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水を調べれば生き物が分かる 環境DNA
5月9日 18時27分

水を調べれば生き物が分かる 環境DNA
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川や海などの水を調べれば、そこに、どのような生き物がいるかが分かる「環境DNA」と呼ばれる新しい技術が今、大きな注目を集めています。日本で独自の進化を遂げた技術で、絶滅が危惧される生物の保護や漁業などへの応用に期待が高まっています。
この技術は神戸大学の源利文特命助教らの研究グループなどが開発しました。
川や海などの水をくんで、フィルターによって生き物の粘液やふんをこし取り、それを分析してDNAの情報を明らかにすることで、その場所にどのような生き物が住んでいるかを見破ります。
この技術の実証実験には国内の多くのグループが取り組んでいますが、このうち、源特命助教らのグループは、国の特別天然記念物に指定されているオオサンショウウオの生息調査を行っています。オオサンショウウオは夜行性で岩の陰に隠れて生息するため、調査はこれまで夜間に川に入り、くまなく探す必要がありましたが、この技術で京都府や兵庫県の川を調べたところ、水をくんで分析しただけで、実際にオオサンショウウオが生息していることを確認できたということです。
一方、北里大学のグループは、この技術を使い、絶滅が危惧されるニホンウナギの稚魚を、外国産の別の種のウナギの稚魚と見分ける手法を開発し、ことし3月、日本水産学会で発表しました。この手法を使えば、魚を殺すことなく、一度に大量の稚魚の種類を判別することが可能になり、水産庁は今後、ウナギの稚魚の販売業者や養殖業者に活用してもらうことを検討しています。
また、この技術は生き物がそこにいるかだけでなく、どれほどいるか、量を推測することにも利用できることが分かってきました。京都大学のグループは京都府の舞鶴湾で潜水調査によって明らかになったマアジやカタクチイワシの量と、海水のDNAの量の関係を調べました。その結果、実際に海の中で確認できた魚の量と、DNAの量は同じ傾向を示すことが分かったということです。
この「環境DNA」と呼ばれる調査技術は日本で独自の進化を遂げましたが、最近では欧米でも技術開発が進んでいて、各国間の競争は激しさを増しています。技術を開発した源特命助教は「今後は、より高い精度で、住んでいる生き物の種類を判別できるようにしたい」と話しています。

微量のDNAを増幅させて判別

水をくんで調べるだけで、なぜ、住んでいる生き物が分かるのか。
今回、研究グループが着目したのは川や海などに住む魚や両生類から放出された微量のDNAでした。DNAを分析するには水をまず、ガラス繊維で出来た目の細かいフィルターでこします。一見、透明に見える水でもフィルターには茶色い不純物が残され、この中に魚や両生類の体の粘液やふんが含まれています。
ここから薬剤や遠心分離器によってDNAを抽出したあと、専用の機械にかけて、その特徴を増幅させて分析することにより、合わせて4時間ほどで、どの生物のDNAかを判別できるということです。
神戸大学の源・特命助教がこの手法を思い付いたのは今から7年前で当時、問題となっていたコイヘルペスウイルスの研究を行っている時でした。コイを飼育している水槽の水から、ウイルスのDNAを調べようとしたところ、コイ自体のDNAが多く検出され、魚のDNAが水に溶け出していることに気付いたということです。そして、こうした現象が川や海などでも起きている可能性があると考え、調査したところ、さまざまな生き物のDNAの検出に成功したということです。
DNAの分析で、その持ち主を特定する手法は警察が犯人を探し出す手法の1つとしてすでに確立されています。しかし、川や海に溶け出したDNAの濃度は極めて薄いため、生き物の判別に使うのは難しいと考えられていましたが、微量のDNAを増幅して高い精度で分析する機械が登場したことなどで、新技術の開発につながったということです。
この「環境DNA」の技術は現在、欧米でも開発が急速に進んでいますが、日本では水産分野への応用などで独自の進化を遂げるとともに、技術面でも世界をリードしています。
源特命助教は「これまで考えられなかったような、生態学の新しい研究分野が生まれる可能性を秘めている」と話しています。

DNA分析と実際の調査 結果はほぼ一致

「環境DNA」の技術を開発した神戸大学の源特命助教らのグループは、絶滅のおそれがあり、国の特別天然記念物にも指定されているオオサンショウウオの生息調査にこの技術を用いています。
オオサンショウウオは大きいもので、体長が1メートルを超える世界最大の両生類ですが、水の流れが急な川の上流で岩場に隠れて生息しているうえ、夜行性でもあるため、その姿を捕らえることは困難でした。
源・特命助教らは兵庫県西部の佐用川の43か所で水をくんで分析したところ、9か所からオオサンショウウオのDNAが検出されました。その結果を基に先月、オオサンショウウオが実際に生息しているかの調査を保護活動に取り組んでいる市民グループの協力を得て行いました。夜間に10人余りで、川の中を懐中電灯で照らして探したところ、実際に体長60センチから80センチほどのオオサンショウウオが合わせて7匹見つかったということです。
源特命助教によりますと水の流れが激しい川の上流でも、DNAが検出された場所と生息が確認された場所は、ほとんど一致したということで今後、川の中でDNAがどのように拡散しているのか研究を進めたいとしています。
15年間にわたって保護活動を続けている「佐用川のオオサンショウウオを守る会」の山川修さんは「大がかりな調査をしなくてもいるか、いないかが分かるので非常に助かる」と話していました。
一方、オオサンショウウオを巡っては近年、一部の地域で日本固有の種の生息が中国産の外来種によって脅かされています。「環境DNA」の技術は、こうした在来種と外来種の区別もできるということで、源特命助教は「外来種の侵入を早い段階で発見することができるので、より早く、駆除などの対策を取ることができる」と話しています。

生息数の把握にも応用の可能性

「環境DNA」の技術は、特定の生き物が住んでいるかだけでなく、どれくらいいるのか、量を推定することもできることが分かってきました。
京都大学舞鶴水産実験所の益田玲爾准教授は実験所に面した舞鶴湾で月に2回、同じコースを潜水して観察できた魚などの種類や数を記録しています。
3年前からは潜った場所の水を採取して、DNAを分析する調査も併せて行っていますが、その結果、マアジやカタクチイワシ、それにアカクラゲなど複数の種で観測できた数とDNAの量の変化が同じ傾向を示すことが分かったということです。
また、最新の分析機を用いれば、1杯の水からサワラやブリ、コノシロなど湾内で確認されている、さまざまな魚のDNAが、その量とともに一度に検出され、複数の魚の量が同時に把握できる可能性も示されました。
益田准教授は「魚を一切、傷つけることなく、膨大なデータを取得でき、水産資源の量を把握したり、海水浴シーズンにクラゲの大量発生を予測したりするのにも活用できる。海の資源を管理していくうえで非常に有用なツールになる」と話しています。
益田准教授は魚がどのようにDNAを海水に放出するのか細かく調べ、広い海で水産資源を正確に把握できる手法の開発を進めたいとしています。

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