日本企業は新しい成長段階に入ったといえるだろう。
これまでの本紙集計によれば、上場企業の2015年3月期業績は、本業の利益に金利の受け払いを加味した経常利益が前の期に比べ6%増えた。リーマン・ショック前の08年3月期に記録した経常最高益を3%ほど上回る水準だ。16年3月期も前期比9%の増益となり、2期連続で経常最高益を更新する見通しだ。
金融危機後の苦境をコスト削減で乗りきり、円安・ドル高の追い風も吹いたことで、収益拡大に弾みがついた。今後は稼いだ利益を有効に使い、持続的な成長の基盤を強固なものとすることが日本企業の課題となる。
まず、競争力を磨くために中期的な視点で投資や研究開発を進める必要がある。
今期のソニーは人員の削減などの効果があらわれ、3年ぶりに黒字となる見通しだ。設備投資も前期の2倍に増やし、スマートフォン向け画像センサーの開発や生産などを強化する。リストラを終了し、強い分野をより強くする動きに転じる環境が整った。
HOYAは積極投資によって眼鏡・医療レンズなどの事業を収益の柱に育て、前期に8年ぶりの最高益となった。今期は減益だが研究開発や販売網整備への投資を減らさないニコンのような例もある。現在のお金の使い方が将来の競争力を決めることを、経営者は改めて確認すべきだ。
資本の提供者である株主に利益を還元することも、忘れるわけにはいかない。
今期の年間配当を前期の2倍の30円にする日清紡ホールディングスのように、好業績を背景に大幅増配に動く企業は多い。配当と並ぶ還元手段である自社株買いを表明する企業も目立つ。
積極還元によって市場の評価を高めておけば、多額の投資を迫られたときに資本調達がしやすくなる。利益還元は長期戦略を進めるためにも有効な手立てだ。
ともすれば企業は「投資か還元か」といった、二者択一の発想に陥ってしまう。2期連続の最高益を見込む現在の日本企業は、「投資も還元も」という両取りの姿勢を強めている。賃金の引き上げを通じて従業員への利益還元にも前向きになってきた。
この流れを太くすることにより消費や雇用を拡大させ、経済の好循環につなげたい。