衆院憲法審査会が今国会初の実質討議に入り、各党がそれぞれの見解を明らかにした。
自民党は優先的に論ずべきテーマとして災害時などに国政選挙を延期する「緊急事態条項」、国民の「環境権」、財政赤字の拡大を防ぐ「財政規律条項」を挙げた。
野党からは慎重論が相次いだが、一部で同調する意見もあった。
疑問なのは最初から現在の憲法を否定して具体論に進もうとする自民党の姿勢だ。戦後の平和や民主主義に果たした現憲法の役割をどう考えるか。そこを聞きたい。
まず改憲ありきでなく、あらゆる論点を掘り起こして、徹底的な議論を尽くすことが肝心だ。
自民党は現在の憲法が連合国軍総司令部(GHQ)による「押しつけ」の憲法だとして、時代に合った改正の必要性を主張した。
共産党は「憲法は戦後日本の出発点」として、自民党の憲法観を批判した。民主党は「押しつけ」だから改憲するという主張の是非を各党で確認するよう求めた。
重視すべきは押しつけの有無よりも、現行憲法がすでに国民に定着している事実ではないか。
改憲を目指す党は「どこを変えるか」という議論に傾きがちだ。その前に改憲が必要か否かの議論をもっと深めなければならない。
「緊急事態条項」については民主、公明、維新、次世代の各党も必要性を認めた。だが改憲が不可欠かは、なお議論の余地がある。非常時を理由に政府の権限が強大化することへの懸念も拭えない。
「環境権」は公明党が慎重論に転じた。現憲法で足りているとの見方だ。「財政規律条項」に対しては、維新の党内に財務当局の影響力増大を心配する声がある。いずれも十分な討議を要する。
民主党は理解を得やすい3項目を先行させ、「本丸」である9条を後回しにする自民党の姿勢を「お試し改憲」だと批判した。
自民党は「全ての憲法改正はお試しではなく真剣だ」と反論したが、合意の得やすさより必要性を重視する意見は与党内にもある。まやかしは排除すべきだ。
集団的自衛権の行使容認の閣議決定について民主党は立憲主義に反すると批判した。こうした強引な解釈改憲を戒める議論も憲法審査会には求められよう。
自民党は来年の参院選後の改憲発議を目指し議論を急ぐ。維新、次世代両党も積極姿勢だが、目指す改憲の中身には違いがある。時間的な制限を設けずに、本質の議論を掘り下げてもらいたい。