その男の仕事は金を増やす事だ。
託された金を増やす。
全国の投資家から集まった140億円を株などに投じる。
上がるか下がるかは相場しだい。
ばくちとも言われるこの世界で男の安定度は屈指。
預かった金を1年に10%増やしてきた。
その実績で主要格付け会社が選ぶ最優秀ファンドに輝く。
だがこの男の本当のすごみはその先にある。
単にもうけるだけの投資には興味がない。
投資の力で苦境にあえぐ会社を立て直してきた。
世界の第一線で闘ってきたスゴ腕金融マン。
かつては巨大ファンドで10兆円を動かしたリーダー。
今金融の可能性を探り続ける。
(主題歌)子供の時父が事故で働けなくなり苦労の日々を送った。
巨大ファンドで闘い続けた日々。
金に心をむしばまれていった。
この冬課題を抱える会社から融資の依頼が舞い込んだ。
迫られる決断。
信念の金融マンに密着!ファンドマネージャー新井和宏の仕事場は都心を離れた鎌倉にある。
電車で1時間半揺られ通勤する毎日だ。
オフィスは85年前に建てられた古民家だ。
新井は7年前この古民家を拠点に仲間と共に金融ベンチャーを立ち上げた。
机にかばんを置くとまず向かう所がある。
トイレだ。
新井は社長が行うトイレ掃除のチェック係。
だが時々自らトイレを磨く。
生来凝り性の新井。
一旦やり始めるときっちりしないと気が済まない。
部屋には世界中のニュースや為替レートの情報が常にモニターされている。
朝一番の仕事が始まった。
投資している株の売り買いだ。
新井は全国9,000人の顧客から合計140億円を預かっている。
その資金を株式などに投資し増やすのが新井に託された第一の仕事だ。
刻々と動く株式市場でいつどのタイミングで株を買い売るか。
見極めを誤ればばく大な損失を出しかねない。
この日投資先の一つの株に買い注文が殺到していた。
決算発表のあと株価は更に上がると期待して市場では買い注文が殺到している。
だが新井は逆の手を打った。
迷わず売り注文を出した。
この日手持ちの株を売買し差し引き141万円のプラスとなった。
変動し続ける相場を相手に安定して稼ぎを生み出せるのはなぜなのか。
胸に刻む流儀がある。
新井は社会的に意義があるなど事業に共感している46社の株に投資している。
そしてある大原則を設定しそれを厳密に守り抜く。
1つは全ての会社に同じ金額を投資する事。
こうする事である1社の株が暴落しても全体で大きなダメージを受けないようにしている。
そして日々の売り買いでは株価が値上がりした分を回収し再び全体が均等になるよう振り分ける作業に徹する。
新井がこだわるのは自分の読みを挟まずこの原則を守り抜く事。
ある株に上がる兆しが見えても資金を追加したりは絶対にしない。
応援する会社全体の成長に合わせ資産を堅実に伸ばす。
それが新井の哲学だ。
これがこの5年間の運用成績。
震災以降の市場全体の株価が大きく下げた時期でも新井たちのファンドの下げ幅は小さかった。
最初に預かった出資金はこの5年で170%にまで増えている。
新井が最も多くの時間を費やす事がある。
新たな投資先を選ぶための企業回りだ。
この日は補聴器を作るメーカーを訪れた。
この会社は耳の聞こえにくい人がより快適に暮らせるように音質や操作性にこだわってきた。
その理念に共感した事が今回投資先の候補に選んだ理由だ。
補聴器は小さな市場のためライバルが現れにくい点も魅力だ。
だが新井はこれだけでは投資に踏み切らない。
必ず調べる事がある。
新井は会社に社員面談をさせてほしいと常に依頼する。
注目するのは若手社員の声だ。
雑談風に話しながら仕事について尋ねていく。
(笑い声)
(笑い声)社員たちから少しずつ会社に対する本音を聞き出す。
新井が見極めたい1つの事がある。
どんな企業もいい時ばかりではない。
苦境に見舞われた時ふんばれるかどうか。
それを左右するのは社員の仕事への気持ち。
それを見極める事こそ最大のリスクヘッジだと新井は信じる。
この日若手社員から明確なやりがいを感じた新井。
投資に向けた手続きに入る事にした。
この日新井さんはある会社を訪ねていた。
都内に店舗を構えている愛媛のタオルメーカーだ。
実は新井さんたち株式の投資で得た利益で4つの企業に対して特別な活動を行っている。
このタオルメーカーは12年前取引先が倒産したあおりを受け経営破綻に陥った。
