アヤックスユースの特異なトレーニング法
日本人アナリストが明かす“個”の高め方
ユースアカデミーに求められること
UEFAユースリーグはラウンド16で敗退したものの、魅力的なサッカーを見せたアヤックス。彼らは“個”に特化するなど思い切ったトレーニングメソッドを導入している【VI-Images via Getty Images】
グループリーグの彼らは、バルセロナ、パリ・サンジェルマン、アポエル・ニコシア相手に4勝2分けという圧倒的な強さを発揮した。MFアブデルハク・ヌーリ、ドニー・ファン・デ・ベーク、ウインガーのバツラブ・チェルニーらタレントもそろっていた。個の力とチームプレーが融和して、見ていて面白く、そして強いチームだった。アヤックスのユースアカデミーでビデオ分析を担当する白井裕之は、グループリーグを振り返って「狙っていたサッカーをバルセロナ、パリ相手にできて、結果も出せたのは素晴らしかった」と語った。
それだけに年明けの決勝トーナメント1回戦で、ローマ相手に0−0からのPK戦(5−6)で敗れたのは、アヤックスにとっては悔しいという一言しかない。
「分析も含めてすべてうまくいっていたんですけれど、PKを決め切れず負けたのは納得できない。イタリアのチーム相手に負けるときには、いつも同じような形。良い試合をしても最後に勝ち切ることができない。それはアヤックスのみならず、オランダサッカーの課題だと、僕もベンチから見ていて強く思いました」(白井)
アヤックスは選手の自給自足で名高いクラブだ。今季のA1カテゴリーから、すでにリーチェドリー・バゾール、ジャイロ・リーデバルドがトップチームに定着した。しかも彼らは22、23歳になると移籍していくため、ユースアカデミーは速いサイクルでトップチームに選手を供給し続ける必要がある。さらに、アヤックスには欧州のトップクラブに返り咲くという高い目標もある。ユースアカデミーは究極の“個”を生み出すことにアクセントを置きながら、サッカーチームとしても結果を残さなければならない。そのため、アヤックスのユース世代(A1、A2/アンダー18、B1/アンダー17)はかなり思い切ったトレーニングメソッドを導入している。中でも午前中は“個”のトレーニングに特化した。
“個”に合わせた午前のトレーニング
「午前中のトレーニングは“個”に合わせてカスタマイズされてます。個々の選手の強いところを強化したり、弱いところを改善したりするためにコーチと1対1、もしくはグループで取り組む」(白井)
インディビジュアルトレーニングは、サッカーの技術に関すること。ウインガーのクロスを強化改善したいのなら、かつてサイドアタッカーとして鳴らしたブライアン・ロイコーチの指導のもと、何本もクロスを蹴ったりする。ペナルティーエリアの中のゴール感覚を伸ばしたいのなら、ストライカーだったジョン・ボスマンコーチが走り込みのタイミングなどをアドバイスする。ポゼッションならば、華麗なMFだったリシャルト・ビチュへコーチの出番だ。
パフォーマンストレーニングとは、フィジカル系の強化だ。
「アヤックスに“パフォーマンス”という分野ができたのは4年前。それまでアヤックスには“テクニカル”と“メディカル”の2つのカテゴリーしかなかったが、ヨハン・クライフのプランによって“パフォーマンス”を作った」
パフォーマンスコーチは近代五種、トライアスロン、砲丸投げ、柔道といったサッカー外の分野から22〜23人が集められている。
「クライフの考えは、サッカーの世界では補完できないようなスペシャリストを他の世界から連れてくることだった。パフォーマンスコーチの指導によって、体のバランスが右の方が強い選手がいたら左を強くしたりとか、左のキックが弱かったら強くするとか補足のトレーニングを筋トレなどで行う。また、サッカーのトレーニングで行うときもある。例えば右ウイングで内側に入ってきたときの左足シュートとか、ロイの元で練習する。それもパフォーマンストレーニングなんですよね」(白井)