「変態になるのが大事」 仕事がつまらないと嘆くあなたへ、元スクエニCTOがアドバイス
教育とテクノロジーの祭典「Edu×Tech Fes 2015」。本パートでは、Life is Tech !執行役員CTOで元スクウェア・エニックスCTOの橋本善久氏が、業界内で「井の中の蛙」にならないために大切な7つのマインドを紹介します。(Edu×Tech Fes 2015より)
- ログ名
- Edu×Tech Fes 2015 / ゲーム×教育
- スピーカー
- Life is Tech ! 執行役員CTO(元スクウェア・エニックスCTO) 橋本善久 氏
「井の中の蛙」にならないために大切な7つのマインド
橋本善久氏:もう1つあって全然アングルが違うんですけど、ゲーム開発は簡単に炎上するんですよ。特に一定以上のサイズになると。ゲーム開発が炎上する主要因というのは、全部じゃないですけど、他人事、おごり、非合理、いくじなしとか大体ここら辺になるんですよ。
まとめると、炎上する理由の多くがマインドの問題だっていうのが、ずっとやってきていて思うところで、それがあった上での方法論なんですけど、マインドのところで大体こけていると。それで、ゲーム業界には「カエルさん」が結構いますという話をします。
カエルさんというのは何かっていうと、こんな感じです。
何かちょっと偉そうですよね、これね。それでよく言われるのが、井の中の蛙。でもそんな程度じゃないです。井の中の茹で蛙なんです(笑)。
井戸に入っていて視界が狭い上に、煮えたぎってるけど何かまだ偉そう、みたいな。こういうのが本当にあるんです。
冗談じゃなくて起き得るので、多分ゲーム業界でなくても起きているだろうと思ってるんですけど、結構そういう組織のメカニズム、心のメカニズムとしてこういうのはよく発生するなというふうに思っています。やっぱりカエルさんが増えないようなマインドの話をしたいっていうことです。
マインド1:終わらせる勇気を持つ
ここからその7つの話を見ていきます。1つ目、終わらせる。
これすごく重要で、何を当たり前のことを言っているんだって話かもしれませんけど、完成度曲線というのをちょっと書いてみました。
横軸が時間で完成度が縦軸で、今緑の線を引いたんですけど、これは実際の進捗の物量みたいなもんですね。オレンジのほうがアウトプットとしてどう見えるかっていうところで、比較的慣れているとか簡単めな案件っていうのは大体すぐに垂直に上がって調整でいけると思うんです。
一方、挑戦がやたら多い案件って、一生懸命頑張っているんですけれど、表から見ると全然できているように見えないわけです。中間的にあるのはここら辺をぐにゃぐにゃいって、着地していくっていうのがあると思うんですけれど、とにかくいろいろなものがあると。そこがまず重要なんですよね。
結局、なるべく左側にしたほうが安全なんですけど……。さっき紹介したAgni’s Philosophyのプロジェクトはどうだったかというと、こんな感じでベタベタに張り付いて最後にでき上がってる、みたいな超ぎりぎりのでき上がり方なんですね。
つまり締め切りに対して本当に急激にでき上がる、みたいな。
かなり挑戦的なタイトルだったので相当な覚悟を持って、なんとかでき上がったという形で、相当難易度が高いんですけど心臓にも悪いっていう感じでしたね。慣れている案件だと比較的安全、慣れていない案件だと危険みたいな話です。
あと、完成っていうのが試作の10倍以上大変っていうのは、結構Web系とかで簡単にいろいろつくれる時代だからこそ、ぶつかり得るテーマかなと思います。
例えばソニックのときも絵を出すところは実は3カ月で終わってたんですけど、その後製品としてパッケージングするときに、ディスクが全部入るのか? メモリに入るのか? 描画速度は間に合うのか? とか、ディスクから読み込みが間に合うのか? とかいろんなのを全部計算上できてたんですけど本当にできるのかっていうのはものすごく苦労して。
結局リリースする直前まで3年かけてやっていたようなものなので、やっぱりそういうのはよくあるんですよね。
あとは、確定させる恐怖、確定させない恐怖っていうのがあって、これはよくあるんですけれど、特にゲームとか考えていると、そのゲームの設定を決めてしまうというのが怖いんですよね。後戻りできないものができちゃうと。
