社説:スポーツ庁 五輪後見据えた施策を
毎日新聞 2015年05月17日 02時30分
スポーツに関する施策を総合的に推進するスポーツ庁が今年10月、発足することになった。
東京オリンピック・パラリンピックの開催を5年後に控え、メダル獲得を目指す各競技団体は国による財政支援の拡充に期待を寄せる。
一方、2011年に制定されたスポーツ基本法はスポーツを通じて国民が生涯にわたり心身ともに健康で文化的な生活を営むことができる社会の実現を目指すとうたっている。その理念を踏まえれば、誰もが楽しめるスポーツ環境の整備も重要で、トップスポーツを強化するためだけの組織にしてはならない。
スポーツ行政の一元化については1987年の臨時教育審議会答申が「スポーツ省の設置」の必要性に言及していた。行財政改革の流れの中で停滞していたが、2年前に東京五輪の招致が成功したことなどによって設置への動きが加速した。
文部科学省の外局となる新組織は文科省のスポーツ・青少年局を母体とし、これまでスポーツ行政を別個に担ってきた国土交通、外務、経済産業、厚生労働、農林水産など各省の職員を加え、5課約120人体制でスタートする。
だが、既得権益を守りたい各省の抵抗もあって権限と財源の一元化はできず、スポーツ庁は、司令塔的な組織として関係各省と連携して総合的な施策の立案や調整を進めることになった。縦割り行政を実質的に解消できるか懸念は残る。
日本のスポーツ界はいくつもの宿題を抱えている。
そのひとつは競技団体のガバナンス(組織統治)の確立だ。日本オリンピック委員会(JOC)加盟の競技団体の多くは会計や法律などの専門家がいない。組織としての基盤が弱いことが国からの補助金の不適切処理などにつながっている。
メダル獲得目標の達成に向け、競技団体には今後、多額の強化費が配分されるだけに、経理や法務など事務局業務を支援する態勢を構築することが急務だ。
スポーツ庁には、長年教育政策に位置付けられてきた学校体育と運動部活動が移管される。
大阪・桜宮高のバスケットボール部員が自殺した後も暴力的指導は根絶されていない。競技経験や医科学的知識がないまま部活の顧問を任されている教員が少なくないことが一因とされる。指導者の資質向上を目指し、大学の教員養成課程のカリキュラムに部活指導を組み込むことを検討しなければならない。
20年東京五輪はゴールではない。競技力の向上を図りつつ、五輪後を見据え、日本スポーツ界の土台を固めることが重要だ。