再起を試みたものの銀行から融資を断られた。
その時新井さんたちは自分たちの利益は度外視し破格の条件で8,000万円を貸し出し再生を助けた。
理由はこのメーカーのものづくりに対する姿勢。
無農薬の木綿にこだわり工場の電力は風力発電。
未来のためを考えたその姿勢を応援したいと考えたからだ。
新井さんたちが投資ファンドを立ち上げた本当の目的がここにある。
まだ実績のない会社を思い切って応援する事だ。
この会社はどんな衣料品も分解してエタノールに変える技術を開発した。
だが社員僅か16人で資金も足りず事業を拡大できずにいた。
新井さんたちは低金利で1億を貸し設備投資を応援している。
そしてこれは衰退している林業を再生し地域を元気づけようとする会社。
どこの金融機関からも融資を断られ破綻寸前だったが新井さんたちが資金を助けついに事業が黒字となった。
新井さんが目指す姿がある。
戦後の日本。
志のある小さな会社を銀行がリスクを負って応援する事で数々の企業が育ってきた。
だがバブル崩壊によって銀行の経営が苦しくなると中小企業などへの貸し渋りが起こった。
それで本当にいいのか。
金融のあるべき姿を新井さんは考え続ける。
(笑い声)新井さんは昭和43年横浜の生まれ。
実家は小さな畳屋だった。
だが小学5年生の時父親が自動車事故に見舞われ生活は一変した。
職人として以前のようには働けず家計が一気に苦しくなった。
通っていた塾をやめ高校はアルバイトで生活費を稼ぎながら通学。
大学も昼間働けるよう夜間部へ。
いつも思っていた。
(新井)お金があれば自分はもっと幸せになれるはずだって思ってたんですよね。
大学卒業後就職したのは給料が高いと聞いた信託銀行。
そこで出会ったのが高度な数学を駆使して利益を生み出す最先端の投資理論だった。
猛勉強の末その理論を我が物にし32歳で外資系の運用会社に転職するとすごい仕事が待っていた。
運用を任された資産は実に中規模国家の予算に匹敵する…自らの報酬も一気に上がりついに成功をつかんだと思った。
だがそのころから心の中の何かが急速にむしばまれていった。
プログラムの僅かなミスでも巨額の資産が吹き飛ぶ世界。
必死で相場の動きを読もうとしてもその動きは複雑怪奇。
そして…。
衝撃のテロによる株価の大暴落。
全ての努力もむなしく数兆円が一瞬で消える事態も目の当たりにした。
無理に無理を重ねついに39歳の時体が限界を迎えた。
つかの間の休日家族で旅行に向かう飛行機で新井さんは倒れた。
そして手足に激しい発疹が生じ靴下もはけないほどに皮膚がただれた。
医師の診断はストレス性の難病。
もはや働ける体ではなかった。
先が見えないまま結局退職するしかなかった。
金融という仕事に精も根も尽き果てていた。
そんなある日の事。
ふと立ち寄った書店で一冊の本が目に留まった。
紹介されていたのは日本の各地で奮闘する小さな会社。
何度苦境に陥っても雇用を守り給料もカットしなかった長野の寒天メーカー。
知的障害を持つ人たちを積極的に雇用している川崎のチョークメーカー。
頭を殴られたような気がした。
それから半年後の2008年秋。
新井さんはかつての仲間たちと自ら会社を立ち上げた。
志のある企業を応援する本当の金融をやる。
新井さんたちは各地で説明会を開き投資してくれる人を募った。
1年半後新井さんのもとには267人が出してくれた3億741万円が集まった。
そして投資ファンドが運用開始。
新井さんは選び抜いた企業の株に投資しながら更に支援したい会社を探し求め全国を訪ねて回った。
地域の林業再生に取り組む会社は出会った時運転資金が底を突きかけていた。
環境に優しいタオルメーカーは取引先倒産のあおりを受け苦境に陥っていた。
そして今7年目。
新井さんの考えに賛同する投資家は1万人に達しようとしている。
社会の役に立つ金融へ。
新井さんの思いは広がっていく。
今年1月。
新井は一つの会社に向かっていた。
事業拡大のため是非資金を貸し出してほしいと依頼されていた。
会社を率いる胤森なお子さん。
20年前から先駆的なビジネスを手がけてきた。
主力の商品は女性向けの衣料品や小物。
この販売を通じて社会貢献を目指してきた。
商品をインドやバングラデシュの農村地帯で生産し貧しい暮らしを余儀なくされている人々に現金収入を確保している。
