追加緩和時期の後ずれ続出、先送り続ければ信認低下も-日銀サーベイ
2015/05/20 00:00 JST
(ブルームバーグ):日本銀行が物価2%の達成時期を先送りしたにもかかわらず追加緩和を見送ったことで、エコノミストの間で追加緩和の予想時期を後ずれさせる動きが増えている。2%達成時期の先送りが続けば、日銀に対する信認が低下するとの声も強まっている。
ブルームバーグが11日から18日にかけてエコノミスト36人を対象に行った調査で、4月会合で追加緩和を予想した2人を含め、計9人が追加緩和の予想時期を先送りした。
日銀は4月30日公表した経済・物価情勢の展望(展望リポート)で、物価が2%程度に達するのは「16年度前半ごろ」として、従来の「15年度を中心とする期間」から先送りした。約半数の17人(49%)がこれによって年内の追加緩和の可能性は低下したと回答。年内の追加緩和予想は22人(61%)と、前回会合前の調査(68%)から低下した。
クレディ・アグリコル証券の尾形和彦チーフエコノミストは従来、日銀が10月に2%達成時期を「15年度を中心とする期間」から先送りするとともに追加緩和に踏み切るとみていたが、予想以上に早いタイミングで先送りしたにもかかわらず、「素知らぬ顔で『けじめの追加緩和』を行わなかった」と指摘。緩和時期を「来年1月」に後ずれさせた。
尾形氏は「今回の決断により日銀は『市場の信頼』を損なうリスクが高まった」とした上で、「次回の『期限延長』においては、『けじめは必至』」とみている。
BNPパリバ証券の河野龍太郎チーフエコノミストは「2%の達成時期が16年度前半へと先送りされたにもかかわらず、追加緩和は実施されなかった。需給ギャップの改善が続いていれば、達成時期の後ずれも容認するということであり、今後も達成時期の多少の後ずれで、追加緩和に踏み切る可能性は小さい」とみる。
日銀の信認低下一方、みずほ証券の上野泰也チーフマーケットエコノミストは引き続き「10月末」の追加緩和予想を維持している。「10月展望リポートでは『16年度前半』まで1年を切る。日銀は2%達成時期のさらなる先延ばしを余儀なくされ、追加緩和がセットで決定されるだろう」と指摘。
「達成時期の先延ばしとセットで『必要な調整』を加えないというごまかし的な『技』は、そう何度も使えるものではない。セットで追加緩和しない場合、日銀の『やる気』が疑われ、期待インフレ率の低下や株安・円高が引き起こされるリスクを日銀は意識せざるを得ないだろう」という。他にも日銀の信認低下に言及する向きが増えている。
ジャパンマクロアドバイザーズの大久保琢史チーフエコノミストは「消費増税の影響を過小評価して以降、日銀の見通しは全て後手に回っており、信認の低下を招いている。原油価格が反転する中で、16年度も物価目標が達成されなかった場合、執行部の責任問題にも発展しかねない」と指摘する。
先送り続ければ期待の維持は困難大久保氏は「追加緩和なし」予想を維持しているが、「今秋時点で賃金、物価の加速が見られない場合、追加緩和も視野に入る」と指摘。「本来インフレ目標の達成時期には一定の自由度を持たせた方が中長期的な景気、物価安定のため望ましいが、信認が低下を許したせいで政策の柔軟性が失われつつあるのは政策判断の失敗と言える」という。
UBS証券の青木大樹シニアエコノミストも「今後も物価が日銀の見方を下回り続け、さらなる賃上げの期待は見えない中、7月か10月に予想される再度の物価見通しの引き下げは、追加緩和なしでは企業や家計の期待インフレ率を維持することは厳しくなる」と指摘。7月の追加緩和予想を維持している。
大和総研の熊谷亮丸チーフエコノミストは「物価見通しに関して委員間で意見のずれが生じており、今後の物価動向次第では目標達成時期を再び後ずれさせる可能性もある。足元でやや個人消費に減速感が見られており、早ければ7月の中間評価においてシナリオ修正を迫られる恐れがある」と指摘する。
柔軟な物価目標への修正も熊谷氏はその上で、「日銀は経済環境の変化等に即して、政策スタンスを柔軟に修正するべきである。日銀が原油価格等をコントロールできない以上、早期の物価目標達成にこだわるべきではない」という。
三井住友アセットマネジメントの武藤弘明シニアエコノミストは「物価の見通しと金融政策が一対一で対応しなくなっており、今回もその実績を作ったことから、今後さらなる見通しの下方修正があったとしても追加緩和せずにすませることが容易になりつつある。実質的にはフレキシブル・インフレターゲットへとシフトしていこう」としている。
日銀ウオッチャーを対象にしたアンケート調査の項目は、1)今会合の金融政策予想、2)追加緩和時期と手段や量的・質的金融緩和の縮小時期および「2年で2%物価目標」実現の可能性、3)日銀当座預金の超過準備に対する付利金利(現在0.1%)予想、4)コメント-。
1)日銀はいつ追加緩和に踏み切るか?
