「大阪都構想」を巡る大阪市の住民投票で反対票が賛成票を上回った。市民は大阪市の分割を否定した。橋下徹大阪市長が都構想を打ち出したのは2010年。5年に及ぶ論争に終止符が打たれた。
日本経済新聞社とテレビ大阪が4月下旬に実施した世論調査をみると、都構想に反対する理由として最も多かったのは「多くの費用がかかる」だった。市を5つの特別区に分割する場合、新たな庁舎建設やシステム改修費などで600億円程度かかる。
大阪市の分割で期待できる効果がみえにくい一方で、費用がかさむという点が市民が都構想を拒否した大きな理由だろう。120年を超す歴史がある大阪市がなくなるという点も、心情的に影響したとみられる。
ただ、都構想を支持しなかったからといって大阪が今のままでいいと考えているわけではないだろう。橋下市長らが主張した府と市の二重行政の解消は長年の課題だ。インフラなどの老朽化が進むなかで、府と市の戦略を擦り合わせることはますます重要になる。
大阪府と大阪市が対立する様はかねて「不幸せ(府市あわせ)」といわれてきた。大阪の地盤沈下に歯止めをかけ、大阪全体の成長戦略を強力に推進するためにも府と市の協力が欠かせない。
市営地下鉄の民営化など橋下市長らが掲げる政策には検討に値するものが少なくない。こうした政策の是非は今回の投票結果とは別の話だ。
一般に大阪は東京に次ぐ大都市とみられている。しかし、人口ではすでに神奈川県に抜かれて大阪府は3位になっている。都道府県別の県内総生産をみても、2位の大阪府と3位の愛知県の差は徐々に縮まっている。
これはひとえに横浜市や名古屋市に比べて、大阪市の成長力が劣っているためだろう。日本経済を考えるうえでも大都市の競争力の強化は欠かせない。
投票結果を受けて、記者会見した橋下市長は12月の市長任期が終わったあとは政界を引退する意向を表明した。これにより維新の党の国政での影響力低下も避けられない情勢だ。
4月の統一地方選では各地で投票率が低下した。候補者不足も深刻だ。住民に直接的に自治のあり方を問うた今回の試みは、地方政治の空洞化を補うひとつの取り組みとしても評価できる。