アバヤン島・ゲレミヤカ村=郷富佐子 須藤大輔 松井望美
2015年5月17日03時08分
海岸の防護壁は崩れ落ち、無人の村の家々の中には貝殻が散乱している。ヤシの木は倒れている。
南太平洋の島国キリバス。アバヤン島沿岸のテブンギナコ村は200人以上が内陸部へ引っ越した。10年ほど前、大潮の際に海水が胸の高さに来るようになり、今では頭より高くなる。元村人のアアタ・マロイエタさん(68)が住む海から100メートルほど内陸の村でも最近、道が海水につかった。「でも逃げ場がない。島は真っ平らだから」
■主食を失う可能性も
キリバスの首都タラワ。沿岸部のビゲニコーラ集落に大量の海水が押し寄せたのは、3月のことだった。
「強風が吹き、夜中に床上まで海水が入ってきた。朝に水が引くまで皆で神に祈った。6歳の孫娘が『沈むのはいや。逃げる船をつくって』と頼むんだ。ここを離れる日が近づいていると実感した」。集落長のエリア・マエレレさん(65)は暗い表情で振り返った。
バヌアツなどを襲った大型サイクロン「パム」が、強い熱帯低気圧が来ない赤道地帯とされてきたキリバスもかすめたのだ。
集落では、10年ほど前から大潮のときに海水が入り始め、今ではひざ下まで浸水するようになっていた。「パムで海水が胸の高さに達したのは最終宣告なのか。気候変動はここでは現実だ。先進国は実態を知り、支援してほしい」。マエレレさんは訴えた。
33の環礁からなるキリバスはサンゴが堆積(たいせき)してできており、平均標高はわずか2メートルほど。気候変動による海面上昇の影響を受けやすく、「温暖化で最初に沈む国」の一つとされる。
政府は昨年、フィジーに約20平方キロの土地を買った。アノテ・トン大統領は「海面上昇や塩害で耕作地がなくなった場合の食料確保のためだが、最悪の場合は移住の場にと考えたこともある」と明かす。
温暖化の影響は島国の山間部でも指摘されている。パプアニューギニア(PNG)の山岳地帯にあるゲレミヤカ村。標高1600メートルを超える畑で、タイガーマン・テネンゲさん(34)は山肌にはりつくようにして草刈りをしていた。
年間を通して主食のサツマイモを栽培し、半月前には100キロ近く入る袋で13袋も収穫した。熱帯にありながら朝晩は肌寒いが、「この何年かは暖かくなったせいか3カ月に1度、収穫できる」と顔をほころばせた。
今は農民を喜ばせる「暖かい気候」への変化に、実は警鐘が鳴らされている。
アジア開発銀行(ADB)の2013年版「太平洋地域の気候変動経済」は、「最悪のシナリオでは、50年までにPNGのサツマイモ収穫量は50%減る」との見方を報告した。
ADBのエコノミスト、シンヤン・パーク博士は「長期的な温暖化の影響には干ばつなど降雨量の変化や作物の病気の流行も含まれる。さらに気温が上がれば、主食を失うことにもなりかねない」と指摘する。(アバヤン島・ゲレミヤカ村=郷富佐子)
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