働く障害児の母、苦悩・・・

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愛知・豊橋の2歳児、保育園通園断られ

二分脊椎症の娘と一緒に遊ぶ母親=愛知県豊橋市で
二分脊椎症の娘と一緒に遊ぶ母親=愛知県豊橋市で

 愛知県豊橋市で、生まれつき脊椎の一部が形成されない二分脊椎症の2歳女児が「安全面の不安」を理由に、4月から市内の私立保育園への通園を断られた。保育園の認可権があり、入園の窓口となる豊橋市は「障害児の受け入れは原則3歳以上」との立場。障害児の母親が仕事と育児を両立する環境は全国的にも整っていない。(豊橋総局・西田直晃)

 女児は脳内に髄液がたまる水頭症を併発し、「シャント」という管を体内に通して髄液を腹腔(ふくくう)内に流している。装具があれば歩くことはできるが、自力で排せつすることが難しく、導尿を必要とする。

 生後8カ月で私立保育園に通い始め、保育士が1対1で付き添った。医療的ケアである導尿は、看護師や家族らしかできないため、母親(41)は毎日、昼休みに勤務先から駆け付けていた。

 今年2月、園から「2歳児保育になる4月からは預かれない」と伝えられた。

 園によると、1歳児保育は園児が少なく「はいはい」中心だが、2歳児保育は園児が格段に増え、自由に動き回る機会も多く、園児同士がぶつかってけがをする危険性がある。

 中日新聞の取材に、園長は「大規模災害が起きたり、家族が事故で迎えに来られなかったりした場合は、女児に導尿できない。職員の精神的負担も大きく、無責任には預かれないと判断した」と話す。

 女児の母親は市保育課に相談したが、取り合ってもらえなかった。母親は「園から連絡があれば、すぐに足を運んでいた。『障害児の受け入れは3歳以上』という市の考え方も納得できない」と憤る。正職員として働く看護師の職を辞めることも考えたが、「小中学生の姉弟も育ち盛り。共働きでなければ家計は厳しい」。

 結局、世帯収入に応じて保育料が決まる認可保育所は見つからず、4月から認可外保育所に女児を預けた。朝の出勤時間を遅らせる必要に迫られ、保育料もこれまでの3倍を超す月7万円台に膨れ上がった。

 母親は嘆く。「障害児の母親は働いてはいけないのでしょうか」

 茨城キリスト教大の江尻桂子教授(発達心理学)が2013年に実施した調査によると、小中高生の障害児がいる母親の就労率は49・2%。40代既婚女性の平均に比べ2割ほど低かった。「保育園や幼稚園の受け入れ態勢は整っていないだけに、未就学児の母親はより厳しい数字が予想される」と指摘する。

 障害児保育の開始年齢に国の明確な規定はなく、市区町村の裁量に委ねられているが、多くは豊橋市と同じ3歳以上としている。

 豊橋市保育課は「3歳未満は成長過程にあり、障害の有無や程度がはっきりしないため、適切な保育の提供が難しい」と説明する。

 3歳以上の障害児を預かる市の指定園には、身体障害児3人に対し、保育士1人を追加配置し、年間340万円を補助する。

 女児が通っていた私立保育園に保育士の追加配置や市の補助はなく、園の「自助努力」で預かっていた。女児は今年4月中に3歳になったが、2歳児保育は、その年度の4月1日時点で2歳の子が1年間対象。

 たんの吸引や導尿などの医療的ケアは、研修を受け、資格を得れば保育士もできるが、対応可能な園は全国的にもほとんどない。

 江尻教授は「障害児の母親は、働くことを初めから不可能と思い込み、あきらめている人も多い。障害児保育のニーズは高まっており、行政は障害児の受け入れ態勢を整えるべきだ」と話す。

(2015年5月19日)

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