大好評を博した「ブラーのベストソング10曲」に続くのは、もちろんこのバンド。2014〜2015年にかけ再評価の波が起きているオアシスです。久保憲司さんによる「オアシスのベストソング10曲」をお楽しみください!(編集部)
1. Live Forever
ノエルは「ある晩、ストーンズの『メイン・ストリートのならず者』の「Shine A Light」聴いていて、『メイビー〜』というあの殺しのメロディーが浮かんだ」とうそぶいているけど、この曲は僕らの世代の「レット・イット・ビー」ですよね。デモではノエルのレット・イット・ビーなギター・ソロが「ガンズ・アンド・ローゼズのスラッシュのリードギターのようだ」とプロデューサーのオーウェン・モリスにカットされたんですよね。当時はインディーバンドがこれやるかとずっこけたんですけど、ノエルの確信犯ぶりがすごい。もはやサザンの「いとしのエリー」と一緒ですよね。マニック・ストリート・プリーチャーズがこういうことをやっていたので、そろそろそういう時期だったのかもしれませんが、ノエルの売れたるでという心意気が良いじゃないですか。このノエルの心意気がオアシスを世界一のバンドにしたのです。
でも、歌っていることはとっても切ない。この曲はイギリスがバブルに向かうことを予言した歌だった。「あんたの家の庭がきれいかどうなのかなんか知ったこっちゃない、俺はただ生きたいだけだ」というメッセージ。サッチャーが始めた誰もが家を買えるという政策が何十年もして、イギリスにバブルを生んだのです。この歌が作られら何年か後にロンドンの家は2億円にまで高騰し、何万人という億万長者を生んだが、金持ちしかロンドンに家を買えなくなった。この辺のことを書いていくと長くなるのでこの辺で。
フーリガンと言われた彼らは、ドラッグやりながら時代の変化をちゃんと感じていたのです。だからオアシスは90年を代表するバンドなんです。
2. Morning Glory
究極のコケイン・ソング。出だしの「お前の夢は鏡とカミソリで作られる」かっこよすぎるでしょう。この曲はロックンロール版『スカーフェイス』(アル・パチーノの映画ね。ラッパーたちのバイブル、成り上がってやるぜという映画)です。でも、よく聴くと、そういう生活から抜け出さないとお前はどうしようもないぜと歌っているようにも聞こえてくるんですよね。ノエルは他のメンバーから「オアシスに入ってくれよ」と頼まれて、入る条件として「毎日バンド練習すること」と他のメンバーの尻を蹴り上げただけの男です。モーニング・グローリーって、いろんな訳し方があると思いますけど、ノエルのことだから、これは“朝立ち”のことでしょう。「お前さ、毎朝、朝立ちしてるかもしれないけど、それを有効に使わないと意味ないだろ、クソ野郎」と言っている感じがします。
3. Champagne Supernova
ワーキングクラスであるノエルがウイリアム・バロウズかホーキング教授な「スーパーノヴァ」なんて高尚な言葉を使うのがかっこいいですね。それがオアシスの魅力ですよね。高等教育は受けていないけど、高等教育行けたインテリよりも物事の真実が見えている感じ。「ブラーみたいに良い学校には行っていないけど、俺たちの方が世の中の理屈分かっているぜ」みたいな。
ところでシャンペン・スーパーノヴァって一体なんなのか? 分からないですけど、シャンペンやりながらコークやることかなと思いますね。シャンペンとコーク最高ですよ。スーパーノヴァな感じがします。でも「コーク最高だぜ」という歌じゃなく、「なんでみんな夢を追い求めないんだろう」という歌です。「俺たちぶっ飛んでいるかもしれないけど、俺たちがぶっ飛んでいる間にみんな夢をあきらめていっているじゃないか」、そしてキメのフレーズは「Why」です。泣けますね。
4. Whatever
オアシスの歌の魅力とは、強いメッセージがないところです。メイビーとか、ホワイとか、そして、究極がこれでしょう。どうでもいい、です。兄弟喧嘩の歌ですけど、兄弟喧嘩なんて、最後の答えはどうでもいい、どっちでもいい、しかないですよね。絶対離れないもんだから。今は離れてしまいましたが。
