ひたちなか海浜鉄道:新「中古車両」に更新へ 人気の旧型車両の処遇は?
2015年05月16日
茨城県ひたちなか市が本社の第三セクター、ひたちなか海浜鉄道は、レトロな雰囲気で鉄道ファンの人気を集めてきた旧型車両3両を引退させ、年内にJR東海などから購入した中古のディーゼル車(気動車)「キハ11」3両に更新する。車両代替の舞台裏を探った。【米田堅持】
◇競争相手はミャンマー
「本当は4両欲しかった……」。同鉄道の吉田千秋社長は、旧型車両4両を更新するため、JR各社などの車両の情報収集をしていた。JR東海が気動車を入れ替えるという情報を入手して昨年末に交渉をしたが、実際に確保できたのは3両だけ。残りはミャンマーへ輸出されるため入手できなかった。JRだけでなく、日本各地のローカル線からも鉄道車両が海を越え、経済成長著しいミャンマーへ運ばれている。海外からの思わぬ「伏兵」に吉田社長も苦笑するしかなかった。
◇JRと同じ狭軌でもトラックで輸送
ようやく確保した3両は、2014年度補正予算で国の補助金交付対象となり、急いで譲渡手続きを進めた。だが、「大物」ゆえに輸送方法が決まらない。同鉄道とJRのレール幅は同じ規格で1067ミリメートルの狭軌なので、鉄路で輸送するのが最も安上がりのはずだが、輸送用ダイヤを組むのに数カ月かかる。また、車両を預かってもらえる場所がないほか、JR東日本と接続する勝田駅(茨城県ひたちなか市)のポイント整備に数百万円かかることがわかり、断念した。結局、稲沢駅(愛知県稲沢市)から那珂湊駅(茨城県ひたちなか市)までトラックで2日間かけて輸送し、4月30日に那珂湊駅に運び込んだ。
◇外国人客が3割
同鉄道は、東日本大震災で線路などが被災して全線が運休、一時は廃線の危機に見舞われたほどだった。関係者の懸命の努力で昨年は52年ぶりの新駅となる「高田の鉄橋駅」(茨城県ひたちなか市)を開業させ、黒字化も視野に入るまで業績を回復させた。「キハ11の輸送も新駅の開業も大変だったが、震災を地元をはじめ多くの人々とともに乗り越えて以来、どんな困難も何とか道は開けると思えるようになった。」と吉田社長は笑顔を見せる。
今年は上野東京ラインの開業で、首都圏からJR常磐線の接続利便性が向上したほか、ひたちなか海浜公園のネモフィラの花畑も話題になり乗客増に。3割がアジア系を中心とした外国人だった日もあり、「知名度がアップして外国人観光客が増えた。外国語表記の案内なども必要かもしれない」と吉田社長は話す。今後の課題として国際化への対応が浮き彫りになっている。
◇気になる旧型車両の行方は……
新たな車両が入ることは、同鉄道のレトロな雰囲気を盛り上げてきた旧型車両3両が引退することも意味する。置き換えられた車両は冷房化され、最高速度も速くなるためダイヤ編成の自由度が増し、乗客サービスは向上する。できるだけ早く整備して、暑い時期に間に合わせたいのが本音だ。
一方で、快適性は劣るが、旧型車両は鉄道ファンなどから根強い人気があり、イベントの目玉になっている。17日に那珂湊駅で行われる「ひたちなか海浜鉄道開業7周年記念祭」では、キハ11のほかに旧型車両の代表であるキハ222を展示することが決まっている。
旧型車両は整備部品の確保をできず、日々の運用が難しい。補助金の条件は「代替」なので引退は避けられない。「大事にしてくれる人がいれば、無償譲渡するが輸送費までは負担できない。せっかくなので何らかの形で残せたらと思っている」と「功労者」の処遇に吉田社長らは頭を悩ませている。