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調査機関数 36 100%
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5月 0 0.0%
6月 1 2.8%
7月 9 25.0%
8月 0 0.0%
9月 0 0.0%
10月7日 0 0.0%
10月30日 11 30.6%
11月 1 2.8%
12月 0 0.0%
2016年1月 3 8.3%
2016年2月 0 0.0%
2016年3月 0 0.0%
2016年4月以降 1 2.8%
追加緩和なし 10 27.8%
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2)追加緩和の具体的な手段
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マネタリーベースの増加ペースの引き上げ 19
長期国債の買い入れペースの引き上げ 14
ETFの買い入れペースの引き上げ 19
J-REITの買い入れペースの引き上げ 8
付利の引き下げ 9
の他 7
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3)日銀は生鮮食品を除く消費者物価(コアCPI)前年比が2%程度に達するのは
「2016年度前半ごろ」としてますが、この見通しは実現しますか。
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調査機関数 36
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はい 2
いいえ 34
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4)日銀が2%の「物価安定の目標」が安定的に持続すると判断し、
量的・質的金融緩和の縮小を開始する時期はいつ?
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調査機関数 36
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2015年上期 0 0.0%
2015年下期 0 0.0%
2016年上期 2 5.6%
2016年下期 3 8.3%
2017年上期 0 0.0%
2017年下期 5 13.9%
2018年以降 13 36.1%
見通せず 13 36.1%
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5)日銀は展望リポートで2%の達成時期を「15年度を中心とする期間」から「16年度前半ごろ」
に先送りしました。これによって年内の追加緩和の可能性は低下したとお考えですか。
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調査機関数 35
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はい 17
いいえ 18
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問1に対しての回答の詳細
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今回 前回
メリルリンチ証券、吉川雅幸 10月30日 10月30日
バークレイズ証券、森田京平 7月 7月
BNPパリバ証券、河野龍太郎 追加緩和なし 追加緩和なし
キャピタルエコノミクス、Marcel Thieliant 7月 4月30日
シティグループ証券、村嶋帰一 7月 7月
クレディ・アグリコル証券、尾形和彦 2016年1月 10月30日
クレディ・スイス証券、白川浩道 10月30日 9月
第一生命経済研究所、熊野英生 10月30日 10月30日
大和総研、熊谷亮丸 10月30日 10月30日
大和証券、野口麻衣子 追加緩和なし 追加緩和なし
ゴールドマン・サックス証券、馬場直彦 10月30日 7月
HSBCホールディングス、デバリエ・いづみ 10月30日 7月
伊藤忠経済研究所、武田淳 7月 7月
ジャパンマクロアドバイザーズ、大久保琢史 追加緩和なし 追加緩和なし
日本総合研究所、山田久 追加緩和なし 追加緩和なし
JPモルガン証券、菅野雅明 2016年1月 7月
明治安田生命保険、小玉祐一 11月 10月30日
三菱UFJモルガンスタンレー証券、六車治美 10月30日 10月30日
三菱UFJモルガンスタンレー景気循環研究所、嶋中雄二 7月 4月30日
三菱UFJリサーチコンサルティング、小林真一郎 7月 7月
みずほ銀行 、唐鎌大輔 10月30日 -
みずほ総合研究所、高田創 10月30日 10月30日
みずほ証券、上野泰也 10月30日 10月30日
ニッセイ基礎研究所、矢嶋康次 7月 7月
野村証券、松沢中 追加緩和なし -
農林中金総合研究所、南武志 追加緩和なし 追加緩和なし
岡三証券、鈴木誠 追加緩和なし 追加緩和なし
信州大学、真壁昭夫 6月 6月
スタンダードチャータード銀行、Betty Wang 7月 -
三井住友銀行、西岡純子 追加緩和なし 追加緩和なし
SMBC日興証券、森田長太郎 2016年1月 2016年1月
ソシエテジェネラル証券、会田卓司 10月30日 10月30日
三井住友アセットマネジメント、武藤弘明 追加緩和なし 追加緩和なし
東海東京証券、佐野一彦 追加緩和なし 追加緩和なし
東短リサーチ、加藤出 2016年4月以降 2016年1月
UBS証券、青木大樹 7月 7月
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更新日時: 2015/05/20 00:00 JST