大接戦との予想は外れた。
英総選挙(下院、定数650)は、与党保守党が過半数を獲得し勝利した。最大野党労働党は議席を減らし惨敗した。
財政再建や経済政策が大きな争点となった。キャメロン政権の緊縮財政には批判も根強かったが、経済復調を評価する浮動票が土壇場で保守党に流れたようだ。
前回総選挙で起きたハング・パーラメント(中ぶらりん議会)は解消され、キャメロン首相続投が確実となった。安定政権を背景に格差拡大など英国が抱える深刻な問題にメスを入れてもらいたい。
選挙戦では自治権拡大や地方重視などを訴える少数政党が注目された。その象徴がスコットランド独立を求めるスコットランド国民党(SNP)の躍進だ。
有権者の価値観が多様化している。地方や少数派の声に耳を傾ける政治が求められる。
英国では保守党が上・中流層を、労働党が労働者層をそれぞれ支持基盤としてきた。だが階級が崩れ、中間層が拡大すると、両党とも中道寄りの政策を掲げた。
さらに社会がグローバル化し、二大政党だけでは民意をくみ取れなくなった。今回もどちらが勝っても過半数に届かず、他党の協力が必要とみられていた。
それでも保守党が過半数を制したのは、二大政党制が揺らぎ、不安定化することを望まない層が少なからずいるということだ。
一方、6議席から50議席台に急伸したSNPの躍進は特筆される。契機は昨秋のスコットランド独立の是非を問う住民投票だ。独立反対が多数を占めたが、「自治」への関心が一気に高まった。
SNPは緊縮財政に反対し、核兵器撤去を求める。大胆な主張が国政に及ぼす影響は決して小さくないだろう。
逆に大票田だったスコットランドで歴史的敗北を喫した労働党は、党勢の立て直しが急務だ。
単純小選挙区制ゆえ、支持率ほど議席を伸ばせなかったが、英国独立党が訴える欧州連合(EU)離脱問題も争点となった。
気になるのは、保守党がEU残留の是非を問う国民投票の実施を公約していることだ。東欧からの移民急増で保守層や低所得者層の不満が高まっている背景がある。
2度の大戦の反省からEUは経済、政治の統合を推進してきた。
労働党は離脱に反対している。投票を急ぐのではなく、議会で十分な議論をすべきだ。多様な価値観を合意に導く政治が大切だ。