社説[大阪都構想否決]都市再生の議論継続を

2015年5月19日 05:30 社説 注目
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 大阪市を廃止し、五つの特別区に再編する「大阪都構想」の賛否を問う住民投票で同構想は、1万票余りの票差で否決された。

 否決されれば「政治家を辞める」と公言していた橋下徹大阪市長は、12月の任期満了で政界を引退する考えを表明した。

 住民投票は、2012年に成立した大都市地域特別区設置法に基づき実施され、法的拘束力を持つものだ。

 政令指定都市の存廃を住民投票で決めるという初の試みだった。橋下氏ら大阪維新の会が10年、府と市の二重行政の解消を目指して提唱して以来、膨大な政治エネルギーと多額の税金を費やしてきたが、その「橋下構想」は挫折した。

 大阪都構想は、府が都市計画などの広域行政を担い、特別区は医療や教育福祉など身近なサービスに特化するというものだ。

 背景には、大阪市が政令指定都市として強い権限を持つため、大規模開発などで府と市による二重行政が生じ、無駄を生んできたことがある。

 大阪維新の会は、府に広域行政を一元化することで、財政効果が期待できると主張した。これに対し自民、民主、公明、共産の各党は「市を廃止しなくても二重行政は解消できる」と反論。議論は深まらず、具体的なメリット、デメリットが示されないままだった。

 どちらの主張が正しいのか、市民は賛否を判断する的確な情報を得ないまま、市の存廃という重大なテーマの選択を迫られたのだ。

    ■    ■

 「たたきつぶすと言って、たたきつぶされてしまった」。住民投票の結果を受けて記者会見した橋下氏は、政界引退を表明する一方、記者に逆質問するなどいつもの「橋下節」をみせた。

 大阪都構想という「看板政策」の実現にこだわってきた橋下氏は、既得権益との対決を打ち出す劇場型の政治姿勢で大阪で一定の支持を得てきた。しかし、自らの主張に反対する側を激しく批判する政治手法は評価が真っ二つに割れる。

 否決の要因にその強引なやり方があろう。特に、住民投票実施に至る過程は不透明さが残った。大阪維新の会だけでまとめた都構想の制度設計案は、昨年の府と市の議会でいったん否決された。

 だが、維新は、水面下の駆け引きで公明党の協力を得て住民投票の実施に持ち込んだのだ。議会を軽視する手法が市民の批判を招いた。

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 道府県と政令指定都市の二重行政の問題はかねて指摘されてきた。道府県と政令指定都市との権限のバランスをどう調整していくか、大阪都構想は、その解決策を模索する一つのチャレンジだったことは間違いない。

 人口減少や東京への一極集中に伴う、空洞化など、全国の都市が共通の課題を抱えている。

 大阪都構想は否決されたが、これまで重ねてきた議論を白紙に戻すのではなく、都市再生への処方箋が示せるよう引き続き議論を続けるべきだ。

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5月19日(火) 紙面

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