中国では今、2500年前に孔子が唱えた「儒教」が、共産党政権のお墨付きを得て急速に復活しつつある。孔子の生まれ故郷・山東省の曲阜(きょくふ)では、地元政府が観光の目玉にしようと高さ73mの巨大な孔子像を建設中だ。都市部では、子ども向けの「論語」塾が続々と誕生し、「儒教」教育が一大ブームとなっている。一人っ子政策でわがままに育った子どもに、儒教の礼儀や道徳を学ばせたいと考える親が急増しているからだ。
5年前の2010年、中国南西部にある貴州(きしゅう)省の山村で、子どもたちに「論語」を教え始めた青年がいる。貧困家庭の子どもの就学を支援するNGO「貴州民間助学会」で、現場責任者を務める石卿傑(せき・きょうけつ)さん(30歳)。目的は貧困からの脱出だ。
貴州の山奥では、貧困のため学校を途中でやめて出稼ぎに出たり、結婚したりする子どもが少なくない。石さんは、子どもたちに「論語」を暗記させることで勉強への意欲を高め、大学進学や都会での就職という夢を持たせたいと考えた。それから5年。石さんは今、大きな壁にぶつかっている。子どもたちをとりまく現実は厳しいまま。石さん自身もNGOのわずかな収入では結婚もできず、両親の老後の面倒も見られない。「親孝行を説く儒教を教えてきたのに」と苦悩する。
孔子の「論語」に始まった夢づくりの試み、その結末は一体どうなるのか。格差が広がる社会の中で貧困からはい上がろうと奮闘する青年と子どもたちの5年間をカメラが追った。
(内容59分)