まさに90年代的な歌かもしれませんね。日本でいうと原発も沖縄基地も問題は山積みだけど、生きていけるからいい。イギリスだと、バブルで格差社会で、トニー・ブレアはマードックに魂を売るような奴で新自由主義者寄りだけど、労働党が政権を取るためには仕方がないみたいな。
ブリットポップを解説した映画『リヴ・フォーエバー』における、パルプのジャーヴィス・コッカーの「コケインやって飛んでいる間に、気づいたらとんでもないことになっていたんだよね」という言葉を思い出します。
5. Some Might Say
でも、オアシスも若者のために代弁者になろうとしたこともあるんですよね。ビートルズの終焉も、パンクの終焉も知っている世代には、すごく難しいことだと思います。
6. Don’t Look Back In Anger
この曲などはノエルが今の芸術の置かれている状況を完全に把握している歌ですよね。こんな難しいことをよく理解しているというのは、やはりノエルは天才なんだと思います。しかも「ロックンロール・バンドに重荷を背負わせるな」という単純なフレーズで全てを言わせているのがすごいですね。一応ノエルはリアムに「『Wonderwall』とこの曲、どっち歌う?」とチョイスを与えたのですが、リアムにはこの曲の意味を理解するのは難しかったんでしょうね。で「Wonderwall」を選んだわけですが、結果としてコンサートでの一番盛り上がる曲をリード・シンガーが歌わないという大変なことになってしまいましたね。ニルヴァーナの「Smels Like Teen spilit」ならび、90年代、いや、現在も今の若者の気持ちを代弁している曲です。歌に突然出てくるサリーとは誰か? たぶん、ザ・フーの「Baba O’Riley」に出てくるサリーと同一人物なんでしょう。
7. Wonderwall
革命の起こらない、すべての芸術が死んでしまった世の中で僕らはどやって生きていかないとならないか? それはこの歌に出てくるようなイマジナリーフレンドを作るしなかい。すべての悪から守ってくれる究極の友だち。ノエルはそれを当時の彼女と考えて作ったわけですけど。ノエルは裏切られたなと思っているわけです。いろいろ話を聞くと、勘違いしちゃった元恋人ということですよね。
8. Slide Away
なんか、暗くなっちゃいましたね。オアシスの最高のラブソングはこっちですね。ジョニー・マーから借りたレスポール(いまだと2千万円、当時でも300万くらい)を手にしたとたんにこの曲が生まれた、とノエルが言ってます。ザ・スミス、オアシスな曲ですね。
9. Rock ‘N’ Roll Star
そしてこの曲や「Cigarettes & Alcohol」ですよね。あのインディー時代に「ロックンロールスターになりたい」という死語を歌ったんですから。完全に確信犯ですよね。この方法論また出来るんですかね?
10. Stop Crying Your Heart Out
ノエルはいつも最後には希望をくれてました。寂しいけど、なぜか元気になる、それがオアシスの一番の魅力ですね。美しい曲です。本当、すごいロック・バンドでした。前にアラン・マッギーに「マイ・ブラッディ・ヴァレンタインやジーザス&メリーチェインなどのあんたが見つけてきたバンドの再評価すごいね」とお世辞を言ったら「ケンジ、そんなんたいしたことないぞ、10年後、オアシス再評価が始まったら、大変なことになるぞ」と言ってました。その通りだと思います。
(久保憲司)
90年代を代表するUKロックバンド オアシスのデビュー・アルバム。2014年には発売20周年を迎え、世界的な再評価が高まっている。
ザ・ストーン・ローゼズのデビュー・アルバム。リリース自体は89年だが、インディーとダンスの垣根を超え、90年代を定義付けたと言われる1枚。