スポーツ報道の限界。選手の成功と親のサポート物語。

谷口輝世子 | スポーツライター

マイナー時代のクリス・ブライアントのポスター。父の熱心な指導を受けている

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子どものスポーツと親のサポート

今、子どもが集団に属してスポーツを始めようとすれば、保護者は何らかのサポートをする必要がある。

学校の運動部活動であっても、個人で必要な用具を揃えたり、休日の練習や試合のために弁当を持たせたりすることもある。幼児や小学生期に習い事としてスポーツをする場合には、費用や送迎も負担しなければいけない。

プロスポーツで活躍する選手や、国際大会の大舞台で優秀な成績を残す選手たちが報道されるとき、選手の保護者がどのように子育てし、サポートしたのかも伝えられることがある。選手の育成には、指導者だけでなく、保護者の頑張りが不可欠なようにも思える。

スポーツ報道でも取り上げられる親のサポート

日本だけでなく、米国でも親のサポートを紹介するスポーツ報道は多い。

5月11日付のニューヨークタイムズ紙はメジャーリーグのカブスに昇格したスーパースター候補、クリス・ブライアント内野手を父親のマイク・ブライアントとともに取り上げている。 

父のマイクはマイナーリーガーとしてプレーしたが、メジャーには昇格できず、プロ選手としては成功しなかった。引退後は屋外で使用する家具会社を経営していたが、息子の練習に付き添うことができるように会社を売却。平日の朝9時から午後5時までの職業に就いた。家の裏庭には照明付打撃ケージを作り、息子を指導したという。

同じようなストーリーはこれまでにいくつも報道されてきた。タイガー・ウッズが父親から英才教育を受けた話。テニス界のスター、ビーナス、セリーナのウィリアムズ姉妹の父はテニスの指導法について学び、娘たちをトレーニングしてきた。

このような保護者による指導やサポートといったエピソードを入れた報道は、読者や視聴者に「我が子をエリート選手にするためには保護者も相当に頑張らなければ」という印象を与えるかもしれない。 

しかし、ちょっと立ち止まって欲しい。

成功例しか報道していない

スポーツ報道はファンの多いプロスポーツや注目の集まる国際大会や代表戦について伝えることが多い。そこで活躍する選手たちは多くの競技者の中からトップになった「大成功例」である。報道は、一握りの成功者たちが、親からどのようなサポートを受けてきたかについて伝えているに過ぎない。親から献身的なサポートを受けていても、選手として成功しなかった人は、プロになることも、国際大会に出場することもないため、スポーツ報道ではなかなか取り上げる機会がないのだ。

子どもたちが選手として成功していくためには、親の適切なサポートがあったほうがよいということは言える。しかし、成功するためには、親の献身的な支えが絶対に必要かどうかは分からないし、親がサポートすれば、子どもが成功するとも限らない。 

ひっそり伝えられる「成功しなかった」選手たち

保護者の近視眼的な行き過ぎたサポートによって、有望選手が成功にたどり着く前に競技をやめてしまったケースもある。こういったケースは報道で取り上げられることはないし、たとえ、レポートされるとしてもひっそりとしか伝えられない。一般的な読者や視聴者は活躍している選手について知りたいと思うが、表舞台に出てこなかった選手についてはあまり関心を持つことがない。取り上げられたとしてもメディアを通じて日常的にその選手のプレーを見ているわけではないので、それほど印象に残らないということもある。

こんなケースがあった。

米国のスポーツ専門テレビ局ESPNで将来のスーパースターバスケットボール選手として紹介された少女がいた。当時15歳。彼女の保護者は熱心に練習や有料トレーニングに参加することをサポートし、数多くの強豪大学から奨学金をつけてリクルートされた。この少女は高校卒業と同時にすぐに大学の練習に参加。しかし、2日後に退部したのだ。周囲は驚いたが、彼女はこのように話したそうだ。

実は13歳ごろからバスケットボールへの情熱を失っていた。自分にウソをついて生きていた。

保護者の大きな期待を感じ、プレーする情熱を失っていることを誰にも明かせず、自分自身もだましながらバスケットボールを続けてきたが、大学入学と当時にようやく自分の本心を明らかにしたのだ。

もうひとつは、プロ選手で「大成功できなかった親と子」のストーリーだ。元NFL選手のトッド・マリノビッチだ。彼は母親の胎内にいるときから、プロアメリカンフットボールのQBになるようにと、父親によって注意深く育てられてきた。父によって口にする食べ物や、トレーニングメニューが厳格に決められており、それに沿って生きてきた。

厳格な育成方法はある程度までは成功したといっていいだろう。高校時代には州のパス記録を作り、南カリフォルニア大でも活躍し、レイダースからドラフト指名を受けて入団した。しかし、マリノビッチは大学時代から薬物依存症に陥っていた。父親からの厳しい制限が、彼の薬物依存にどこまで影響したのかは分からない。ただし、父から英才教育を受けたが、薬物依存によるトラブルもあってNFLレベルでは大活躍できなかった選手、とはいえるだろう。

大成功例に振り回されない

スポーツをしている全ての子どもがプロ選手や代表選手になれるわけではないし、どの親も大成功例の保護者と同じようにサポートをできるわけではない。 

各家庭によって、保護者が子どものスポーツに何を望み、どんなことを期待するのかは違う。どのくらいのお金と時間を費やすのか、家庭での生活や子どもの学業ともバランスをとらなければいけない。

スポーツ報道による「大成功例」を追いかけるのではなく、保護者は現実的に支えるしかない。どれだけ有望なエリート選手と期待されていても、家庭のなかではまず、親であり、子どもであるべきなのだろう。 

谷口輝世子

スポーツライター

スポーツ紙で日本のプロ野球を担当。98年から米国に拠点を移しメジャーリーグを担当。2001年からフリーランスのスポーツライターに。現地に住んでいるからこそ見えてくる米国のプロスポーツ、学生スポーツ、子どものスポーツ事情をお伝えします。著書『帝国化するメジャーリーグ』(明石書店)『子どもがひとりで遊べない国、アメリカ』(生活書院)。分担執筆『21世紀スポーツ大事典』(大修館書店) 連絡先ktaniguchiアットsportsfromusa.com

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