「明治安田生命J1リーグ 1stステージ第11節サンフレッチェ広島戦」における、岩下敬輔選手の行為についてのお詫び
2015年5月10日(日)に行われました、「明治安田生命J1リーグ 1stステージ第11節サンフレッチェ広島戦」におきまして、弊クラブ所属、DF 岩下敬輔選手が相手選手に対しプレーとは関係のない場面で、肩と肘をぶつけるという行為を行いました。これは、Jリーグが掲げるフェアプレーに大きく反す る行為であり、岩下選手の行為は決して許されるものではありません。日頃Jリーグを応援していただいているファン・サポーターの皆様、Jリーグ・クラブを ご支援いただいている関係各所の皆様に不快な思いをさせてしまったことを深くお詫び申し上げます。

本日、岩下選手は、公益社団法人 日本プロサッカーリーグ(Jリーグ)規律委員会から直接、事情聴取を経て厳重注意を受けました。この処分をクラブ・本人ともに真摯に受け止め、クラブとし てもチーム規律に基づき厳重注意を行うとともに、フェアプレーの徹底に取り組むべく、チーム全体に対して再発防止に向けた指導・教育を行ってまいります。

ご迷惑をおかけした皆様には重ねてお詫び申し上げます。
今回の処分について、個人的な感想はひとまずおいておきます。
また、岩下という選手の過去の所行、広島との因縁、同試合における清水選手との絡み方なども排除し、あくまであのシーンだけを取り上げ、どうしてこういう処分に到ったのか、先日のミンヒョクとの違いはなんなのかを考えてみます。



まず当該シーンです。
G大阪@広島
主審:扇谷健司
副審:作本貴典、村上孝治
四審:池内明彦

後半11分広島FKの場面。
野津田のシュートが枠を外れGK判定。
清水が自分のポジションに戻ろうとした瞬間……
上がっていた岩下がその走路に入り、肘を胸に入れ、その後肩をアゴ辺りに入れているでしょうか。
清水が倒れ、それに気づいた扇谷主審がプレーを止めて駆け寄ります。

しかし、肝心のストライキングの瞬間については、扇谷さんはGKかCKかの判断を仰ぐべくA2村上さんの方を見ており、目線をやっていません。
無題
また、A2も当然ラインアウトの判定が優先されるため、件のシーンには視線をやっていません。
清水の元に近寄った扇谷さんがインカムを抑えて何か聞いてる姿が見えますので、A2及び四審に「何があったか分かるか?」と確認したものと思いますが、おそらく誰も見ていなかったのでしょう。
結果、誰にもカードが提示されることなく、プレー再開となりました。

この一連の流れと、競技規則のとある一節を前提として、色々と浮かぶ疑問を考えてみましょう。
競技規則 25ページ
主審の決定

プレーに関する事実についての主審の決定は、得点となったかどうか、また試合結果を含め最終である。

プレーを再開する前、または試合を終結する前であれば、主審は、その直前の決定が正しくないことに気づいたとき、または主審の裁量によって副審または第 4 の審判員の助言を採用したときのみ、決定を変えることができる。



①この肘うちは退場相当か?
まず最初の疑問として、これを扇谷さんが見ていたらレッドカードを出していたかという点。
競技規則的には今回の行為は「相手を打つ」というもので、ストライキングと呼ばれる類です。

代表的なのは以下の例。
2014W杯GL第2節カメルーン対クロアチア プロエンサ主審 - とりあえず
上記の例と今回との違いは「インプレー中かアウトオブプレー中か」という点。
今回はボールは既にラインを割っており、アウトオブプレー中の出来事です。

もしこれがインプレー中の出来事であれば、「進路を塞ぐ際に肘で打ったファウルプレー」という形になります。
その場合、この行為を「著しく不正なファウルプレー」と見るか、「乱暴な行為」と見るか、「通常のストライキング」と見るか。
前者2つであれば一発退場に相当しますが、単純な「ストライキング」と見た場合、その強さが判断基準になってきます。
これが「過剰な力」であると見れば退場、「無謀」と見れば警告(ラフプレー)、「不用意」と見ればカード無しとなり、警告止まりだったり、注意で済ませた可能性もあるかと。
しかしこれはアウトオブプレー中の行為であり、その場合は「乱暴な行為」として処理されるべきもの。
よって、やはり「見ていれば退場」という判断が妥当であろうと思います。