なのでなるべく引っ張るっていうことも起き得るんですけれども、それによってグダグダになっていくっていうのがあって、もちろん確定させないことによってスケジュールが遅延するんじゃないかっていう恐怖があって、それと闘っていくことになるんですけれど、大体偉くなってくるとアウトプットしなきゃいけない責任もあって……っていうので、ひずみが発生して、アウトプットを引っ張っていく。
でも1周するんですよ。アウトプットを出せない自分に対して「いや俺はもう優秀で、イケてるクリエイターだから、こういうのはやっぱり最後に言うのが一流だ!」みたいな、意味がわからないでしょう? でも何かそういうようなことって起きるんですよね。だから1周回って……っていうのが起きるんです。
無から生み出すだけがアイデアじゃない
そこに対して重要なのがクリエイティビティー、創造力っていうのも大事なんですけれど、想像する力、イメージをちゃんとはっきりビジョンに可視化するってこと。このクリエイティビティーにみんなもっと注力したほうがいいんじゃないのかなと思っています。見えていれば大抵の場合でき上がるので。見えてないから迷ってるっていうのがあって、見えるための努力をやっぱりしたほうがいいかなと思っています。
そして力み過ぎないことが必要で、例えばアイデアを出すときも、例えばこの本。『アイデアのつくり方』っていう本があって、「アイデアとは既存の要素の新しい組み合わせ以外の何ものでもない」っていう、要するに無から生むものがアイデアなんじゃないかってプレッシャーを感じている人って結構多いと思うんですけど、でもこうだと言い切っているんですね、このジェームスさんは。
本当に無から生み出しているタイプもあるのかもしれないけど、でも多分99%こういう考え方でいいんじゃないかっていう。肩の力の抜き方っていうのもやりながらいろいろ見通しを立てていくっていうのは大事かなと。
終わらせる勇気を持つっていうのも大事で、終わらせてしまうってことは自分の能力そのものと向き合うことになるので、それが怖くて課題を上げられないとかそういうのも小さな話でもあると思うんですけれど、そういうところに対してやっぱり終わるっていう勇気を持たなきゃいけないっていうことですね。
まとめは、アイデアを生むのもクリエイティブ。アイデアを形に仕上げるのもクリエイティブだという話です。
マインド2:ちょっとした期待にこたえて、信用を積み重ねる
次に「あんぱん買ってきて」と。
これは何かと言うと、相手と自分がいてあんぱんを買うっていうのを言われたらどう思います? それを仕事で頼まれることってなかなかないと思うんですけれど、「あんぱん買ってくるの嫌だな」って思うのか、「あんぱんを買ってきて、役に立ててうれしいな」と思うのか、という話があると思うんですけれど。
ちょっとしたことに対していかに返してあげるか。期待や託してくれたことに対して、いかに大きくして返してあげるか。そのやりとりこそが大事であるっていう話ですね。なのであんぱんを買うというのを託されてちゃんと返さないと、例えば次に「コピー取って」すら頼んでくれないかもしれないとか、そういう話です。
でも「僕はそういう仕事をしに来たんじゃない」みたいなことを言うような子も存在し得るわけですけど、そういう子はもったいないなと。何でもちゃんとやってみて、信用を得て次の大きい仕事をゲットするっていうことが大事なんじゃないかと。
あんぱんを買うことすらスムーズにこなせない人に、もっと大きな仕事は頼めない。あんぱんを買うことを頼むのはちょっとブラックって言われそうな気がするんですけれど、ただの例えですね。
あと全てはつながっていて、そういったことをちゃんと積み上げて、人は自分が思っている以上にあなたのことを見ていると。やるべきことをやり抜いてそれをアウトプットすると。交流会、勉強会、ネットワーキングとか、そういうところがマニアな人もいるけれど、そっちよりもちゃんとアウトプットするってことがやっぱり大事かなと思います。
研ぎ澄ました本当に入魂の一発を出していくこと、それによって勝手に化学反応が起きるんですね。それをぜひ体感して、どんどんつくり切ってアウトプットすると本当につながっていく。そういったものを体験してもらうといいかなと思います。
そして、誠実に物事を進めて信頼の福利を積み重ねる。投資と一緒です。信用をもらって返して、また大きい信用をもらって大きく返す。そういったことを積み重ねるのが大事だと思います。
マインド3:行動原理をポジティブに
