社説:「大阪都構想」実現せず 橋下政治が否定された

毎日新聞 2015年05月18日 02時30分(最終更新 05月18日 06時35分)

 大阪は高齢化が急速に進み、貧困、治安、教育など多くの課題に直面している。都構想が一定の注目を浴びたのも、住民が大阪の将来に対して抱く危機感が強いためだ。府・市議会の与野党は対立を強めたが、結果が出た今、歩み寄って現状を打開する知恵を出し合うべきだ。京都、神戸との広域連携や首都機能の移転など、視野を広げて関西全体の活性化策も多角的に探りたい。

 国政選挙や地方選挙の投票率が低下傾向にある中、投票率は65%を超えた。自分の住む自治体のあり方を考えることに住民の関心が高いことを示した。

 ◇集中是正の議論続けよ

 大都市制度を巡っては、道府県と政令市との二重行政、大規模な政令市でのきめ細かい住民行政の難しさ、政令市の権限拡大に伴う道府県の役割の空洞化など、多くの問題が積み残されている。東京集中の是正とともに地域の実情に応じた都市制度の議論を急がねばなるまい。

 橋下氏は首長の地位にありながら新党を率いて中央政界に進出し、野党第2党の維新の党最高顧問と地域政党・大阪維新の会代表を務める。橋下氏が政界引退を表明した以上、大阪維新の会は党の存在理由を再定義する必要があろう。

 維新の党は安倍政権との対決に基軸を置く江田憲司代表らと、改憲論議に積極的で安倍晋三首相や菅義偉官房長官と近い橋下氏らとの間に温度差がある。菅氏らが橋下氏にエールを送ったのは、安全保障法制や改憲問題での維新の党との連携を念頭に置いたためだろう。しかし橋下氏が政界を去れば、一部野党を巻き込む形で政権運営をより強化し、憲法改正につなげたい首相官邸の戦略にブレーキがかかる可能性がある。

 野党再編の動向にも影響する。維新の党の存在感が低下することで、来夏の参院選に向けた野党間の選挙協力は民主党主導が強まることが予想される。性急な再編論議と一線を画する意見が強まるとみられる。

 橋下氏の主張が少なからぬ国民の共感を呼んだのは、しがらみのない構造改革で既成政党と対決する期待感からだった。だが、石原慎太郎元東京都知事らとの合流などを経て、いわゆる「第三極」勢は迷走を続け存在感は埋没気味だ。

 野党がしっかりしなければ、自民党1強状態での国会は健全に機能しない。腰を据えて安倍内閣との対立軸を構築する努力を野党側に改めて求めたい。

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