携帯電話の衛星利用測位システム(GPS)情報を犯罪捜査に活用しやすくするため、総務省は通信事業者向けの指針の見直しを進めている。
6月にも運用開始するという。
GPS情報は携帯を持つ人の位置をピンポイントで把握できる。
現行は情報を取得する際、捜査機関が情報を得ていることを相手に通知しなければならない。
新指針ではこの手続きが不要となり、本人に気づかれずに居場所を特定できるようになる。
犯罪と無関係の行動も常時把握されかねない。こんな重要なことが指針の見直しだけで行われていいわけがない。野放図になる可能性がある限り、認められない。
GPSの発信器をこっそり車に取り付け、捜査対象者を監視する手法は各地で行われている。
愛知県では県警のこうした捜査でプライバシーを侵害されたとして、県に損害賠償を求める訴訟が起こされている。
今年3月には大阪地裁が窃盗の刑事裁判の判決の中で、同様の捜査手法を適法と判断した。
しかし一部専門家からは、令状なしに詳細な位置情報を無断で把握するのは行き過ぎだとの批判も出ている。
新指針は問題の多いこうした捜査手法をさらに拡大するものだ。
裁判所から令状を取り、携帯電話会社などに捜査対象者の携帯番号を伝えれば、携帯所有者の位置情報を知ることができる。
特殊詐欺や誘拐など、犯人の居場所が分からない事件の捜査に役立つと言われる。
現行の指針では裁判所の許可を取った上で、情報取得を本人に知らせなければならなかった。
そのため、容疑者が逃げたり証拠を隠したりする恐れがあり、現実の捜査には活用しにくかった。
新指針は本人に通知する必要がない。本人が気づかないまま、どの建物に、どのくらいの時間滞在していたのか、24時間監視される可能性もある。
総務省は新指針でも裁判所の許可が必要なため、捜査機関の乱用に歯止めがかけられるとする。
だが、思想信条など犯罪と無関係のプライバシーまで侵害される恐れは拭い切れない。
こうした捜査手法を認めるならば、刑事訴訟法でしっかり規定すべきだ。
対象となる犯罪の種類や情報取得の期間、事後であっても本人への通知を義務化することなど、厳格なルール整備を求めたい。