②清水は「岩下にやられた」と証言したのではないか?
しかし、主審は行為を把握したものの、レッドカードを出す対象を見失いました。
この時、おそらく清水は「岩下に肘うちされた」と扇谷さんに伝えたことでしょう。
では、「主審が選手の言葉を採用してカードを出す」ということが許されるのか。
結論から言うと上記の「副審または第4の審判員の助言を採用したときのみ、決定を変えることができる」という項目からノーであります。

似たような例としては、今年序盤にあった渡邉千真のシミュレーション。
恩を仇で返した渡邉千真。明らかなシミュレーションは、事後で罰則を科すべきでは?|CHANT(チャント) FC東京版|コラム|サポーターが作るソーシャルサッカーマガジン
これに関して「千真は吉田主審にシミュレーションであることを自白したが、主審が聞き入れなかった」という話が伝わっています。
真偽の程はわかりませんが、吉田主審がそれを採用しなかったのも仕方ない話。
誤審と薄々気づきつつも、審判団以外の言を取り入れて判定を覆すということは、競技規則的にNGな訳ですからね。。。

余談ですが、この場面で千真が本当に懺悔するつもりがあるなら、主審に言うのではなくPKを自ら権田に渡すなどして欲しかったですね。
「俺自白したんだけどさー。主審が聞かなくってさー」と言いつつ、PKはきっちりもらっておこうという態度はいただけません。

とにもかくにも、審判団の誰もが首謀者を特定できなかった時点で、「退場相当の行為があったと把握しつつも退場者は出さない」という決定が下されたことになります。



③ミンヒョクとの違いはなんなのか?
では、同じように退場相当の行為にレッドカードを出せなかった事例で、ミンヒョクと岩下の追加処分に差が付いたのは何故でしょうか。
それは、「行為を把握していたか」という点にあると推察できます。

先日のミンヒョクのシーンは、「踏みつけ」という行為そのものを把握できていませんでした。
よって、映像により「不正行為が新たに確認された」として、追加処分が行われたわけです。
河井とミンヒョクの処分 - とりあえず
上記の事実関係の確認を踏まえ、本件について(公財)日本サッカー協会 競技および競技会における懲罰基準に照らして審議した結果、キム選手の金崎選手の 顔部分を踏みつけた行為は、「選手等に対する暴行・脅迫および一般大衆に対する挑発行為」に該当し、試合中に審判員が確認できなかった「極めて悪質な行 為」と判断、4試合の出場停止処分とする。
ミンヒョクの処分の際、「主審が見落としたおかげで後から追加処分できた。もし見た上で警告にとどめていたら処分は出来なかっただろう」と書きましたが、今回は「行為は把握した上でカードを出さない」という形になってしまったため、「それが最終である」との競技規則の文言に則り、規律委員会による追加処分が出来なかったと思われます。



④対象者が特定できなかったために出せなかったカードを映像確認で出せないのか?

しかし、映像を見れば、対象者ははっきりとわかります。
今回はそれを元に事情聴取も行い、本人も認めています。
それでも追加処分は行わないのか。

このパターンとしては、こちらの例が挙げられます。
2014J2第14節 福岡@湘南 消えた警告 - とりあえず
警告対象のファウルがあったものの、アドバンテージで一旦プレーオン。
なかなかプレーが途切れず、2分ほどしてようやく止まったので、さて先程の警告をと家本主審が思ったところ……
警告対象者が誰なのか、わからなくなっていました。。。
そのため、この場面で出すことなく試合続行となり、後日に追加処分なども行われませんでした。
このように、「カードを出すつもりであったが出せなかった」という決定は、主審のミスとして留め置かれ、これに追加処分は出さないという考え方なのが、こちらの事例からも確認できます。

なお、この場面で相手ベンチから「8番!8番だって!」と、警告対象者が誰か伝える声が入っていますが、家本主審はそれを採用せず。
これは上記の「審判団以外の意見は採用すべからず」という部分に則ってのものですね。




⑤警告者を間違えた場合、公式記録はそのままでも、累積分は修正されるではないか?
「警告できなかった選手に追加で出すことはないけど、間違えて警告した場合、修正するやん」
という例がこちら。
J-22選抜の警告で「人違い」…累積対象選手を変更 | ゲキサカ[講談社]
Jリーグは14日、2日に行ったJ3第30節において、警告の取り扱いに間違いがあったと発表した。リーグは「日本サッカー協会審判委員会を通じて、警告処分の対象となる選手が『人違い』であることが確認されたため」と説明している。

