東前頭3枚目の佐田の海(28=境川)が、うれしい初金星を挙げた。横綱日馬富士(31)を取り直しの末に引っ掛けで破り、初日から4連勝。2年前の左眼窩(がんか)底骨折など故障に泣いてきた苦労人が、あきらめない相撲で波乱の立役者となった。08年九州場所以来7年ぶりに、4日目終了時で横綱、大関陣に勝ちっ放しがいなくなった。

 あきらめない男の生きざまを、土俵で体現した。取り直しの一番。佐田の海は日馬富士の右のど輪に、上体をのけぞらせて後退したが、執念で粘った。右腕を命綱のように手繰って、瞬時に左に回り込む。最後は左足1本で残ると、横綱は頭から土俵下へと飛び出していた。

 「すごいうれしい。座布団が飛んでいたのを見て、本当に勝ったんだと思った」。昨年夏場所の新入幕から1年でつかんだ初金星。若い衆のころから「ああいうスピードある相撲を取りたい」と憧れた横綱から奪い取った。

 苦難の時を経て今がある。10年名古屋で新十両も、11年秋場所千秋楽で右足を脱臼骨折し、12年から幕下生活が続いた。13年春場所では左眼窩底骨折で、視界が二重にぼやけた。医師からは「治らない人もいる」と言われた。「正直相撲を取れないな、と。やめたいと思った」。だが師匠の境川親方が「チャンスはくる。腐らずやれ」と励ましてくれた。「その言葉がなかったら、やめてたかもしれない」と佐田の海。審判委員で土俵下にいた師匠に、最高の恩返しをした。

 勝ちっ放しの横綱に土をつけ、初日から4連勝。追い続けていた父の先代佐田の海(元小結)の背中も見えてきた。「オヤジは三役だったんで。三役に上がりたい。そこを目指して相撲界に入ったから」。父が獲得できなかった金星だけでは満足しない。得意の速攻で、三役の座も奪い取るつもりだ。【木村有三】

 ◆佐田の海貴士(さだのうみ・たかし)1987年(昭62)5月11日、熊本県生まれ。本名・松村要(まつむら・かなめ)。03年春場所初土俵。14年夏場所新入幕で10勝し敢闘賞受賞。通算324勝288敗17休。スポーツ歴は水泳、サッカー。183センチ、138キロ。

 ◆引っ掛け 82手ある決まり手の中で、「特殊技」に分類される技の1つ。突っ張りなどで攻めてきた相手の腕を両手でつかみ、引っ掛けるようにして体を開き、相手を前に落とすか、土俵の外に出す。