野菜や食肉、魚介類などの価格は全国の卸売市場で決まる。産地が小売りなどと直接取引する場合も、卸売相場を参考に交渉で価格を決めることが多い。しかし、コメは価格の指標になる「公正で活発な取引市場」が存在しない。政府は農業改革の柱としてコメ市場の育成を急ぐべきだ。
政府の産業競争力会議は2018年にコメの生産調整(減反)がなくなるため、農林水産省と民間が協力して現物市場の取引を拡大するよう求めている。需給の過不足は市場を通じて調整するようになるのだから、産業競争力会議の提言は当然だ。
しかし、政府は減反廃止を打ち出す一方で、補助金によって家畜飼料米などの生産を増やし、食べるコメの供給過剰を抑えようと考えている。これでは政府がコメなどを全量管理していた食糧管理法時代の発想を抜け出していない。
コメの価格形成は市場に委ねるのが政府の基本方針のはずだ。それならば生産者や卸会社、小売り、消費者が納得できる価格形成の場が必要になる。
中央卸売市場や1990年に創設した自主流通米価格形成機構(後のコメ価格センター、11年に廃止)のように公設の取引所である必要はない。既存の民間取引市場に加え、コメ卸の団体は7月に新たな市場を立ち上げる計画だ。大阪堂島商品取引所が運営するコメの先物市場もある。
こうした市場はまだ規模が小さい。政府が取引拡大を後押しすべきだ。とりわけ大規模な農業法人や地域の農業協同組合、上部団体である全国農協連合会(JA全農)などに市場参加を働きかける政策は重要だ。複数の取引所が育ち、それらの相場を総合して指標にする利用方法も考えられる。
活発なコメ取引市場は生産者にとっても有益だ。市場を通じて需要変化などの情報を迅速に入手し、先物市場を利用して販売価格の確定もできる。政府は農業改革で地域農協や農家に経営感覚を求める。経営感覚を磨くためにも活発な市場はいる。
農家や地域の農協はコメの価格形成を市場に委ねたうえで、小売りとの長期契約を増やす対応などを進め、価格変化の影響を軽減する努力をしてもらいたい。農協が農家に払うコメ代金も全国一律に算定手法を決めるのではなく、それぞれの農協と農家が合理的な手法を考えるのが筋だ。