からの期待がある。米海軍第7艦隊のトーマス司令官は1月、ロイター通信に「南シナ海での海上自衛隊の活動が将来有意義になる」と語った。自衛隊や豪州軍などが南シナ海の警戒監視にあたれば、米軍の負担軽減になる。

 日本は南シナ海での領有権問題の当事国ではないが、中東からインド洋を経てくるシーレーン(海上交通路)上にあたり、将来的に海上自衛隊が警戒監視活動を担う可能性がある。

 政府は今回の安保法制で周辺事態法から「周辺」の概念を外す抜本改正をめざしており、重要影響事態法という新しい枠組みの中では、南シナ海も適用対象となる。

 さらに、今回の安保法制で政府が狙うのは、紛争に「切れ目なく」対応できる仕組みをつくることだ。そうなると、政権の判断次第で、次のような展開も想定できないわけではない。

 ――共同訓練中の米艦への攻撃に自衛隊が武器等防護の規定で反撃する→そこが入り口となって重要影響事態に進み米軍に後方支援する→紛争が拡大して存立危機事態と認定し集団的自衛権を行使する。

 中谷防衛相は民放のテレビ番組で「南沙もホルムズ(海峡)もシーレーンという共通性がある。シーレーンは生命線。死活的な状況が起きうる」と述べ、南シナ海で存立危機事態に発展する可能性を示唆した。

 しかし、進んで軍事衝突を起こそうという国はない。南シナ海の問題もあくまで平和的に解決しなければならない。

 抑止力を振りかざす前に「法の支配」を浸透させる外交努力を最優先すべきだ。東シナ海では不測の事態を回避するための「日中海上連絡メカニズム」の早期運用をめざしているが、こうした危機管理のシステムづくりこそ急ぐべきだろう。

 万が一にも軍事衝突にいたれば、日中両国は壊滅的な打撃を被る。その現実感を欠いた安保論議は危うい。