現地で暮らしていける賃金を保証する「フェアトレード」と呼ばれる事業。
自然な風合いを生かしたデザインで売り上げを年間9億円近くまで伸ばしている。
ありがとうございます。
早速社員の面談が始まった。
社員のほとんどは会社の志に共鳴しアパレル業界から転職してきた。
仕事へのモチベーションは極めて高い。
しかし新井には一つ懸念を抱く事があった。
それは給与など社員の待遇面の事だった。
社員の表情は明るく当面心配は見当たらない。
だが現地を考える一方で自分たちの満足が後回しになりすぎていないか。
事業としては是非とも応援したい案件。
しかし新井は慎重に進める事にした。
2週間後。
新井はフェアトレードの会社から財務状況に関する資料を取り寄せていた。
1つ重要な数字が見えてきた。
この会社では現地の生産者に対して代金を前払いで支払っていた。
通常現地の生産者への代金は出来た製品と引き換えに支払う。
だがその代金を注文の時点で前もって支払う事で生産者の暮らしを支えようという配慮だ。
売れ行きは順調とはいえこの前払い金を常に銀行からの借り入れに頼っている事が新井は気になっていた。
2日後新井は再び胤森さんのもとを訪ねた。
資金を提供した場合どう使うのかを詳しく聞いていく。
胤森さんの答えはその資金を前払い金に充て更に発注を増やしたいというものだった。
現地にはまだ仕事が持てない人々が大勢いる。
そこに少しでも多く商品を発注し暮らしを支えたい。
胤森さんの会社に投資するかどうか新井は悩んでいた。
是非とも応援したい事業。
だが資金を貸せば会社は更に借金を背負う事になる。
投資を検討する社内会議の日を迎えた。
続けて懸念材料も伝えた。
投資について慎重な意見が持ち上がった。
まあいいや。
これ次回確認する。
今すぐ資金を貸し出す事は会社のためにならない可能性がある。
新井と同じ見方が大勢を占めた。
だが会議を終えたあとも新井は考え続けていた。
懸命に社会に貢献しようとしている胤森さんたちを支える手は本当にないのか。
金融に何ができるのか。
1週間後新井は胤森さんの会社に向かった。
まず率直に今は投資を行わない事を伝えた。
そしてその上である提案を切り出した。
新井の1つ目の提案はこの会社と提携する相手を探すというアイデアだった。
販売網などの面から力になれる会社に応援してもらう。
そして借り入れに頼り過ぎない経営に転換していく事の大切さを語った。
新井はあえて率直なアドバイスを胤森さんに伝えた。
(新井)ありがとうございました。
今後ともよろしくお願いします。
こちらこそ。
ありがとうございます。
30分に及ぶ話し合いが終わった。
胤森さんは新井の話を前向きに受け止めていた。
(主題歌)ありがとうございました。
どこまでも謙虚に誰よりも強く思いそして日々の努力を積み重ねられる人。
そうすれば誰もいけないところにいけるかな。
(拍手)2015/05/16(土) 01:10〜02:00
NHK総合1・神戸
プロフェッショナル 仕事の流儀「ファンドマネージャー・新井和宏」[解][字][再]
世界最高峰の資産運用会社で働き、マネーゲームの最前線にいた男が、“金融のあるべき姿”を追う!“社会を支え豊かにする会社”に投資し、安定した運用実績を上げる闘い!
詳細情報
番組内容
かつて世界最高峰の資産運用会社で働き、マネーゲームの最前線にいた男が、“金融のあるべき姿”を追っている。ファンドマネージャー・新井和宏。皆が注目する大企業だけでなく、過疎地で林業再生に取り組む会社など、“社会を支え豊かにする志”を持つ会社を、独自の基準で見定め投資。そのやり方で安定した運用成績を維持し、主要格付け会社が選ぶ最優秀ファンドに選ばれている。信念の金融マンの闘いの日々に密着した!!
出演者
【出演】ファンドマネージャー…新井和宏,【語り】橋本さとし,貫地谷しほり
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ドキュメンタリー/教養 – ドキュメンタリー全般
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ドキュメンタリー/教養 – その他
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