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» 2015年05月15日 05時00分 UPDATE

「訴えてやる!」の前に読む IT訴訟 徹底解説(15):作業は丸投げ、支払いは?――元請けvs.下請け裁判の行方 (1/2)

東京高等裁判所 IT専門委員として数々のIT訴訟に携わってきた細川義洋氏が、IT訴訟事例を例にとり、トラブルの予防策と対処法を解説する本連載。今回は、元請けから仕事を「丸投げ」された下請けが、支払いを求めて元請けを訴えた裁判を解説する。

[ITプロセスコンサルタント 細川義洋,@IT]
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「訴えてやる!」の前に読む IT訴訟 徹底解説

連載目次

 IT訴訟事例を例にとり、トラブルの予防策と対処法を解説する本連載。前回までは、「ユーザーが資料をくれないのは、ベンダーの責任です」「締結5日前にユーザーが白紙撤回! 契約は成立? 不成立?」など、「ユーザーvs.ベンダー」という構図で判例の紹介をすることが多かったが、今回は少し趣向を変えて「元請けvs.下請け」のお話をする。

 私の調停や裁判での経験からすると、この両者の力関係は、ある意味ユーザーとベンダー以上で、元請けは下請けにかなり危険な状況で作業を着手させることがある。

 具体的には、元請けが(最終顧客である)ユーザーから正式な発注を受けていないのに下請けに作業をさせる、その契約が締結に至らなくても下請けに費用を支払わない、元請けが勝手に機能を追加してそのまま下請けに行わせる、といったことがよく見られる。そして、こうした無理難題を断り切れる下請けは少ない。むしろ「そういうところに柔軟な対応ができることが自分たちの強みだ」と考える下請け業者すらいるほどである。

 しかし、ソフトウエア開発のあるべき姿や下請法の観点から見て、また他の業界と比べて、ソフトウエア業界のこうした状況は健全なものとは言えない。こうした責任分担で作業をすれば、下請けは常に大きな損害を被る危険と隣り合わせで作業をすることになる。

 こうしたやり方で下請けに作業をさせることは、実は元請け自身にも危険が及ぶ可能性がある。今回は、そんな判例を見ていこう。

支払いを拒む元請けベンダー関する裁判の例

【事件の概要】(東京地裁 平成25年8月26日判決より抜粋して要約)

原告:下請けソフトウエア開発ベンダー(以下 下請け)
被告:元請けソフトウエア開発ベンダー(以下 元請け)

 あるソフトウエアベンダー(以下 元請け)が、共済向け会計管理システムを受注し、その詳細設計、プログラミングなどを別のソフトウエアベンダー(以下 下請け)に委託した。しかしプログラムの品質などの問題で、エンドユーザーである共済からの検収を受けられなかった。

 こうした状況を受け、元請けは下請けへの残金支払いを拒んだ。理由は、共済からの検収を受けられなかったのは、下請けの成果物に多数のバグがあったためであり、元請け自身も下請けに対して検収を行っていないとのことだった。しかし下請けは、「元請けは、実質的に検収を行っていた」と主張し、残金の支払いを求めて訴訟となった。

 元請けが「残金を下請けに支払わない理由は、下請けが作成したプログラムにバグが多く、そのために最終顧客から契約を解約されたからだ」と言うのは、客観的に見て理屈が通っているように感じる。契約は開発の委託(請負契約)であり、元請けが下請けに検収書の発行もしていないという事実を考えて、私は、元請け側に分があるように思えた。ところが、実際に出た判決は、元請けに厳しいものとなった。

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