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新聞が書く「自衛隊の幹部」とは

Photo by 陸上自衛隊 北部方面後方支援隊
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小川 和久, 2015年5月16日

Q:小川さんは、2014年11月25日付「読売新聞」朝刊3面スキャナー「陸海空自 連携まだ途上」という記事で、射程百数十キロの陸自対艦ミサイルが外洋の艦艇を攻撃できないとしたのは誤りだ、と繰り返し指摘。同時に「自衛隊幹部」という不確かな情報源についても批判を加えています。この「自衛隊幹部」という表現に関して、考えを聞かせてください。

小川:「その記事については、当メルマガでも何度か取り上げました。読者のみなさんは、読売新聞の論説委員から『対艦ミサイルに関して誤った情報を提供した紙面を修正する目的で、改めて解説面などで』『編集局の意向として、近日中に紙面化する』と連絡があったにもかかわらず、いつ、どんな誤報をしたのかにすら一切触れない記事が出た経緯を、おおよそご承知でしょう」(参考=【GoHooコラム】読売新聞は誤報を誤魔化そうとしている)

「その後、私は、マスメディア報道の正確性などを検証し『報道品質』向上やメディア・リテラシーに有益な情報を提供する日本報道検証機構のニュースサイト『GoHoo』(ゴフー)にも関連記事を寄稿しましたので、リンクを紹介しておきます(⇒【GoHoo】誤報を通報)。誤報では、と疑問に感じる記事を見かけたら、このサイトにチェックを。場合によっては、情報提供も受け付けています」

◆「自衛隊幹部」と書いてはダメ

Q:「自衛隊幹部」というのは何ですか? 「自衛隊内部の情報源」という意味で新聞が使う表現として、適当だと思いますか?

小川:「読売新聞の2014年11月25日付朝刊では、自衛隊幹部が『離島防衛では3自衛隊の協力が不可欠』と語ったことになっています。また、2015年2月13日付朝刊では、自衛隊幹部が『今のままでは、効果的な打撃を与えることは難しい』と語ったことになっています。そこで、手近にある辞書で『幹部』という言葉を引いてみます」

●角川国語辞典
 かんぶ【幹部】会社・団体の中心となる人。
●大辞林 第三版(三省堂)
 かんぶ[幹部](1)団体の中心となる者。首脳。「劇団の-」「組合-」(2)旧陸軍の将校・下士官。「 -宿舎」

小川:「すると、読売の記事は『そうか、自衛隊の中心となっている人物がそう語ったのか』という話になりますね。中心となる人だから、たぶん重要人物なのでしょう。これは一見すれば通りそうですが、実はまったくのインチキです。結論からいえば、ロクな人物に取材をしていない事実を曖昧にボカしたまま逃げようとする、あるいは隠蔽しようとする表現というべきです」

「というのは、私が週刊誌記者をやっていた30~40年前でも、自衛隊の匿名証言は、たとえば『陸上幕僚監部の一佐』というように、ある程度具体的な書き方でなければ、デスクも編集長も納得しませんでした。ところが、『自衛隊幹部』では、自衛隊内部のエラそうな人という以外、とくに意味はありません。そんな書き方しかできないのは、情報源として信頼に足る人物ではないからだろう、としか受け取りようがありません」

「最近、週刊誌を見ていると、たとえば『テレビ局関係者』といった肩書きの人物が、ネットに氾濫しているような、ごく当たり前のコメントをしている記事を見かけます。こういうのもインチキですね。テレビ局の玄関に立っている警備担当者でも、弁当を届ける出入り業者でも、『テレビ局関係者』といえるわけです。そんな書き方しかできないのは、ロクな取材をせず、ネットからパクって記事をでっち上げているからだろう、と思って間違いないでしょう」

「さらに、自衛隊幹部という表現が好ましくないのは、自衛隊には『幹部自衛官』という正式な階級の名称があって、これと混同するおそれがあるからです。幹部自衛官は2士から将まで16ある階級のうち3尉以上の8階級(将・将補・1佐・2佐・3佐・1尉・2尉・3尉)を指します。これは旧軍でいえば士官または将校(大将・中将・少将・大佐・中佐・少佐・大尉・中尉・少尉)で、自衛官約24万人のうち約4万人が幹部自衛官です」

「新聞記者が、幹部自衛官という意味で自衛隊幹部と書いたのだとしたら、最年少の場合は23歳の3尉です。そんな新人に自衛隊を代表するコメントができるのか、という話になってしまいます」

kanbu_jieikan自衛隊札幌地方協力本部「9,000名の”リーダー”を目指そう」5頁より

◆「防衛省幹部」という書き方

Q:メディアは「防衛省幹部」という書き方もしますね。これについては?

小川:「中央官庁は、どこも『幹部名簿』というものをつくって公表しています。いくつかリンクを示しておきます」

  • 防衛省内部部局幹部名簿
  • 海上保安庁幹部名簿
  • 外務省幹部名簿
  • 経済産業省幹部一覧
  • 厚生労働省幹部名簿

小川:「以上から一目瞭然、中央官庁では、事務次官以下おおむね課長・室長・あるいはそれに準じる企画官・○○官といったポストまでを幹部としています。課長補佐(防衛省では「部員」と呼ぶ)は、キャリア(国家公務員試験の総合職・上級甲種・I種などの合格者)官僚でもちろん幹部候補ですが、まだ幹部とはされていません。もちろん中央官庁の課長や室長は、一般企業でいう係長の上の課長とは比べものにならないほど大きな権力(監督権や許認可権など)をもっていますし、たいていの県に出向している課長は副知事としてです」

「ただし、メディアが情報源として書く場合は、上のような幹部名簿に名前を載っている人物の場合でも、ただ『○○省幹部』という肩書きは好ましくないでしょう。これでは、何の担当者かまったくわかりません。中央官庁には『省益』どころか、『局益』『課益』という言葉があるくらいで、同じ課長級でも、ある問題について異なる見解をもっている場合が少なくないのです。たとえば『○○局のある課長』『○○省○○局の幹部』と書くほうが、はるかに記事の信頼性が増すはずです」

(聞き手と構成・坂本 衛)

* 編集注 この記事は、会員制メールマガジン『NEWSを疑え!』第395号(2015年5月15日号)より了承を得て一部転載しました。

  • (初稿:2015年5月16日 06:00)
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タグ: 報道改革

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小川 和久

執筆者について
小川 和久

静岡県立大学特任教授、国際変動研究所理事長。

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