【コラム】安倍演説を成功させた「話術」

人の心を動かすには「主張」よりも「話術」が必要だ

【コラム】安倍演説を成功させた「話術」

 先月29日に行われた日本の安倍晋三首相による米上下両院議会演説におけるハイライトは、硫黄島の戦いのくだりだった。安倍首相は座席に座っていた二人の人物に立ち上がるよう求めた。一人は1945年、23歳の若さで硫黄島での戦闘に中隊長として参加した米軍の予備役中将で、もう一人は硫黄島で日本軍の総司令官だった栗林忠道中将の孫である自民党議員だった。安倍首相はその場で握手を行う二人をたたえながら「かつての敵が今日の友となったことを示す、まさに歴史の奇跡だ」と叫んだ。演説を聞いていた議員らは盛大にスタンディングオベーションを行った。

 安倍首相が「過去に対する和解」を語るに当たって、硫黄島の戦いを取り上げた理由は何だろう。そして米国はなぜ安倍首相の言葉に共感を示したのか。これは当然の帰結ではない。本来、この戦闘は米国人にとっては「栄光」というよりも「苦痛」、あるいは何か恥ずべきものと考えられてきたからだ。当初、米軍はこの島を簡単に占領できると考えていたが、結果は悲惨なものだった。米軍は6800人以上の戦死者を出し、2万6000人以上が負傷した。これに対して日本軍は2万2000人のうち生き残ったのはわずか1000人余りだった。この戦闘で日本軍を指揮した栗林中将は優れた戦略とリーダーシップを駆使し、米軍を最後まで苦しめた。生き残った米兵は誰もがこの戦闘を「地獄だった」と振り返っている。

 それにもかかわらず、この戦闘が安倍首相の演説において両国の和解を語るエピソードとして紹介されたのは、世界的にはあまり知られていない硫黄島の戦いが、「戦争への反省」「戦没者の追悼」そして「国のための犠牲の精神」をたたえる一つのシンボルのようになったことにある。その背景にはナラティブ(物語を語る話術、語り口)が大きく影響していた。大衆の心をつかむ書籍や映画により、硫黄島の戦いを知らせる努力が何年も前から行われていたのだ。

国際部=崔元碩(チェ・ウォンソク)次長
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