問題の場面はFC琉球対Jリーグ・U-22選抜の前半4分、J-22選抜DF前田凌佑に 対してイエローカードを提示された。しかし検証の結果、本来の警告対象選手はDF鈴木翼であることが確認されたため、前田の累積警告を取り消し、鈴木に累 積警告を参入すると決定した。しかしサッカー競技規則に則り、公式記録の変更は行わないという。
海外でもよくあるパターンですが、警告や退場者を間違えた場合、それに伴う累積や出場停止だけは修正されることがあります。
「その試合で下された判断は、誤りであっても主審の決定が最終。ただし、その試合以外に影響する部分だけは訂正する」
こういう考え方かと……



⑥まとめ
競技規則、即ちFIFAの考え方をまとめると、
・審判団は審判団以外の意見を採用してはいけない。
・その上で、誤審や処分しきれなかった案件があっても、その決定は最終のものである。
・試合後の追加処分は、審判団が見落としたもの、もしくは他の試合に関わる誤りがあった場合のみとする。
となります。

よって、今回のケースで岩下に追加処分を科すためには…
「肘うちあったのは確実だから、ガンバの誰か退場にしておくわ。みんな岩下って言ってるけど、それ信じるわけにいかんから、とりあえず宇佐美、お前な。間違ってたら後で変えるから」
こういう手段を扇谷さんが取るしかなかったと。
そうすれば、ガンバは一人足りない形で試合を続けることになり、退場相当の行為に応じた罰を受けますし、次節にはちゃんと岩下が出場停止になっていたわけですね。
めでたしめでたし。



…って、こんなもん受け入れられるわけがない。
やはり、主審は見ていないものに対して吹いたり、懲戒罰を与えてはいかんでしょう。



⑦今後どうすべきか。
と言うことで、上記を踏まえて私見および提言。

今の競技規則、及び懲罰規定に基づいて考えると、ミンヒョクの追加処分による4試合の出場停止も、岩下が厳重注意処分に留まったことも、理解はできます。
しかしどちらの事例においても、元になる考え方に不備があるのではないかという印象は、殆どの人が共通して感じるところでしょう。

ミンヒョクの例では、懲罰規定における「乱暴な行為」の出場停止処分がそもそも軽すぎると感じます。
「著しく不正なファウルプレー」においても、初回は1試合というのが相場になっており、これも軽すぎるというのは常々言っているところ……
こういう行為を無くしていくためにも、やはり厳罰化をもって、絶対に許さないという断固たる姿勢を見せる必要があるのではないでしょうか。

そして、「審判団が試合中に確認できず、処分が出来なかった行為」をどう考えていくか。
完全に見落としたものには追加処分が可能です。
でも、行為に気づいていたけど、確証が持てなかったから対処しきれなかった問題に対して、
「その場の決定が最終で、追加処分は行わない」
という考え方は、これだけ映像による検証が可能になった時代、修正されても良いのではないかと思います。

もちろん、全てのシーンで主審の判断が尊重されるというのは大前提で、それが失われることに繋がってはいけません。
ただ、今回の処分は、結果的に「その場で退場にしなかった主審が悪い」と言ってるも同義で、追加処分を行わなかったことで、逆に審判団の風当たりを強くしているように思えます。
そもそも、広いフィールドを4人の審判団でフォローすること自体に無理があり、特に今回のように「ボールのないところで、予想も出来ないような行為」が行われる点まで目を配れというのは現実的ではありません。
そう言った行為を無くすためにも、映像や後日の聴取で確認できた点は、試合中の処分よりも重い懲戒罰をもって接し、やり逃げを許さない姿勢を見せていく必要があるのではないかと感じます。

まあ、FIFAが競技規則そのものを変えてくることは期待できませんが、規律委員会の規定はJFA独自に手を加えられる部分ですから。
フェアプレーを守るためにも、Jが踏み込んだ案を採用しても良いのではないかと思いますねえ。



なんにせよ。
今回のことで、Jリーグの選手や、それを目指す子ども達が、「ばれなきゃいいんじゃん!」なんて受け取らないことを祈るばかりです。
審判が完璧でないことを悪用するのでなく、理解した上で協力して良い試合を作っていく。
これがフェアプレーってもんじゃないですかねえ。