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【社説】

週のはじめに考える 鳥と風力発電の共存は

 愛鳥週間は昨日で終わりましたが、鳥を愛する気持ちは持ち続けたい。風力発電は野鳥を殺し、共存できないといわれますが、本当でしょうか。

 日本野鳥の会が来月、刊行する野外鳥類学論文集「Strix(ストリクス)」に「風力発電が鳥類に与える影響の国内事例」と題する論文があります。著者は野鳥の会の浦達也主任研究員です。

◆オジロワシ43羽犠牲

 浦さんに話を聞きました。

 希少種のオジロワシがこれまでに四十三羽も風力発電が原因で死んだそうです。バードストライクと呼ばれる衝突死です。「オジロワシは鹿の死骸を食べるとき、一緒に散弾銃の弾を食べて鉛中毒になる被害が多かったのが、風力発電に変わりました」と言います。驚くのは、ほぼ半数は同じ町にある風車で死んでいるのです。

 驚くことがもう一つありました。論文の狙いは風力発電を止めることではなく、野鳥と風力発電の共存の道を探ることだというのです。オジロワシが教えてくれたのは、鳥が犠牲になるのはごく一部の風車だということでした。

 鳥は風を利用して飛びます。風力発電の適地も「風の通り道」です。バードストライクが起きるのは、渡りのコースか、巣と餌場などを往復するコースに風車がある場合がほとんどです。

 発電用の風車は大型化が進み、陸上用で主流の二千キロワット級は羽根の先端が高さ百十八メートルにも達します。これを何十基も並べてウインドファーム(集合型風力発電所)を造ります。洋上風力はさらに大型の風車を使います。風車の羽根に色を付けるなどの工夫もしていますが、鳥に風車を避けさせる効果的な方法はまだ見つかっていません。

◆風力発電は世界19位

 一方、渡り鳥の中には、一キロ以上も先にある風車に気付いてコースを変更するものもいます。夜、渡る鳥は夜目も利きます。それでも風車の場所が悪ければ事故は起きます。衝突しなくても、渡りの障害になるのも問題です。

 渡りのコースは、幅がせいぜい一キロぐらいといいます。大規模な風力発電所なら、鳥が飛ぶコースを避けて風車を配置する、渡りのシーズンは機器の定期点検をして風車を止める、という方法もあります。餌場と巣の往復も、時間は比較的、決まっています。稼働率は下がりますが、その間だけ止めるのも一つの方法です。鳥任せでは知恵が足りません。

 国内で潜在的な発電量が大きいのは風力発電です。日本風力発電協会によると、発電設備容量は陸上風力が二億キロワット、洋上風力を含めると六億五千万キロワットもの可能性があります。しかも再生可能エネルギーの中では、もっとも安価です。海外では建設ブームですが、国内で昨年、稼働した設備は約二百七十万キロワット。世界十九位です。

 二〇一二年に固定価格買い取り制度ができ、太陽光発電はブームになったのに、風力の普及が進まないのは、一万キロワット以上の発電所は環境影響評価(アセスメント)が義務付けられたためだといいます。日本風力発電協会の花岡隆夫事務局長は「国はアクセルとブレーキを同時に踏んだ」と表現します。環境アセスには数年の歳月と一万キロワットあたり一億円から二億円の費用がかかるそうです。

 協会の会議室には、風力発電の適地が一目で分かる日本地図がありました。北海道から東北に適地が広がっています。

 この地図に欠けているものがありました。建設に不向きな場所の情報です。騒音問題、野鳥の保護が必要な地域といったマイナスのデータを重ねれば、本当の意味での適地が分かります。浦さんの論文はそういうマップを作ろうという提案です。

 鳥類に関しては基礎データが不足しています。野鳥の会だけでは人手が足りません。公開した情報が、密猟などに悪用されない仕組みも必要です。事業者と国、自治体、住民、自然保護団体などが協力し、知恵を出し合えば鳥と風力発電の共存は実現できます。

◆人にも自然にも優しい

 風力発電協会には最近、新規入会が増えています。そうした企業の一つSBエナジーは「地域住民や自然保護団体との合意形成が重要。風車メーカーにバードストライク防止につながる風車の開発を要請するなど、問題意識を持って進めることも大切だと考えます」と話しています。

 国は三〇年度の電源構成で、風力発電は約一千万キロワットの設備容量しか見込んでいません。協会は三千六百二十万キロワットの設備容量を目指しています。純国産エネルギーで、人にも自然にも優しいとなれば、発電量が多くなることに異議を唱える人はいないでしょう。「共存」は風力発電の発展のためにも重要なキーワードです。

 

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