あと、おはようございます! って書いてますけれど、これはポジティブなスパイラル、ネガティブなスパイラルという話です。挨拶をしたときに、自分が相手と気まずいからする挨拶っていうネガティブな理由と、挨拶をすることで相手が気持ちよくなってくれることがうれしくって、自分もうれしいというそういうスパイラル。両方あると思うんですけれど、そういう話です。
それが人に対して優しいっていうのも同じだと思っていて、嫌われたくないから優しいことをしてみるというのと、本当に相手のことを思って優しくするって、表面上は同じでも結構違う動機、行動原理で動いているので、仕事とかビジネスも一緒だろうと考えています。
さっきのS君が言っていた名声も多分一緒で、名声を得るということを目的にしてアクションしていると、多分どっかでひずみが出るだろうというふうに僕は考えています。
どっちかというとそれをちゃんと、「何かおもしろいものを世の中に出したい」とか無邪気な気持ちでどんどんやっていったら結果もついてくるっていうケースが、過去のいろいろな活躍されている方々を見て、そうなんじゃないのかなと思ったりします。
あと言葉も大切で、マザー・テレサの言葉ですけど、「思考に気をつけなさい、それはいつか言葉になるから。言葉に気をつけなさい、それはいつか行動になるから」。これ、続けていくと行動が習慣に、習慣が生活に、生活が運命になる。
要は思考や言葉にちゃんと気をつけていくことが、結局自分自身の人生も決めていくという話だと思うんですけれど、結構あり得る話かなと思うんですね。例として言葉を気をつけたほうがいいんじゃないかと思うのが、「内定を蹴る」という言葉をよく聞くんですけど、結構このマインドはまずいんじゃないかなと思っています。
内定というのは出していただいた、自分を認めていただいた相手なのに蹴るというワードを使うマインド。そういうのをちょっと直していかないと、多分どこかでひずみが出るんじゃないの? っていうような話です。ちょっとこれは飛ばします。
何を得られるかの前に何を与えられるかを考えていくべきであるというふうに考えています。
マインド4:とにかく自分を信じて進む
あと、変態。
これは面接でよくある風景なんですけど、「御社にどうしても入りたいんです。ゲームつくりたいです」って言うんですけど、実は全然ゲームづくりをやったことがないし、ゲームもプレイしていないみたいな人がすごく多くて。
何かをその分野でやり遂げるという意味でいうと、「本当に好きっていうのは何なんだろう?」みたいなところで、変態になるっていうことは大事かなと思っています。
「やりたいことが見つからない」っていう話もよくあると思うんですけれど、「やりたいことが多過ぎてどれをやればいいのか決められない」っていうほうにいってくれるんだったらいいと思うんですけれど、何かそこの違いっていうのが重要かなと思います。
僕はどんな仕事もクリエイティブだと思っていて、どれもおもしろいと思うんですけれど、もし仕事がつまらないとか思うんだったら、もしかしたら自分自身の視点を変えたほうがいいかもしれないということですね。
おもしろさに気づくっていうのは、やっぱり想像力を磨くことでいろんな目の前のおもしろさに気づいて仕事も楽しくなってくるかもしれない、そういう話ですね。それで「盲信して、猛進する」ってこれ、Tehu君の言葉なんですけど、これ、いい言葉だなと思って。
とにかく自分も信じるし、その結果も信じてガンガン行くと。これはやっぱり大事だなと思います。
それでまとめとして、理知的にがむしゃらに行こう、と。
マインド5:タスク管理
そして次、段取りっていうのが大事。
これも巻いていきますね。タスク管理。これを学校で教えてもいいんじゃないかと思います。これが致命的にできないケースが多いので。これは読まなくてもいいですよ。こういう当たり前のことがあって、あまりにも普通。でもできない人が多い。だからそういうのをちゃんとやったほうがやっぱりいいかもしれませんよっていう話ですね。
例えばこういう本とかKindleでしか買えないんですけれど、こういうの漫画で描いてあって結構読みやすくて、でもわりといいことが書いてあります。お勧めです。あと犬小屋と超高層ビルみたいな話があって、小さいソフトウェアと大きいソフトウェアをつくるので同じつくり方をやるケースがすごく多くて、でも犬小屋と超高層ビルだったら絶対に同じつくり方しないじゃないですか。
