プラント建設で実用化への第一歩
ここは太古の海の中。小さな藻が、ポツリポツリと、細胞分裂を繰り返し、増殖を始める。すでに海は過密状態だ。苦しい。藻は海中に生まれながら、自ら泳ぐ力がない。そうだ。細胞壁内に油脂を蓄え浮力を得よう。これで水面に近づいて光合成ができるぞ。アチッ! 今度は太陽光線が強烈だ。そうだ。油脂をまとえば光線から身を守れるぞ――。
藻からジェット燃料を生産するプラントの建設に着手する。
いま「藻」から抽出される油に熱い視線が注がれている。ミドリムシで話題となったユーグレナをはじめ、各社、藻から油を抽出し、商用利用に向けた研究を進めているが、当面の目標はジェット燃料としての利用だ。藻類から抽出される燃料は軽質で航空機の燃料に向いており、また、世界的に航空機の二酸化炭素排出規制が強まっていくトレンドがあるためだ。日本でも、2020年には航空機燃料の10%をバイオマス燃料に代替する目標を掲げている。
その一方、従来の陸上植物(トウモロコシやパームヤシ)を用いたバイオマス燃料は、単位面積当たりの収益性が低いため、大規模化による環境破壊を引き起こすほか、農地を食料・飼料と奪い合い、穀物価格の高騰を招くなど、弊害も多い。単位面積当たりの収益性が高く、大規模な農地も必要としない藻によるバイオマス燃料は、実用化すればまさに夢のエネルギー源となるのだ。
そうした中、実用化への確かな一歩を踏み出した会社がある。MOIL(モイル)株式会社だ。この5月には、藻からジェット燃料を生産するプラントの建設に着手する。すでに用地は取得済みで、着工を待つばかりだ。黒島光昭社長は、「今回、我々が計画しているのは、藻の培養からオイルの精製、燃料用の水素添加設備まで、一気通貫したプラントです。このような設備は日本初となります」と話す。
これまでの藻から燃料をつくるプロセスは、いずれも実験室レベルの話であった。実用化に向けた取り組みと言っても、培養池をつくり、数年をかけて実証データを取っていくといった長期的な計画段階にとどまっているものも多い。ところが同プラントでは、乱暴な言い方をすれば、培養設備から生産設備を通してバルブをひらけば、実際に“使える燃料”が出てくるわけで、まさに画期的。ベンチャー企業でありながら、国立大学や中小企業の協力を得ながら「核となる技術の開発を愚直に行ってきた成果」(黒島社長)であり、実用化への第一歩が始まったと言えるのだ。
藻の油脂含有率はの70~80%
もちろん「藻」それ自体の優位性もある。例えば、ミドリムシの油脂含有率は一般的に25%程度とされる。ところがMOIL社の藻は、油脂含有率が70~80%と極めて高い。
プラントのイメージ図。
「この藻を得たことで、プラント建設への道筋が見えたのです。いくら環境にいいと言っても、価格競争で勝てなければ市場には参入できませんから」と黒島社長。さらに同社の藻から精製したオイルは、すでにアメリカのASTM規格に合格しており、燃料としての実用に適合するお墨付きを得ている。
「それだけではありません」と、黒島社長は藻の特徴をさらに説明する。
「当社の藻は、倍加速度(藻が細胞分裂する速度)が約1.7日と、とても速いのが大きな強みなのです。プラントでは、実験室を飛び出して、大規模にこの成長効率を維持することを実証して行くつもりです」
絵図面を見せてもらうと、藻を充填したパイプを連ねた培養設備と、精製設備が併設され、どこか未来的な景色だ。しかし、いざ建設となると課題も多かった。培養池は農地でも構わないが、ジェット燃料をつくるためには水素の添加設備もいる。それは農地には建てられない上に、消防・防災の壁もある。これまで、一貫した生産設備ができなかったのは、そうした困難があるからだ。
今回のプラント建設について、同社は「藻から精製するオイルは無限です。化石燃料がいつ枯渇するかはわかりませんが、有限であることは間違いない。我々は、資源のない日本を産油国にしたいのです。そのためには、培養から燃料生産まで可能なプラントのひな形を世に示す必要がある。日本は、高い技術力がありながらもスピード感で世界に負けてきた。今回のプラント建設は、日本が勝つために先手を打ったのです」と力を込める。藻のオイルを「日本の底力」として、産業を支えていきたい考えだ。
同社では、早々に空港への燃料販売を始める計画だ。藻が浮力を得るために蓄えたオイルが、飛行機を飛ばす未来もそう遠くはない。
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