トップ > 社説・春秋 > 記事

痛み分かち合う歳出削減から逃げるな

2015/5/16付
小サイズに変更
中サイズに変更
大サイズに変更
保存
印刷
リプリント
共有

 これで本当に信頼に足る財政健全化計画ができるのだろうか。政府の経済財政諮問会議の民間議員が示した論点整理をみると、そんな疑問を持たざるを得ない。

 政府は2020年度までに国と地方の基礎的財政収支を黒字にする目標を掲げている。それをどのような手段で達成するかが、6月末までにまとめる財政健全化計画の焦点だ。

 民間議員がそのたたき台として示した論点整理は問題が多い。

 まず前提として、経済成長率を物価変動の影響を除いた実質で2%程度、名目で3%程度を上回ると高めに設定していることだ。

 そのシナリオが実現したとしても、20年度時点で9.4兆円程度の基礎的収支の赤字が残る。ところが、論点整理は赤字の穴埋めとして、もう一段の経済成長による税収増の効果を織り込んでいる。

 デフレ脱却で名目成長率が高くなれば、税収が増えやすくなるのは事実だ。しかし、日本経済の実力を示す潜在成長率は1%未満というのが一般的な見方だ。

 構造改革を通じて高い経済成長率をめざす姿勢は正しい。だからといって過度に楽観的な経済想定で中長期の計画をつくると副作用は大きい。

 日本の借金は国内総生産(GDP)の2倍を超え、先進国で最悪だ。金融市場で日本国債に対する信認が崩れると長期金利上昇を招き、利払い費が膨らんで財政再建が遠のくリスクがある。

 大量の国債を購入している日銀の異次元の金融緩和からの出口を難しくする懸念もある。ここは成長率が想定より高まらなくても、着実に財政を立て直せる堅実な計画をつくるべきではないか。

 財政再建の手段は、成長による税収増、歳出削減、増税の3つしかない。安倍晋三政権は10%を超える消費増税の選択肢を封印している。ならば思い切った歳出削減策から逃げてはいけないはずだ。

 その中心は膨らみ続ける社会保障費の抑制・削減策のはずだが、今のところ医療、介護、年金の大胆な改革案は示されていない。政治はこれまで高齢者からの批判を恐れ、給付削減や負担増に真正面から向き合ってこなかった。

 巨額の借金を放置すると、ツケは現役世代や将来世代に回る。財政と社会保障制度を持続可能にするため、安倍政権は6月末までに痛みを分かち合う改革案を打ち出してほしい。

社説をMyニュースでまとめ読み
フォローする

Myニュース

有料会員の方のみご利用になれます。
気になる連載・コラムをフォローすれば、
「Myニュース」でまとめよみができます。

小サイズに変更
中サイズに変更
大サイズに変更
保存
印刷
リプリント
共有

【PR】

【PR】



主な市場指標

日経平均(円)
5/19 大引
20,026.38 +136.11 +0.68%
NYダウ(ドル)
5/19 13:35
18,335.75 +36.87 +0.20%
ドル(円)
5/20 2:30
120.67-68 +0.69円安 +0.58%
ユーロ(円)
5/20 2:30
134.40-44 +0.24円安 +0.18%
長期金利(%)
5/19 16:06
0.375 ±0.000
NY原油(ドル)
5/18 終値
59.43 -0.26 -0.44%
人気連載ランキング保存記事ランキング

日本経済新聞の関連サイト

日経IDの関連サイト

日本経済新聞 関連情報