絶対にビルのほうが大変で、40階のをつくっていたのに、「やっぱり60階にします」っていうのは絶対に無理。そういうのがわかるのにソフトウェアになると大体間違えるってのがあって、だからそういうのもソフトウェア系のほうに仕事を進めようとするとぶち当たる壁になるので、気をつけたほうがいいですよっていう話ですね。
これは計画をしましょうっていう話で、無計画に歩いて順調に思おうとして調査もしないでいくと、順調に見えるんですけれど、最後にゴールに到達できなかったみたいなケースがよくあって、実はこっちが正解で、調査をあらかじめしておくことで手を抜かず、遠回りもせずに済むみたいなこともあるので、そういうのも気をつけたほうがいいと思いますっていうことです。
タスク管理の方法を身につけようと。
マインド6:相手の心を想像する
あと、おもてなしの心。
1回バズワードになっちゃったんであれですけど、大事かなと思うんですよね、おもてなしっていうのは。このAgni’s Philosophyのときもビリーバビリティという言葉をちょっと重視していて。
例えばファンタジーのキャラクターがものすごいでっかいグーで殴られて壁際に吹き飛ばされて、血は出るけど骨はほとんど折れてなくて、普通だったら内臓破裂してると思うんですけど、でも大丈夫……みたいなのって、外国人って結構そういうのを気にする人多いみたいなんですよね。そういうのを気をつけてつくっていました。
ベイマックスなんかすごくいい例で、ベイマックスは飛ぶんですけど、そのときに主人公のヒロ君が背中に乗っかるんですよね。そのときに2秒ぐらいなんですけど、磁石でペタ、ペタって手と足がくっつくというのをわざわざ見せてあげてるんです。
それによって、普通飛び乗ってビューンって飛び上がっていくと、振り切れて落ちちゃうっていう心配を見てる側がしてしまうと思うんですけど、そういうのを心配させずに済むような設定をちゃんと見せてあげるっていうおもてなしをしてるという例になっていて、ディズニー、ジョン・ラセターたちがちゃんとそこを気配りしているというのがよくわかる例だなと思いました。
テレビのリモコンなんかもそうなんですけれど、「使い手のことをあんまり考えていないのかな?」とか思っちゃうんですよね。
相手の心の中における作用を想像して1個1個のアクションをしていくほうがやっぱり重要かなと思っています。
マインド7:武器としてプログラミングを学ぶ
最後です、プログラミング。
一番大事なのがプログラミングの作用のところで、経済格差が今後もしかしたら起きるかもしれないっていうのがありますけど、もう1個気をつけたほうがいいと思うのは、「やりがい格差」が広がるかもしれないというところです。
そのやりがい格差を埋めるっていう意味でも、プログラミングを身につけておくと幅が広がるっていうのがあるので、どんな職種であっても、プログラミングをしないとしても知っておくことでいろんな幅が広がり得るっていう意味でお勧めかなって思っています。
ちょっと写真を持ってこれなかったんですけど、リクルートさんがやっていたプログラミングコンテスト。先日やっていたんですけど、社会人も参加できるやつで、中学生が優勝したんですよね。びっくりしたんですけど、やっぱりプログラミングっていうのは誰にでもできるし、年齢も関係ない。若い子でもできる。
これにはもう1個意味があって、若くてもいいし年を取っていてもいい。誰でも年齢は関係ないというところがあるので、そういった意味でやっぱりプログラミングをちゃんとやるってことが1つ人生の分岐点になり得るっていうふうに思います。
あと、シンギュラリティ。先ほどもワードが出ていましたけど、「AIが進化し過ぎて世の中の構造が根本的に変わるかもしれない」とかそういうところもありますし、あとは例えば「職業の半分は10年後にはないかもしれない」なんていう記事も最近よく見ますけど、働き方も会社で働くっていうことそのものの概念が変わるかもしれない。
そういう時代の中でプログラミングを知っているとすごく武器になると思います。
まとめとしては、社会の仕組みを知る手がかりとして、働く際の武器として、あとは人生の彩りとしてプログラミングを学ぶっていうのがやはりお勧めかなというふうに考えています。
それで、私としてはライフイズテックという場所で、中高生を軸に未来をつくるためのお手伝いをしっかりやっていければと思いますし、それを行うことによって日本全体に対してのプラスの作用を起こせるんじゃないかっていうふうに、私のみならずライフイズテック一同本当に思っているというのがあって、それをやり遂げたいなというふうに考えています。
ありがとうございます。